JC総研、震災復興と協同組合の役割で公開研究会2013年7月11日
田代洋一・大妻女子大教授の報告から
JC総研は6月30日、「東日本大震災からの復興と協同組合の役割・課題」のテーマで公開研究会を開いた。この中から、現地調査をもとに、農業の復興と農協の役割について報告した大妻女子大学・田代洋一教授の講演要旨を紹介する。同教授は「土地利用型大型経営でなく施設園芸を含めた複合経営を導入すべき」と指摘。また震災で明らかになったこととしてJAの「地域協同組合」化の方向を示唆した。
複合経営で一律排し、地域の創意生かせ
◆日本農業の困難を凝縮
被災地の農業は、今日の日本農業の困難さを極限化したようなものだ。さまざまなファクターを含んでおり、それぞれの人のスタンス、言動が試されている。JAの関心が薄かったという声もあるが、目立てばいいというものではない。JAは事業体であり、事業を通じて、現実にどのようなことができるかが一番のポイントである。
重要なことは、被災地の農業、農地、農村の持続可能性をどう維持してくか、再編方向はどうか、にある。私は今の実態を“限界農業”と呼んでいるが、現実の農業は65歳以上の従事者が半分以上を占める。それとアベノミクスによる政権交代期の農政。この2つが震災によって凝縮した形で、集約的に現れている。それに各団体、研究者、あるいはNPOがどう対応するのかが問われている。
仙台市、名取市、亘理町、東松島市、南相馬市などで農業者、JA、自治体のヒアリング調査をした。残念なのは名取市の閖上地区などの沿岸部だ。都市計画ができていないせいか、津波から2年たった今も、なんの復興の手がかりもみえない。こうしたなかからJAに求められているものを挙げる。
現地では、既存の農政路線の追求、つまり一律の1ha圃場整備、大規模農業化の方向で復興に取り組んでいる。農家は施設も機械も流されたため、行政はこの機会とばかりに大規模化を目指そうとしている。各自治体が「人・農地プラン」の計画などで示しているように、認定農業者を担い手とした個人4ha以上、集団20ha以上という路線だ。大規模化が進むとは思うが、問題は法人化・施設型農業化など画一的な施策にある。施設化は高設ベッド・養液栽培方式で、それ以外は交付金対象として認めないという。それと6次産業化、また仙台平野を中心とした農外資本の動きがある。そのへんの動きをきちんとみておかなければならない。
災害という緊急時でありながら、自治体レベルでは平時型、前例主義で、なんでも法律に基づかないとだめだという行政が行われている。災害時に大事なことは、地元の創意工夫を認めることだ。こうした画一主義の弊害は、個別経営は機械を買っても補助金の対象にはならないとか、施設も、個別経営はだめで集団でつくれば認めるとかに現れている。これが、イチゴのような個別経営が求められるものには阻害要因にもなる。
(写真は、津波の傷跡が残る宮城県岩沼市沿岸部の様子。2011年9月撮影)
◆「公共」追求の地域協同組合へ
今回の災害が示したことは、「組合員のため」という「共益」性だけのJAではなく、みんなのためになるという「公共性」が大事だということではないか。ライフラインとしてのJAの施設、金融・共済事業は地域住民にとって重要だ。私はこれを「農的地域協同組合」と呼んでいるが、この方向を目指し、共益性から公共性追求への改革が必要という事態が進んでいる。
被災地では農家の階層分解が進んでいる。特に原発事故の警戒地区などでは子育て世代が離れ、40代以下の世代が戻ってこないため、農業の後継ぎがいない。この状態は今後も続くため、これからJAのポジショニングが問題になる。被災地では集落ぐるみの集落営農が進められているが、被災地の集落は家と家の関係が強く、西日本のような集落ぐるみ方式でなく、少数のオペレーター集団による広域的大規模法人化も考える必要があるだろう。また土地利用型農業でなく、何らかの作目を合わせた複合経営の方向が求められる。なぜなら、大規模化は雇用者の周年就農を必要とする。できるだけ施設型を組み合わせて雇用を確保しなければならない。
現地で進んでいる大規模経営と土地持ち農家の分化という実情に対して、JAはどう対応するか。両者の間で新しい農村コミュニティづくりを考えていく必要がある。それには公共性追求型の地域協同組合が必要となるだろう。
◆「会社」運営の指導を
JAは営農指導、経営のノウハウを持つ。法人化は農事組合法人でなく株式会社、農業生産法人の形が中心になるだろう。そうすると社長、専務というヒエラルキーが生まれる。こうした会社形態に農家は慣れていないため、会社形態をどのようにやっていくのか。きちんとした指導が必要だ。
さらに新規就農者、定年帰農対策をどうするのか。別のテーマとして取り組みが求められる。農業経営は大規模経営が主流だといったが、それにとどまるのでなく、いろいろな形態、営農の仕方があってよい。
東北の集落は、西日本のようなしっかりした村組織としてあったのではない。元の村に戻ることはできないのだから、新しくオープンな公共性を備えたコミュニティをつくっていく必要がある。そこにJAは「農的地域協同組合」として位置付け、活動していくことが求められる。
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