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未来を開く1県1JA  島根で新世紀JA研究会2015年8月7日

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組織・事業・経営改革で基盤強化

 全国のJA常勤役員などで構成する新世紀JA研究会(藤尾東泉代表=JAいわて中央組合長)は、8月5、6日、島根県で第18回セミナーを開いた。開催地のJAしまねは今年3月、1県1JAへ統合した。農業・JA改革が求められるなかで、同じく1県1JAのJAならけん、JA香川県、JAおきなわの役員も参加し、JAしまねの取り組みをもとに、合併JAの組織・事業・経営のあり方や課題について意見交換した。全国から約220人が参加した。

豊かな地域社会の創生へ

合併のあり方で意見交換する1県1JAの代表者

(写真)合併のあり方で意見交換する1県1JAの代表者

 島根県のJA統合には、県や市町村も積極的に支援してきた。来賓で出席した同県の溝口善兵衛知事は、「政府は地方創生ということで地方の活性化を唱えているが、地域の農業振興にJAは大きな役割を果たしている。研究会の活動を、農業の将来に希望の持てる政策づくりにつなげてほしい」と、JAしまねの今後に期待を述べた。


◆「新機軸」への挑戦


全国から220人が参加したセミナー 同県の1県1JAの取り組み経過について、JAしまねの萬代宣雄組合長が報告。冒頭、JAしまねの職員行動規範に掲げた「何事にも新機軸を旨とし、迅速な対応を心掛け、改革にチャレンジします」を紹介した。
 「新機軸への挑戦」は、島根県鹿足郡で産業組合に医療事業を取り入れ、今日の厚生連の生みの親といわれる大庭政世の言葉。これを引用し、「今日よりは明日、明日よりは明後日と、日々改革である。それも迅速に行うことが重要」と話した。
 同県のJA統合の過程ではさまざまな困難があり、限定的な合併という妥協案もあったが、「1JAでも欠けると白紙に戻す」という強い決意で臨んだと言う。
 各JAが統合に納得したのは、「地区本部制を導入したことと地区本部別損益管理(独立採算的運営)を採用したこと、それに『(統合による)支店等の統廃合はしない』ということを明確にして、合併予備契約書に記載したことにあるのではないか」と振り返る。
 このことが経営状態のよいJAや離島のJAの組合員など、合併に消極的だったJAにとって「安心材料になったようだ」と同組合長はみる。
 統合してからまだ日が浅いが、当面の課題として、平成25年から前倒しで実施している農業振興資金の有効活用と、要員の適正配置を挙げる。
 農業振興資金は、統合のメリットを具体的に示そうとしたもので、毎年度4億円の予算を組み、地域農業の振興に役立てる。また統合初年度である27年度は、さらに地区本部の自由な発想による先進的な取り組みに対して1億5000万円を予算化した。この効果を検証し、今後の農業支援のメニューに反映させる考えだ。
 このほか、貯金金利や購買品価格の統一、県内全域で利用できる新たなポイント制度の導入などで、「統合してから、合わせて10億円近くを組合員に還元できたのではないか」と、統合のメリットを示す。
 要員の確保、配置なども、合併に伴って発生する重要な課題だが、人事異動は原則として地区本部内に限定し、給与もそれぞれ地区本部の裁量に任せている。この結果、本店各部署の要員配置にアンバランスが生じていることや地区本部の業務量が想定ほど減っていないなどの問題がある。
 このため「総務・管理部門を中心に事務を集中化し、地区本部・支店の負担軽減を進め、組合員対応強化のため、窓口や渉外への要員重点配置が必要」と言う。
 また職員の給与を統一しなかったことについて萬代組合長は、「地区本部間で切磋琢磨し、自ら稼ぐという気持ちで臨んでほしい」期待する。このことは同時に地域の特性・主体性を尊重することを意味する。
 ただ人材活用の面で、本店への異動など、これから人事交流の拡大も予想される。「地域間の格差を一定の係数にして待遇の基準をつくることを考えている」と話した。

(写真)全国から220人が参加したセミナー


◆合併の将来を検討

会場から農水省の改革論に疑問の声も 「1県1JAの将来への取り組みについて」のパネルディスカッションは、JAならけんの尾上喜信専務、JA香川県の港義弘副理事長、JAおきなわの砂川博紀組合長、それにJAしまねの萬代組合長がパネラー。
 合併の早かったJAならけんはその効果について、「JAへの信頼度が向上した。大規模な直売所や営農に必要な稲育苗センターなどの施設建設ができるようになった」と、施設投資の面での成果を挙げる。
 JAおきなわも同様に、10か所の大規模なファーマーズマーケットを建設し、年間75億円前後を売上げる。特に離島にとって重要なライフラインの機能を果たしている。「合併して、組合員だけでなく地域の人にも大変喜ばれている」と自信を示す。
 合併には経費削減の効果もある。JA香川県は「現在、約250億円の事業管理費だが、当初に比べ90億円削減になった」と言う。優秀な人材も集まるようになる。
 JAおきなわは年間約100人の新卒を採用しているが、7、8年前までは就職希望アンケートで15、16位だったものが、いまは4位という。
「それだけ学生や地域社会に信頼され、評価されていることだ」とみる。
 大型化による大きな課題の一つは組合員との関係性が希薄になること。これを防ぐため、特に支店運営委員会充実の必要性が強調された。JA香川県の港副理事長は、「支店運営委員会などを通じてJAから情報を積極的に提供し、特に女性部との連携を強める必要がある」と指摘する。
 このほか、萬代組合長は、(1)さまざまな事業が行政と一体となってできる、(2)行政の普及員と一緒に営農指導員の研修ができる、(3)農業経営支援を拡充できる―など、合併によって可能になったことを挙げる。
 なお、セミナーでは農水省大臣官房の山口英彰審議官(経営局担当)が政府の「農協改革」の考えについて説明した。JAは農業者の組織であり、組合員のための組織であることを強調。「改正農協法が成立した暁には、この趣旨を徹底し、JAは農業生産拡大のため、中間管理機構に任すのではなく、積極的に農地集積を進め、地域農業をリードしてもらいたい」と話した。
 またJAの株式会社化で、協同組合原則との整合性についての質問に対しては、「JA丸ごと会社化と言うのではない。分割して組合員も株主になれるように株式会社化するということ。員外利用が増えるなら、株式会社にするという意味で、協同組合の原則に反するものではない」との考えを示した。
 2日目は、「地産地消・地産都商の両輪による農家所得の向上」でJAしまね雲南地区本部営農部・須山一次長が雲南産直振興推進協議会の取り組みを報告。また「これからの時代のリーダーとは」で佐々木常夫・(株)佐々木常夫マネージメント・リサーチ代表取締役が講演した。
 なお、セミナーは大会アピールを採択し、次回の第19回セミナーは今年10月22日、23日JAおきなわでの開催を決めた。

