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【農協人文化賞】「農」を基にした地域づくりを2013年6月21日

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 6月17日、「農協運動の運動の仲間達が贈る第35回農協人文化賞」の表彰式が行われ、それに続き受賞者をパネリストとした記念シンポジウムが行われた。
 いま、農村の生活、農業の振興にとって大きな課題のひとつに集落営農がある。営農部門でそれぞれ特性のある地域のJA役員が受賞しており、それぞれの体験を踏まえ、突っ込んだ意見交換した。ほかにJAの運営、トップに求められる資質などが話題に挙がった。今村奈良臣・農協人文化賞選考委員会委員長(東京大学名誉教授)と石田正昭・三重大学教授がコーディネーターを務めた。(文中かっこ内は受賞部門)

集落営農・法人を育て
持続的農業へ

齋田一除氏【集落営農】
地域の特性を活かして

 今回の受賞者は富山県のJA福光、岩手県のJAいわて中央、新潟県のJAえちご上越など、集落営農や農業法人化による生産組織化に先進的に取り組んでいるJAが含まれる。シンポジウムでは各JAの取り組みを聞いた。
 集落営農の組織化が進んでいるJA福光代表理事組合長の齋田一除氏(営農事業部門)は「農業を持続発展させるためには集落の機能が欠かせない」と強調する。 熊谷健一氏JAいわて中央の理事で、960haの「農事組合法人となん」の組合長である熊谷健一氏(営農事業部門)は、「農地を出して、受けるということだけでは集落は成り立たない。生活環境をどうするのか。子供やお年寄りがそれぞれ役割を持ち、働く喜びを感じてもらうことが重要。それは5年、10年の問題ではない」と、将来の日本の農村の営農と生活のあり方を視野に入れたビジョンの必要性を強調する。
 また、JAいわて花巻代表理事組合長の高橋専太郎氏(一般文化部門)も「農業がなくなると集落がなくなる」と指摘し、集落を基本とした農家組合の育成に力を入れる。高橋専太郎氏同JAの農家組合には組合長のほか、営農部長、生活部長がおり、営農だけでなく、コミュニケーションの場、人づくりの場でもある。「農家組合がしっかりしているのが強み。持続可能な農業は集落営農にある。勤めに出ている後継者を含め、みんなで営農振興を考えるよう働きかけている」という。ただ、「集落営農は国の補助金がなければ成り立たない」と厳しい現実も指摘する。
遠山建治氏 一方、集落営農を必要としながらも、家族経営の重要性を指摘するのはJA香川中央会・前代表監事の遠山建治氏(一般文化部門)。「2代、3代と農家を維持するには家族経営を基本としなければならない。今はあまり家族経営といわなくなった」ことを憂う。実際、農業センサスでも「農家」を「農業経営体」というようになった。
 なお、コーディネーターの今村奈良臣氏は、地域による集落営農の性格の違いについて話した。現在、集落営農の盛んな北陸、それに広島県などは歴史的に宗教的(浄土真宗)な結束が強く、集落は個別農家の横のつながりからなる。これに対して、主に東北では家長を中心にした縦のつながりが強いと指摘。従って集落営農は全国一律に考えることはできず、地域に応じたあり方を追求する必要があることを示唆した。

(写真)
(上から)齋田一除氏、熊谷健一氏、高橋専太郎氏、遠山建治氏


【中山間地農業】
JAの直接経営に活路

服部武氏 平地の水田地帯より条件の悪い中山間地農業は生産の組織化が難しい。中山間の農業振興で頭を痛める新潟県JAえちご上越経営管理委員会会長の服部武氏(共済事業部門)は「集落営農など、担い手育成オンリーの政策になっているが、個別小農家も育てないと農業の多面的機能もだめになる」と指摘。
 また、JA愛知東代表理事組合長の河合勝正氏(信用部門)も、「基盤整備した平地は何とかなるが、山間の急峻な農地は荒廃化するばかり。国の後押しがなければどうにもならない」と、中山間地の厳しい現実を訴える。河合勝正氏その上で、高齢化率52%の自分の住む集落を例に挙げ、「それでも畦畔の草取りなど、集落でやっている。結(ゆい)の精神で支え合っている。これを大事にしたい」と言う。
堀川千秋氏 管内そのものが中山間地にある山梨県JA梨北代表理事組合長の堀川千秋氏(営農事業部門)は、「基盤整備しても3、4メートルの段差ができる。集落営農の法人化を進めているが、条件のよいところに限られる。特に、機械化できない果樹地の荒廃が激しいという。
 そこで、今年からJA自ら営農に取り組み始めた。「果樹+野菜+水稲の農業形態を確立したい」と、地域農業の活路を見出そうとしている。

