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JA全中、初の地域営農ビジョン研究大会2014年2月6日

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優良事例に学び実践を

 JA全中は1月30、31日の2日間にわたり、東京都内で第1回地域営農ビジョン全国研究大会を開いた。大会では「地域営農ビジョン大賞」に選ばれた大賞・優秀賞の11組織・JAを表彰するととともに、事例発表と討議を行い地域農業、地域社会の将来像を集落からの話し合いで作りあげる重要性を確認し、そのための課題や解決策を探った。大会では最後に約250人の参加者による「大会宣言」を採択、27年度までの地域営農ビジョン策定・実践に向けて取り組み強化を図ることを確認した。

地域社会の将来描く

各JAの担当者を交えたパネルディスカッション

(写真)
各JAの担当者を交えたパネルディスカッション


◆主体は農家組合員

飛田JA全中副会長 JAグループは第26回JA全国大会決議をふまえ平成24年から「地域営農ビジョン策定・実践強化全国運動」に取り組んできている。今回の大賞は全国各地の優れた取り組みを顕彰・共有化することで運動の推進を強化しようというもので、あわせて先進事例に学び、自分たちの地域に生かすための研究大会とした。
 大会で飛田稔章・JA全中副会長(担い手・農地対策推進委員長)は「地域営農ビジョン全国運動は農家のみなさんが主体となって担い手や農地の問題について十分に話し合い、地域農業の将来像を描いて実践していく取り組み」と改めて強調。とくに農地中間管理機構や水田フル活用政策、日本型直接支払い制度の創設など新たな農業政策が始まる今、JAグループはこれを地域で十分に活用していくことが重要との考えで飛田副会長は「地域の話し合いに基づくこのビジョンの取り組みは極めて重要になっている」と訴えた。
 ビジョン策定・実践のの目的は▽農業生産の拡大▽農家組合員の所得向上▽農を通じた豊かな地域づくり、だ。この目的を実現するために▽担い手経営体の明確化▽多様な担い手の役割▽個性ある産地づくり▽農を通じた地域づくり、などを地域で話し合い、その結果をビジョンとして描き実践する運動を推進してきている。
 実践の主体は集落を基本とした地域や組織であり、JAは支店を拠点に策定支援を行うことや、ニーズに基づく生産販売戦略の策定・提案と事業化が求められている。
 JA全中のまとめ(25年度調査)では都道府県段階では8割が方針策定済みで、JAでは311JAが取り組んでいる。
 この運動は行政の「人・農地プラン」と連携することも必要だが、8割のJAが「一体的に取り組んでいる」としている。ただ、市町村を単位とした人・農地プランと地域営農ビジョンの策定単位が異なることもあるため、この運動を推進するにはプランとの連携・整合性の確保なども課題になっている。
 大会で大西茂志・JA全中常務は「今回の受賞組織・団体は地域の実態に応じた対策を立ててビジョン運動を進めている。ぜひ参考にしてほしい」と呼びかけた。

