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都市農業こそ農の価値発信を JA全中がシンポ2014年3月13日

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JA全中・JA福岡中央会主催シンポジウム「“つくる”と“たべる”のコラボレーション?つながりが生み出す新たな価値の創造?」

 JA全中とJA福岡中央会は、都市農業・農地の価値を農業者自身が再認識し、地域住民を巻き込んだ意欲的な取り組みによってその持続・発展を図ろうと2月28日、福岡市内でシンポジウムを開いた。テーマは「"つくる"と"たべる"のコラボレーション?つながりが生み出す新たな価値の創造?」。実践報告を通じ、参加者は都市地域を含めた各地の地域農業の積み上げから日本農業と社会の再生を図る取り組みの強化が大切な時代であることの想いを共有した。

JAは地域づくりも視野に

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◆地域経済を農業が活性化

西坂氏 地域住民を巻き込んだ意欲的な都市農業の取り組みを共有しようというこのシンポジウム。多彩な実践が報告された。
 JAおちいまばりの西坂文秀直販開発室長は、同JAの直売所「さいさいきて屋」を核にした地域農業振興を報告した。 生産額が減少する地域のなかで高齢者や女性も含めて農業振興をめざし平成12年にオープン。初年度2億円の販売高が地域の支持を得て現在は25億円を誇る。チラシは配らない、自販機は置かない、今治産にこだわるなどを貫いてきた。
 また、米は買い取り精米販売、島など遠隔地の集荷は朝出勤するJA職員が担当するなど、次々と生産者の課題も解決するアイディアを実現し「生産者にも消費者にも喜ばれる場所になった」。 学校給食への食材供給も「旬のものしか供給しない。メニューはそれに合わせて学校側に考えていただく」との方針で営農・生産体制を整備、幼稚園にも「マクドナルドに負けない戦略」の一環として温かいおかずを食べてもらっている。農と食への親しみが生まれ学童農園も人気だ。定員20名に応募は400名。翌年から「東大より難しい学童農園」をチラシにうたった。
 農商工連携ではタオルの今治に着目。「ワタ」づくりを機に関係業者を巻き込んで、タオル、ジーンズなどオリジナル製品を商品化した。「地域経済のなかに農業をいかに入れていくか。グローカル戦略が大事」と西坂氏は強調した。

◆JA出資法人―農地守る使命

茂木氏 JA福岡市の出資法人「JAファーム福岡」は管内農地2000haを守ることが目的で平成20年設立。▽作業受託、▽栽培、▽食育研修、▽農産加工、▽農機レンタルが事業だ。 組合員からの作業受託は年間100件ほど、ほかにJAから水稲育苗や農地保全管理などの委託も受ける。栽培事業には体験農園、農業塾も含む。体験農園は農業を大勢で「わいわい楽しみたい」人向け。一方、同じ市民対象でも農業塾は耕作放棄地を活用しJA直売所で販売できる小規模新規就農者を育成すること。卒業時は10a程度の農地を利用権設定する仕組みで、地域の新たな担い手を育成する。そのほか農地を維持するため地元企業との社会貢献活動とも連携している。
 農産加工事業では「無添加炒めたまねぎ」や酵素水などを販売している。 茂木嘉浩専務は「JAとは地域農業振興計画との連携や不耕作地など農地情報の共有、新規就農者への支援などの面で連携が必要だ」といい、課題には「条件不利地域の農作業の効率化や遠距離作業への対応」などがあるが「農地を守る使命を持って事業を維持していきたい」と語った。

◆市民農家育成 農園の可能性

成清氏 福岡県初の農業体験農園「つくし体験農園」を開設した成清禎亮さん(福岡県農業体験農園園主会事務局長)も報告した。農業体験農園とは農園主が行う農業経営で、入園者は園主が決めた品目を指導にしたがって農作業体験をするもの。種苗や農具など必要なものは園主が準備するから入園者は手ぶらで訪れることができる。収穫した野菜などは入園者が受け取ることができる。
 そのため旬を大切にした野菜づくり、伝統作物づくりといった特徴ある農業を継続することもできる。入園者の年間利用料が農家の収入になる。いわば農作業体験付きの全量買い取り契約栽培という性格ともいえる。
 成清さんは農家の収入安定化、直売顧客の開拓につながるだけでなく、体験農園は農業サポーターの育成、さらに新規就農支援まで可能性があるという。
 農作業体験では、準備などをベテランの入園者が手伝うことも多いという。なかには園主に代わって講師役を任せられる人も出てきたし「あれを用意して、これを購入したほうがいい、など私のほうが指図されることもあります」と会場の笑いを誘った。
 入園者からよく聞かれるのが「農家と知り合いになりたかった」という都市住民の声。成清さんは「今、農の価値がそれほど求められていることを私たちももっと知るべき」などと話し「農業というより一緒に住む人との地域づくり、さらには国づくりの面もある」とその可能性を強調した。

◆都市農業には潜在力がある

 パネルディスカッションでは都市農業の維持・振興のために担い手や農に関わる人をどう巻き込み、確保していくかを改めて議論した。
 JAおちいまばりの西坂氏は「55歳からの担い手」育成を実践していることを報告。JAが地域実態に合わせて確保策を検討することの大切さと同時に、直売所の体験から「やはり儲かる体験で農業者は生産意欲を持つ」として最近では若い出荷者も増えていることを紹介した。
 JAファーム福岡の茂木氏は大規模農家はJAが支援、中小農家をJA出資法人が支えるなど地域農業振興計画に基づいた役割をJAが果たすべきとした。また、成清氏は都市住民には多彩な人材がいることを指摘、そうした市民の力を農業が借りることが農地維持にもつながるのでは、と指摘した。
 議論を受けて蔦谷氏は「都市農業であるがゆえの困難もあるが、同時に潜在力もある。それを生かすことが求められている」として地域をカバーするJAの役割に期待した。

