トキと共生する郷づくり 離島で農守るJA佐渡2014年10月3日
農業協同組合研究会が佐渡で現地研究会開く
農業協同組合研究会(会長:梶井功東京農工大名誉教授)は9月27、28日、JA佐渡(新潟県)で第9回現地研究会を開いた。高齢化、過疎化の進む離島で、世界農業遺産にも認定された「トキ」とともに暮らす里づくりの取り組みなどを視察した。研究会会員など約50人が参加した。
◆過疎の先進地
佐渡島の農業は、1601年の金山発見を機に続々と島に移り住み始めた工夫、商人、役人などへの食糧供給の必要性から、急速に発展した。増大した人口を養うため、平地、中山間地を問わず島中が開墾され、そうした中で景勝地としても有名な小倉千枚田などが開かれていった。
昭和前半のピーク時には人口12万人を超えたものの戦後は減少の一途をたどり、現在は6万人を下回る(25年10月現在)。島の人口に占める65歳以上の割合は4割で、典型的な過疎地だ。さらに約8500人の農業者に限れば57%と、おおよそ5人に3人が70歳以上となる。
JA販売高の約8割は米だが、近年、県内産地間でも激化する競争や米価の低迷への対応、また、例年120?130人が島を離れたり高齢を理由に離農するなか、島全体で約9300haある水田(耕地全体では1万1000ha弱)をどう保全するか、などがJAに突きつけられた課題だ。
研究会で「佐渡の農業とJAの課題」で講演した前田秋晴・JA佐渡代表理事理事長は、「佐渡の高齢化率は新潟県全体より10年先に進んでいる。まさに高齢化先進JAだ。ほかのJAと同じことをしていてはダメになる」と述べ、JAが取り組むさまざまな改革について解説した。
(写真)
前田秋晴理事長
◆物語性を追求
JA佐渡では平成18年に農業ビジョン「日本一安心・安全でおいしい農産物の島『佐渡』の実現を」を策定した(25年10月一部改定)。これは15年の冷害による不作、16、17年と2年連続で販売不振に見舞われ、島全体の米生産量約2万tのうち4分の1にあたる5000tが政府米として買い上げられたことに端を発した危機感から作られた。
ビジョンは、佐渡だからこそできる農業をめざし、[1]トキとの共生、[2]複合経営の推進と多様な担い手の育成、[3]生産者と消費者の相互理解、を3本柱に置いた。
もっとも注目される[1]は、日本産野生としては平成15年に絶滅したトキが再び野生で暮らせるような「環境にやさしい」農業を確立し、それを佐渡ブランドとして販売推進につなげようというもの。その活動は国際的にも認められ、「トキと共生する佐渡の里山」は21年に世界で9番目、日本では初の世界農業遺産(GIAHS)にも認定された。
めざす姿は、トキの餌場にもなる生物多様性に恵まれた水田づくりだ。実はビジョン策定当時、政府はビオトープ(生き物がたくさん生育する環境)の設置を全国的に推進していたが、ビオトープの主体となるのは学校やNPO法人など、あくまでもボランティア組織。JAでは、農業者が自ら環境を変えていく方が合理的だし、そうでなければ持続できないと考えた。
初年度の19年産は化学肥料・化学農薬を慣行栽培(肥料は窒素成分10aあたり6kg、農薬は使用回数成分数18)の3割に減らすことからスタート。当初の目標は、23年産でコシヒカリの出荷契約面積4400haに対して5割減減50%達成を目標に据えたが、組合員らの参加意識は高く、20年には24年産で5割減減100%へと目標を高めて改訂。そして「佐渡の米は“物語性”を追及しよう」との狙いから、▽冬水田んぼ▽水田内の江(え:水田内の畦に沿って掘られた溝)の設置▽魚道の設置▽ビオトープの設置、のいずれかに取り組むことを要件とする「生き物を育む農法」をスタートした。
こうしたJAの取り組みに行政も賛同。20年産からは「生き物を育む農法」でつくった米を「朱鷺(トキ)と暮らす郷づくり認証制度(佐渡市認証米制度)」によってブランド米とする制度が発足した。
この結果、24年には5割減減達成率99%以上に。生き物を育む農法への参加は、20年はわずか427haで10%以下だったが、25年産では約3割にあたる1300ha強が実施した。
◆高級から値頃へ
売れる米は「食味・品質・物語性と、販売力と、地域や消費者との結びつき。この3要素が満たされなければ作れない」(前田理事長)との考えから、JA佐渡は米販売対策をさらに強化。
23年産からは、「環境への配慮だけでは一般米と区別できない。製法だけでなく、味も重要だ」との問題意識から、タンパク含有率6.0以下を認証米の要件に加え、食味の点でも評価される米づくりをすすめている。
また、26年2月には秋の米価下落と供給過剰を予測し「売れる佐渡米対策委員会」を立ちあげ、いち早く対策を講じた。生産面では、新潟コシヒカリとして最高級品をめざしてきた方針を産地間競争に打ち勝つために「値ごろ感」の追求へと転換したり、一等米比率90%以上をめざす「未来プロジェクト90」など品質向上対策にも力を入れている。
このほか、JAの担い手対策として、7人のTACを中心に全9支店で地区営農ビジョンの実践支援を行っているほか、複合経営のモデルづくりと新たな担い手の育成をめざし24年には(株)JAファーム佐渡を立ち上げるなど、離島で農業を守る取り組みを進めている。
(写真)
研究会の意義を述べる梶井会長
◆自然との共生
研究会ではこのほか、佐渡市役所の西牧孝行氏がGIAHSの認定と今後の展望を解説。現在の課題は「GIAHSの価値を世間にいかに広めていくか。単に生産者から消費者へ魅力を発信するだけでは、いずれ活動は先細りする。農家との交流などを通じ、生産者と消費者を共通認識でつなぐ取り組みが必要だ」として、両者が課題を共有するためのGIAHSモニターツアーの企画などを紹介した。
参加者との意見交換では、トキの分散飼育に取り組んでいる島根県出雲市から参加した萬代宣雄・JA島根中央会会長が、「トキと共生する農業を推進するため、どんな苦労があったか」など、組合員をどのように巻き込んでいったのかを尋ね、前田理事長は「化学肥料、農薬を減らして生産量が減っても、その分所得が上がることなどを粘り強く説得した。また、農業にとっては、苗を踏み潰すなど害鳥扱いだったトキを増やすことに対して反対の声は根強かったが、いざトキが田んぼに飛来してくるようになると、そういう声は聞かれなくなった」など取り組みの経過を語った。
研究会2日目にはトキの飼育センターや佐渡金山などを巡った。梶井功会長が「農業は近代化で自然との距離が遠くなったが、自然との営みが大事だということを改めて思い出した」と感想を述べたように、トキとの共生など、離島の佐渡だからこそできる目に見える取り組みをすることで、地域を守っていこうとしているJAの姿を学んだ研究会となった。
(写真)
小倉千枚田を眺め、佐渡農業の歴史や現状を学ぶ参加者ら。
(関連記事)
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