【2025国際協同組合年に向けて】今、なぜ協同組合が大切なのか 日本労働者協同組合連合会 理事長 古村伸宏氏2024年7月11日
国連総会は昨年12月、2025年を2012年に続き2回目の国際協同組合年とする決議を採択した。これを受けて日本の協同組合は7月9日、「2025国際協同組合年全国実行委員会」を立ち上げ、協同組合の存在とその取り組みを広く発信していく。実行委員会の立ち上げを機に、日本労働者協同組合連合会の古村伸宏理事長に「なぜ、今、協同組合が大切なのか」を寄せてもらった。
日本労働者協同組合連合会理事長 古村伸宏氏
深刻化する世界の危機
再び国際協同組合年(IYC2025)がやってくる。国連決議(2023年12月19日)を読むと、SDGs達成が困難な状況と、深刻化する複合的な危機感が伝わってくる。
日本におけるIYC2025は、2012年と比して異なる状況と、今なお継続する課題が交錯する。異なる状況とは、前回IYCの成果である日本協同組合連携機構(JCA)が存在することであり、継続する課題とは、東日本大震災以降、連続的・構造的な社会課題が頻出し、度重なる自然災害の多発を凌ぐ間もなく、人々の絶望と混迷が極まりつつあるということである。
世界に目を転じれば、ウクライナやパレスチナ・ガザなどでの悲惨な戦禍が深刻化し、世界的な対立構造の激化を象徴しているが、これを自分事として捉えられない人々の意識の中に、分断の構造がもたらす深刻さが垣間見える。
協同組合への期待を歓迎しつつも、前回IYCにも増して問われているのは、期待と裏腹の関係にある、様々な複合的で構造的な危機を、私たちはどのように受け止め、自覚し、打開しようとしているのか、ということである。その意味でIYC2025は、根源的で具体的な思考とアクションが求められている。根源的とは、協同組合の歴史を紐解き、今を再評価し、その中から人間の協同性を深く多面的に問い直すことである。
「人間」を問い直す
この問いは、「人間という生きもの」を問い直すことでもあり、人間の営為である労働・生活・教育・福祉・産業・経済・文化などを「協同の原理」で編み直す戦略を持つということだ。その上で、具体的なアクションとは、今を手放しに肯定するのではなく、あらゆる場面・あらゆる人々の中にある「分断」の芽を摘み、「協同」の種とその営みを見出し、紡ぎ出し、編み直していくことではないだろうか。その端緒を開くのは、JCAの発足以降各地で広がる「連携」を「組合員の実感」とし、これを地域・市民がつながる契機とすることである。
異なる個性のつながりを
IYC2025は、人々の「協同」の営みを編み直し、すべての人々の生存と尊厳を価値とする社会へと舵を切るという、歴史的な転換を意味するように思う。大きなこの目標は、あらゆる人間の営為を協同の原理に編み直す、ローカルでしなやかな実践の総和によって描かれなければならない。分野やテーマをこえ、違いや個性を認め合い、「多様性」に価値をおく「つながり」「共存」を体感する人々を広げていくということだ。自らを「専門性」という閉ざされた檻から解放し、異なる「個性」が「人間性」という希望でつながること。協同組合は、それ自身がこうしたつながりのある豊かな「コミュニティ」であり、無数の「コミュニティ」を地域に生み出し、人々が複数の多様な所属と役割が得られるよう、努力を重ねる時である。「誰一人取り残さない」というスローガンは、人々の中にある「多様性」を開花させることで、より実現性が高まる。そして、誰一人「殺さない」「否定しない」「排除しない」といった、より具体的な思考とアクションにブレイクダウンしていかなければならない。
「協同組合を作る」経験
2022年に施行された労働者協同組合法によって設立された組織は、まもなく100を越える。その評価はこれから深めていくことになるが、「協同組合をつくる」経験が容易になった意味は大きい。それは決して規模で測られるのではなく、先駆者の「協同の体感」とその「組織化」が、すべての人々にとって可能であるというメッセージとなっていくだろう。そこでは、誰もが主体者であり当事者であるという実感が生まれ、交差し、対話を豊かに形成していくだろう。また「働く」ことを協同化するチャレンジは、組合員に止まらず、人々と地域の「仕事」に対する主体性と当事者性を育む。その「仕事」は地域を問い直し、それを為す人々の「学び」や「育ち」を呼び起こす。また、人間中心の思考を自然や地球に向ける中で、本質的な「多様性」を知り「共存」の意味を実感することにも通ずるはずだ。
競争から協同へ
課題や困難・危機は山積している。しかし、これらの根底には、競争こそがよりよい社会と未来を拓くと錯覚させてきた社会構造がある。競争を是とする社会は、分断・対立・排除・独占を過熱させ、人々の欲望を暴走させてきた。こうしたあり方を「協同の原理」に転換し乗り越えていく力は、悲壮感や切迫感ばかりではない。むしろ希望や夢、そして幸福感や楽しさ・喜び・心地よさといったものが不可欠である。こうした歓喜の共鳴とその輪に大きく包まれていると感じることこそが、努力の継続を励まし、協同の営為を持続的に育むカギを握っている。協同を生み育て編み上げる、そして協同組合をつくり育て合う、こうした営みを縦横に結び、ラジカルな学びとアクションが乱舞するIYC2025を思い描き、豊かな無数のつながりを編み出していきたい。よりよい世界を築く主人公は、一人ひとりの市民だという自覚と実感を広げながら。
(関連記事)
2025国際協同組合年 全国実行委員会 立ち上げ
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