 

基調講演

コミュニティ農業で共生をめざせ
蔦谷栄一・農的社会デザイン研究所代表

蔦谷栄一氏 シンポジウムでは元農林中金総研特別理事の蔦谷栄一・農的社会デザイン研究所代表が基調講演。かつて都市化・近代化とは農地をつぶしていくことであり「都市+農業」とは矛盾する姿だった。しかし、時代変化のなか農業に関心を持つ“都市”の若者層が増えるなど、蔦谷氏は「日本農業再生の鍵を握るのは都市農業だ」と強調した。
 各国がどう農業を発展させようとしているのかをみると「それぞれの地域特徴を出そうとするのが世界の流れ」と指摘。EUは地理的表示(=地域ブランド)や家畜福祉などにこだわり、なかでもイタリアは農業と食のつながりを重視。アジアでは韓国が「親環境農業」(=有機農業)を推進している。
 ところが、日本の農政改革は規模拡大による競争力強化一辺倒である。蔦谷氏は、食料安保の観点から穀物を作る水田農業を守るとともに、日本の特質を生かす視点が日本農業には必要だと強調した。
 その特質とは▽1時間も車で走れば風景が変わる「豊富な地域性と多様性」、▽きわめて高い農業技術、▽高所得で品質・安全安心に敏感な大量の消費者の存在、▽都市と里山とのきわめて近い時間・距離などだ。
 こうした特質をそれぞれの地域が生かした「地域農業の複合体こそ日本農業の姿」であり「その核になるのが都市農業」と蔦谷氏は強調した。
 一方、こうした都市農業の維持・振興が求められる背景には、人々が新たな価値を模索し始めたこともある。蔦谷氏は「贈与」と「身体性の回復」がそのキーワードだという。贈与とは「すべてをお金で割り切る経済の対極にあるもの」。人々はお金では得られないものをコミュニティに求めており、それは「人と人との関係」だ。
 また、身体性の回復とは「自然を体に感じること」。まさにバーチャルな世界に取り囲まれている身体からの脱却であり、農業体験はその望みをかなえる営みだといえる。 蔦谷氏はこうした時代の変化をみすえ、新たな価値を共有した生産者と消費者が一緒になって支えるコミュニティ農業の姿に都市農業の重要性があることを強調した。同時に消費者を巻き込んだ都市農業振興は「農協批判への反論にもなる」として、消費者を巻き込んだ農協運動が今後重要になるとも語った。


都市住民の支援・参画を
松尾照和・JA福岡中央会会長

松尾照和氏 都市農業・都市農地は市民に対して新鮮で安全な農産物の供給はもとより、身近な農業体験、教育の場の提供、あるいは災害時の防災空間の確保など多様な役割を果たしている。全国的にもこうした都市農業・農地に非常に注目が集まっている。 福岡県は人口500万人でどちからといえば消費県だと捉えられがちだが、全国でも有数の生産県。小麦の生産量は北海道に次いで2番目、農地の80%が水田で水田農業が発達しているなど、多様な農業が展開されている。 JAグループは第26回JA全国大会で「都市農地が価値ある場として認識・共感され、都市住民の支援・参画を得られる姿をめざす」との決議をした。本シンポジウムで地域住民を巻き込んだ意欲的な取り組みが共有され、今後の取り組みの力になることを願う。


地域巻き込む取り組みを
志村善一・JA都市農業対策委員会副委員長(JA神奈川県中央会会長)

志村善一氏 出身のJA横浜管内には3200haの農地があり、多彩な農業が展開されている。都市農業は地域住民が身近にいることがメリットだが、その反面、市街化区域内農地は固定資産税が大きな負担になっているのも現実だ。それでも先祖伝来の農地を維持しながら次世代につなげていこうと努力をしている。これは三大都市圏に限らない全国的な課題であり、JAグループも都市農業基本政策の確立に向けた取り組みを進めている。国はまだ検討課題にとどまっているが、この基本政策を実現するためには何よりも多くの地域住民に理解してもらい、われわれの応援団になってもらうことが必要だ。そのための情報発信の場としてもシンポジウムを開催してきた。地域を巻き込んだ取り組みを積極的に進めてほしい。


地域とくらしの視点重要
伊藤澄一・JA全中常務理事

伊藤澄一氏 報告された都市農業の取り組みからは、追い込まれたといわれる農業が実は非常に多様で多面的な価値を指し示していることが分かったと思う。 日本農業全体が農業生産に加えて地域や人々の暮らしと密接に結びついていて、それが農業の再生になっていく。人々の考え方が変わらなければ農業の位置づけは変わらない。しかし、今日は、ここ5年、10年の間にかなり変わってきたということが明らかになったのではないか。そのためには人々と農業側がどういう関係をつくっていくかが課題で、実践報告ではまさにそれが示された。それぞれの現場でアイデアと知恵、勇気で、地域の農業者や住民を励まそうと取り組みが進められていた。いわば楽しい場所をつくろうとしている。強い思いが夢を実現していくということだろう。 JAグループも力を合わせて地域を農業を元気にし、この国を元気にするよう力を尽くしていきたい。


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