(写真)
(上から)服部武氏、河合勝正氏、堀川千秋氏


【震災復興】
JA出資型法人育成で

高野秀策氏 東日本大震災からの農業復興で、生産の組織化を大胆に進めているJA仙台も集落営農、生産法人育成に力を入れている。同JA代表理事組合長の高野秀策氏(震災復興特別賞)は、「震災前の状態に戻る復旧ではなく、農業で生活できる農業地帯をつくっていく」と抱負を語る。そのため大規模ほ場整備を前提に、集落営農組織や農業法人による米・麦・大豆作の経営や6次産業化による所得の拡大を目指す。また津波で生産資材を失った集落営農10組織に対して、国の復興資金を使ったリース事業を導入。主要農業機械やパイプハウスなどの施設を整備。さらにJA出資型法人の設立に取り組む。「これによって地域農業の担い手を明確にして、後継者が経営を維持し、農業で生活できるようにする」という。中山間地にも拡げる考えだ。
羽田正治氏 状況は異なるが、宮崎県は平成22年の口蹄疫に打ちひしがれた産地を、全国和牛能力共進会で日本一になるまでに復興・再生させた。陣頭指揮に当たったJA宮崎経済連代表理事会長の羽田正治氏(経済事業部門)はその経験から、「天災は防げないが被害の拡大は防ぐことができる。肝心なことは危機に際して最悪を想定し、人間の英知を共有・結集し、対策にあたることだ」と、危機管理についての心構えを述べた。

(写真)
(上から)高野秀策氏、羽田正治氏


【女性部・福祉活動】
JAらしい活動を前面に

海野フミ子氏 女性部はJAの地域活動にとってなくてはならない存在だ。農産物の直売所や介護・福祉事業の中核となっている。農産物直売所の設置を機に、女性部活動を活性化させたJA静岡市理事の海野フミ子さん(一般文化部門)は、女性部のエネルギーをJAへの経営参画に向けた。現在、女性の総代が20%を占める。「農業を担っているのは半分が女性。総代が50%になってもおかしくない」と、一層の拡大をめざす。
北潮子氏 同じく女性部活動で福祉事業に取り組んできたJAかみましき福祉部福祉センター長の北潮子さん(福祉事業部門)は、認知症のそれぞれの段階に応じた介護や、老人ホームなどの施設を地域包括ケア体制を確立。「認知症になっても、その人らしい生活を送れるよう支援するのがJAの役割」と言い切る。

(写真)
(上から)海野フミ子氏、北潮子氏


【福祉医療】
住民と共に歩む病院へ

早川富博氏 いまや農村、都市を問わず高齢者の医療が問題になっているが、先行する中山間地で医療に従事するJA愛知厚生連足助病院長の早川富博氏(厚生事業部門)は、病院を地域コミュニティの中心と位置付ける。病院内にサロンを設け、運営は住民に任せる。「先端のIT(情報技術)を使っても、地域の人のつながりがないと徒労に終わる。今後も住民が病院運営に参加しているという意識が持てるよう。開かれた病院づくりを目指す」と、地域とともに歩む、将来のあるべき病院像を示した。

(写真)
早川富博氏


【組織強化】
組織の根っ子は現場に

須藤正敏氏 受賞者はJAの常勤役員が多い。それぞれ組合員の願いに応えながら、健全な組織運営に勤めてきた。JA東京むさし代表理事組合長の須藤正敏氏(一般文化部門)は、「青壮年部と女性部の組織活動と財務基盤、この2つがしっかりしているとJAは鬼に金棒」と、大都市にあって農を基にした知己づくりに必要な条件を挙げる。
 地方銀行からJAの役員になった島根県JAいずも代表理事常務の井上幸雄氏(信用事業部門)は、「集落営農や農業法人がふえると、資材の購入などは入札になる。当然、商社などが出ている。JAはより高い経営感覚が求められる」と指摘。その上で「農協も企業も、組織の根っ子は現場にある。井上幸雄氏現場主義に徹し、仕事は厳しく、狙ったものは必ず得るという職場風土の醸成が必要」と言う。
 農協の強味の活用を強調するのは県1農協であるJAならけん代表理事理事長の中出篤伸氏(共済事業部門)は、農協の強味として総合性・組織性・地域性の3つを挙げ、特に地域社会に密着して組織されていることから「役職員が現場に出て、コミュニケーションをはかり、組合員の意思を反映させることが組織基盤の強化につながる」と、やはり現場重視の必要性を強調した。

中出篤伸氏(写真)
(上から)須藤正敏氏、井上幸雄氏、中出篤伸氏

【JAの役員】
トップに必要なリーダーシップ

 シンポジウムでは、最後にJAのトップ(役員)に求められる資質と抱負を「一言」ずつ聞いた。「農協に任せたら安心と言われる経営目指す」(須藤氏)、「リーダーシップ。受賞者の体験発表と意見交換に聞き入る参加者切り込み隊長であれ。目標を一つひとつ確実に実現すること。それを職員はみて『やろう』というムードが生まれる」(井上氏)、「決断力とリーダーシップ」(服部氏)、「汚れたところにも手をいれることができること」(中出氏)、「リーダーシップ」(遠山氏)、「組合員目線とバイタリティ」(高橋氏)、「リーダーシップと決断力。率先垂範」(?野氏)。「『非組合員のメリットは』と聞かれるが、そのような質問がでないようなJAに」(齋田氏)、「すべて自分で責任がとれること」(堀川氏)、「現状を直視し、将来のビジョンを語る能力」(羽田氏)

(写真)
受賞者の体験発表と意見交換に聞き入る参加者


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