(写真)会場から農水省の改革論に疑問の声も


【報告・講演内容(要旨)】

○雲南産直振興推進協議会

 雲南地区に点在していた農家の小規模な農産物の直売所をネットワーク化して、品揃えを確保。それを地元だけでなく、エリア外の松江市や広島県の三次市に出店するほか、関西のスーパー内に場所を借りて販売する。
 物流や陳列、接客、レジ打ちなど、すべてJA職員や生産者が出かけて行う。称して"ヤドカリ商法〟。全体の売り上げは7億5000万円に達し、中山間地域の高齢化する農家にとって大きな励みになっている。「施設や設備などハード面に金をかけず、集荷や販売のシステムなどソフト面で支援するのが農協の役割」と須山次長は言う。

○リーダーのマネジメント

 佐々木氏は元東レ取締役。長い営業の経験のもと『そうか君は課長になったのか』『働く君に贈る25の言葉』などの著書がある。その経験から。リーダーのマネジメントとして、(1)自分の考えを確立させる、主体性を持つ、(2)目的を明確にもち、自分のミッションを持つ、(3)仕事の優先順位を決める。何が重要か、(4)仕事の効率化はコミュニケーションと信頼関係―など、部下とともに仕事を効率的に行う働き方のポイントを紹介。
 「戦略とは戦いを省くこと。戦略的仕事は仕事を半減させる」と、仕事の段取り、メリハリつけることの重要さを強調した。

【大会アピール】

1.TPP反対運動の展開ならびに持続可能な農業政策の確立
 TPP交渉について、国会決議の順守を譲れない一線とし、合意ありきの拙速な譲歩を行わないよう政府に対して強く求める。
 農林水産業の再生・強化に向けて、農業所得増大の基盤となる経営所得安定対策、生産振興対策等の政策確立を要求するとともに、特に飼料用米生産に関しては、長期安定政策として生産・販売全般にわたる万全の対策・予算措置を求める。

2.「農協改革」を踏まえた自己改革の実践
 JAグループとしての新たな将来ビジョンを策定・提示するとともに、政府案への態度を明確にし、自己改革の取り組みをさらに加速化させる。特に農業金融を含めた農業振興方策を強化する。また、JAは組合員の自主的組織であることをあらためて訴え、「食」「農」「協同組合」にかかる国民理解の醸成に取り組む。中央会については機能体制のあり方を早急にまとめ、組織として再構築をはかる。
 自己改革の実践にあたっては具体的目標、計画を自ら定めるとともに、国に対して農協改革に関する進捗管理の考え方を明らかにするよう求める。

3.組合員の意思反映・運営参画の強化
 多様化する組合員ニーズにきめ細かく対応するとともに、組合員組織や支店の活性化等によって組合員参画の「場」をつくり、組合員の意思反映・運営参画の強化をはかる。
 准組合員については法制度上の整理も含めてその位置づけを明確にし、事業利用規制への対応として利用状況に関する調査・把握を早急に行う。

4.地方創生における中心的役割の発揮
 JAが核となって地域における人々の信頼関係や結びつきを強化し、地方創生の一環として策定される「地方版総合戦略」にJAとしての主張を反映させる。地域における雇用創出に関しては、6次産業化や新規就農支援、JAくらしの活動等の取り組みを通して役割を発揮していく。

5.教育活動の強化
 協同組合理念への理解を深め、組合員とJAとの絆を保つため、教育文化福祉活動を重視するとともに、組合員・役職員の学習活動・意識啓発を強化する。
 JA全中が行う海外視察「青年農業者のリーダー育成・交流研修」について引き続き周知ならびに推進を図り、全国域での人的ネットワークづくりを支援する。

6.東日本大震災への対応
 震災を風化させないため、全国的な復旧・復興支援に引き続き取り組むとともに、バイオマスや太陽光といった再生可能エネルギーの利活用を進め、脱原発に向けた循環型社会確立の取り組みを積極的に進める。

7.貯金保険制度の掛金凍結
 JAバンク支援基金、貯金保険制度のいずれも既に十分な積み立てがなされていると考えられることから、JAバンク支援基金に続き、貯金保険制度についても掛金凍結を目指す。
(参考) 1. JAバンク支援基金 支援準備金残高 1,309億円
    2.農水産業協同組合 貯金保険制度 責任準備金残高 3,490億円
    (H25対象貯金残高:95兆円、H25保険料率:0.015%、H25保険料収入:133億円)

以上、決議する。

平成27年8月6日
新世紀JA研究会 第18回JAしまね大会

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