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地域農業システムづくりへ、JAの役割とは2013年12月6日

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JA-IT研究会が公開研究会「日本型農場制」も視野に

 全国のJAや連合会で構成するJA-IT研究会(代表:今村奈良臣・東京大学名誉教授)は11月29、30日、東京都千代田区大手町JのAビルで、第35回公開研究会を開いた。前回の公開研究会で討議した「JAにおける地域農業戦略とマネジメント体制のあり方」をさらに掘り下げ、地域戦略・生産戦略(営農戦略)・商品戦略・マーケティング戦略・実需との関係戦略に支えられた「地域農業システム」構築に向けたJAの役割と課題」について意見交換した。

JAの地域農業戦略で意見交換するJA-IT研究会

 今回の公開研究会のテーマは「地域農業システムの構築とJAの役割 JAの現場からの実態報告“悩みを共有しチャレンジする”」。研究会ではJA全中の大西茂志常務があいさつで、「農地中間管理機構や水田農業政策の見直しなど、農政が大きく動いている今、農の現場における危機感や課題を共有し、解決を模索していくことは非常に重要だ」と、IT研究会への期待を述べた。
 次いで千葉県のJA安房の仲野隆三理事が「営農指導体制の整備と再構築―その手法と考え方」について、一般社団法人・日本きのこマイスター協会の前澤憲雄理事長が 「JAの求心力にリスクチャレンジが欠かせない!」で、それぞれ基調報告した。

(写真)
JAの地域農業戦略で意見交換するJA-IT研究会

◆営農指導で人を育てる

 昨年まで千葉県のJA富里市の常務理事を務め、加工業務用と量販店向けの野菜の契約出荷体制を確立した仲野理事は、営農指導体制の整備と再構築」を切り口に、自らの長年にわたる実践を振り返った。
 その中で、「(営農指導員の)顔を売るには(組合員・集落リーダーの)顔を覚えよ」、「地域特性と慣習を身に着けよ」、「組合員との隘路を探れ」、「組合員の経営目標を支援せよ」と、組合員に接する際の営農指導員に必要な姿勢を指摘。
 さらに「次世代組合員の育成は農協にとって半世紀におよぶ人づくりである。その中核を担うのは営農指導員だ」と言う。JAは地域に根差し、人に立脚した組織であり、その人を育てる営農指導員の価値を改めて強調した。

◆きのこ200億技術革新も

 また日本マイスター協会で、食品としてのきのこの情報の発信に努めている前澤理事長は、長野県のJA中野市で常務を務めていたとき、一時158億円にまで減少した農産物販売高に対して、「200億円再生」を目標に掲げ、地域農業再生プランの実現に努めた。きのこと園芸の2つの柱を地域農業の根幹として位置づけテ取り組んだ。
 とりわけきのこは出稼ぎに代わる収入源として導入した作目で、きのこ価格の低迷は地域社会の衰退に直結しかねない問題だった。そこで平成4年から農業研究開発積立金事業の積立金を目標額の前に取り崩し、農業研究開発費にあてた。
 これがJA種菌センターによるきのこの液体種菌供給事業になり、農業者のJAへの結集強化につながった。リスクの高い事業だったが、種菌をJAに集約したことで、販売・購買事業はもちろん、大規模農業者が施設を新設するときの建物共済など、金融共済事業にまで効果が波及したという。平成20年には、販売高200億円の目標も達成した。
 この基調講演を受ける形で、JA横浜の矢沢定則常務が「横浜でがんばります JA横浜の現況と課題」で実践報告した。JA横浜管内は都市農業の典型で、「横浜のまちが横浜の農業を作った」と言う。
 同JAでは、小規模経営を地域農業のモデルに、少量でも農家が出荷できる「一括販売」方式、JA直売所、1000戸以上の農家直売のネットワークなどの仕組みを確立し、農家の農業からの撤退や縮小を防いできた。
 しかし農家の高齢化、不耕作農地の拡大が進み、平成22年度にアグリサポート事業を立ち上げ、営農ヘルパー制度、准組合員を対象にした援農ボランティアの育成に取り組んでいる。また、農地利用をきめ細かく整し、遊休荒廃農地を減らすためのアグリサポートデスクを設置した。
 だが、農地法改正の影響などもあり、企業の農業参入や個人の新規参入は増えているが、定着しないで撤退するケースもあり、地域農業の崩壊を招きかねない状況もある。必然的にJAによる農地管理が求められ、矢沢常務は、私案として、加工事業や市民の栽培・収穫体験なども組み込んだ「1JA1農場」という構想を紹介した。