(写真)
飛田JA全中副会長

◆地域農業に厚みを

 表彰式では実践部門で大賞の村木沢あじさい営農組合(山形県)の開沼雅義代表、支援部門で大賞のJA上伊那(長野県)の御子柴茂樹代表理事組合長らに表彰状などが贈られた。表彰式に続き事例発表と総括討議を2日間にわたって行った。 実践部門の受賞組織には佐賀県佐賀市の大和みかん生産組合も選ばれた。このビジョン策定運動が水田農業にとどまらず、それぞれの地域実態に応じて自ら将来像を描こうという運動の広がりを示す事例といえる。また、滋賀県のJAおうみ冨士のファマーズ・マーケット「おうみんち」への出荷協力会も受賞した。ビジョン策定の主体を直売所の出荷組織が担っているという今までにない取り組みである。
 こうした実践事例について総括討議では審査員から「農地利用集積といった単純な担い手論ではなく、たくさんの主人公がいることを示している。まさに村を次につなぐための実践だ」(小林元・JC総研主任研究員)、「農の雇用制度を利用した若者の就農支援や女性グループの活用や加工事業など、地域農業の厚みを増していくことが必要。収益性を上げるには参加の場づくりも大切なことを示している」(高橋明広・中央農業研究センタビジネスモデルプロジェクトリーダー)などの指摘があった。
 JAを対象にした支援部門の討議では、話し合いによるビジョン策定のため「JAの全職員を各集落に張り付かせる」ことや「支店長が事務局長になる」ことなど支援体制づくりのカギが強調された。
 また、所得向上と農業生産の拡大が目的であることから「JAの販売高だけではなく、他企業との連携で地域の農業生産額の増大に取り組むべき」と指摘があったほか、目的達成のためにPDCAサイクルでチェックしていくことが大切との意見もあった。
 また、この運動は「人・農地プラン」と連携させる必要もあるが、農地の利用集積は生産販売戦略をもったJAでなければできないことも受賞JAから強調された。
 審査委員長の谷口信和東京農大教授は「地域営農ビジョンは単に農地を担い手に集めればいいという取り組みではない。地域農業、地域社会をどうするかを描くもの。受賞組織はその格闘から成果を上げている。農政の方向を変える運動でもある」と指摘した。


【優良事例報告】

地域ぐるみで守る
実践部門大賞 村木沢あじさい営農組合(山形県)


表彰を受ける村木沢あじさい営農組合の開沼代表 山形市の中山間地域の村木沢地域の15集落でビジョン実践に取り組む。作業受託から始まった組織を平成25年に農事組合法人にした。JAやまがたを含め246人が組合員の県内最大級の組織。運営方針は丁寧な話し合いで担い手経営体と農地の出し手を含めた多様な担い手が支え合い、地域ぐるみで農業を守る。
 257haのうち担い手に118haを集約(46%)。同営農組合は農の雇用事業を活用し他産業から5名を雇用。水稲、大豆、小麦、ソバなどの生産を中心となって担う。多様な担い手の役割発揮も重視し直売や食農教育など活躍の場も作っている。
 開沼代表は今後の課題として「個別経営ではなく地域全体を担う後継者を育成すること」などと話した。

(写真)
表彰を受ける村木沢あじさい営農組合の開沼代表

 

JAあげて支援チーム
支援部門大賞 JA上伊那(長野県)

表彰を受けるJA上伊那御子柴組合長 本所営農部を地域農業振興ビジョン実践支援推進部署と位置づけ。16ある支所ごとに人と農地プランの地区割りに応じた地区委員会で人・農地プラン策定と一体的にビジョン策定支援を行ってきた。全職員を集落に配置、地域リーダー支援や座談会の事務などを引き受けている。
 管内の集落営農組織は40。25年には7600人が参加し、多様な担い手支援にも力を入れている。JA事業での支援は大規模経営体に対する大口利用対策、加工業務用野菜の販売、特産品の加工販売など。農を通じた豊かな地域づくりのために、地元企業やNPO法人との橋渡し役を担う。

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表彰を受けるJA上伊那御子柴組合長

 

【講評】

地域づくりの起爆剤に
審査委員長 谷口信和・東京農大教授

谷口教授 受賞組織には果樹地帯や直売所の出荷組織が描く地域営農ビジョンもあった。この運動が幅広い領域に及んでいて、地域の実情に合わせ主体的に取り組んでいる姿が浮かび上がってきて力強い。逆にいえばこれを水田農業の枠にとどめることなく地域農業再生の起爆剤として、もっとも重要な手段として使ってほしい。 新しい農政改革が動き出すが、実はこの農政改革全体のネーミングはない。農水省の説明資料では「今般の施策見直し」といっているだけでまったく内容が分からない。ただし、特定の担い手に非常に効率的な経営をやってもらえばTPP合意しても耐えられる、他の人はどうでもいいという姿勢がちらついていると思う。しかし、本当にそれで日本の国土、地域社会がきちんと守れるのかか。一方、地域営農ビジョンは▽担い手づくり▽産地づくり▽地域づくり、を目標とするもので目的は明確だ。
 その際、必要な視点は残念ながら日本社会は人口が減ること。しかも日本の国土、環境を維持するために重要な位置を占めている地方、農村部で人口が著しく減少する。そうであれば定住人口が確保されるような地域づくりと農業構造改革が結びつく必要がある。地域営農ビジョンの向こう側に、こうした地域社会全体を支えていく方向性がかいま見えていることが大事だ。地域の個性を活かしてほしい。