◆手取りを優先 JAこばやしの園芸

 さらに宮崎県JAこばやしの寺師幸則園芸農産部長が「強い園芸産地の創造『変革・創造・協同・挑戦』」で報告。JA小林は、生産者手取り優先へ向け、平成15年から園芸事業の変革に取り組んでいる。定時・定量・定質・定価の契約出荷に向け、生産者の意識を変えるために大きなエネルギーをかけてきた。
 また大規模農家の支援対策として取り組んだゴボウの買取販売は、初年度2000万円ほどの欠損を出したが、それを見越してあらかじめ引当金を準備していたという。初めから何もかもうまくいくわけではないので、問題をひとつひとつクリアし、ノウハウを蓄積しながら事業展開を続けていることを報告した。 

◆販売を軸に米政策転換

 研究会2日目は、農政調査委員会の吉田俊幸理事長が「変革期の米流通、水田農業、政策と産地戦略」で基調報告。水田農業の空洞化と構造再編の進展、人口減と高齢化社会の進展、政策転換を踏まえ、従来型水田経営、米穀事業、農協から脱皮するための水田産地戦略の必要性を訴えた。
 具体的には、販売を軸とした水田農業の再編に向けて、[1]生産者手取り最優先と平等原則から公平原則への転換[2]品目・販路先に応じた契約取引、共同計算(共計)・買取等の多様なルート構築、弾力的な価格設定、安定取引[3]画一的な生産販売体制から販路・実需者別、地域・栽培体系別生産者の組織化[4]需要開拓、提案型販路の拡大を提案する。
 さらに、多様な担い手の育成と、多面的な連携のため、農協の全利用システムからの脱皮するとともに、個別の事業連携方式として、[1]カントリーや施設の共同利用方式[2]大規模経営者への大口メリット[3]税務や記帳の業務代行[4]産地戦略に沿った栽培基準の統一の必要性を挙げた。

◆雪国で園芸直売所軸に

 また、JAえちご上越の岩崎健二・営農生活部園芸畜産課長が「JAえちご上越の現状と課題」で、雪国での園芸振興の取り組みを報告。雪国では難しいといわれた直売所が軌道に乗ったことで、生産者の園芸に対する意欲が向上し、さまざまな波及効果をもたらしたと言う。雪の下で貯蔵して甘みを増したキャベツやダイコンなど5品目を「雪下畑の仲間たち」と名付け販売したところヒット商品となり、ブランド野菜に成長させることを計画している。
 平成23年には直売所を中心にした青年部が立ちあがった。また園芸専任の指導員も配置。「指導員の育成がこれからの私の役割」と岩崎課長は語る。

◆米作が基本技術継承を

 さらに福岡県JA糸島営農経済担当の山崎秀夫常務が「糸島の現状と課題 JA糸島の米づくり戦略」で報告。産直市場「伊都菜彩」(いとさいさい)が35億円を売り上げるが、「営農の基本は米。稲をきちんとつくれる人は何でもつくれる」と言い切る。
 米作り品評会などに熱心に取り組んでいるが、最近稲作が疎かになり、栽培技術が継承されていないことが課題と言う。また6億円をかけて改修したカントリーエレベーター施設維持も今後の大きな課題になっている。
 最後に、JA-IT研究会の今村会長が、「“所有は有効利用の義務を伴う”“農地は子孫からの預かりもの”である。JAは今こそこの基本理念に立ち返り、地域農業の活力を取り戻すよう多彩な活動を行なう責務がある」と強調。
 さらに農地についての3段重ねの思想を解説。上土(耕作する土地)は耕作者が有効・適切に利用管理するが、その下の中土(耕土の基盤)や水路等は地域により協同で管理保全されており、底土(農地の基盤)は国土として国民のものだと指摘。
 農地の集積をはかる農地中間管理機構が動き出すが、この3段重ねの思想に基づき、「日本型農場制農業を実現していただきたい」と研究会を締めくくった。


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