(写真)
谷口教授


 優秀賞以下の受賞団体と取り組み概要は次の通り。

○実践部門 優秀賞
▽農林中央金庫理事長賞 農事組合法人・西善(群馬県)
 米麦二毛作地帯で特色ある麦づくりに挑戦。法人の耕作面積の5倍にあたる220haを作業受託。地域の中心担い手に。
▽全国共済農業協同組合連合会会長賞 農事組合法人・グリーンコーポ麻生島(福井県)
 ぐるみ型の集落営農法人。園芸部を設けネギ、里芋など特産品にも力を入れる。JAの空き倉庫など活用で経営安定めざす。
▽日本農業新聞会長賞 JAおうみ冨士ファーマーズ・マーケットおうみんち出荷協力会(滋賀県)
 出荷者組織が担い手育成や食農教育などに取り組む。若手農家から「なばな」の栽培、加工組織も生まれ地域特産に。
▽家の光協会会長賞 農事組合法人・ビレッジ影野(高知県)
 1集落1農場方式の集落営農法人。15haと小規模だが農地と地域文化を守る活動を展開。
▽全国農業協同組合連合会会長賞 大和みかん生産組合(佐賀県)
 果樹地帯の集落営農組織。園地の流動化にも力を入れる。厳しい品質基準で「あんみつ姫」ブランドを確立。

○支援部門 優秀賞
▽全国共済農業協同組合連合会会長賞 JAいわて花巻(岩手県)
 全155農家組合で集落ビジョンを策定するなど全国の先駆け的JA。ビジョン実践を支店行動計画に位置づける
▽全国農業協同組合連合会会長賞 JA福光(富山県)
 長年の協同活動から集落営農組織化と農地集積に実績。8割を担い手に集める。ライスコンビナート施設などで支援。
▽全中担い手・農地対策推進委員長賞 JAにしみの・養老営農経済センター(岐阜県)
 地域農業の将来に向け農地のゾーニングを実現。農地集積に積極的に取り組み集積率は60%に。
▽農林中央金庫理事長賞 JAふくおか嘉穂(福岡県)
 管内10支所を3ブロックに分け、ブロック長を中心に4?5人の職員でビジョン策定支援チームを設置。プレゼン大会開催などで意識強化も図る。


【大会宣言】

 日本型直接支払い、水田フル活用と米政策の見直し、農地中間管理機構の創設など新たな農業・農村対策が始まる今、政策を最大限活用し農家所得の確保と地域農業の振興をはかっていくことが喫緊の課題であり、地域営農ビジョンによる担い手・産地・地域づくりの一体的な取り組みの強化が極めて重要となっている。
 本大会で学んだ成果を生かし、全国・都道府県・JAの各段階において次の事項を重点に取り組むものとする。
 (1)全集落・地区で27年度までの地域営農ビジョンの策定・実践に向け、各段階で取り組み強化を図る。
 (2)新農政を最大限活用した農家所得の確保に向け、JAの組織力を生かし集落営農の再構築をはかり、水田フル活用・地域営農ビジョンを通じて、集落・地区の担い手・産地・地域づくりへの一体的な取り組みをすすめる。
 (3)これらの取り組みを確実に進めるため、行政等関係機関との連携を一層強化し一体的に取り組む。
 また、TPP交渉は2月に閣僚会合の開催が検討されており、大きな山場を迎えている。われわれは政府が国会・与党の決議を厳守するよう強く求めるととともに、引き続き安全・安心な農産物の安定的な供給に努めるものである。


平成26年1月31日「第1回地域営農ビジョン全国研究会」参加者一同


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