暮らしや文化を軽視の政権 「農協つぶし」は本気 腰据えて阻止を ー佐高 信 氏2016年2月16日
ノンフィクション作家・評論家
佐高信氏
(一社)農協協会が1月27日開いた平成28年度新春特別講演会でノンフィクション作家・評論家の佐高信氏が「安倍政権を批判する~どうするこの国のかたち~」のテーマで講演した。論旨を紹介する。
◆自民党は完全に変質
50年ほど前に山形県の酒田で農業高校の教師をやっていたが、教え子の一人が何年か前に自殺した。彼は減反に反対していた。減反は地区に割りあてるので、一人がやめるとその分が他の人の負担になる。彼はこのことに悩んでいた。
JAからも講演を頼まれるが、TPPに反対するのなら、なぜ減反を阻止しなかったのか。TPPに反対するのはよい。しかし本気で阻止するのかと聞きたい。反対するのなら腰を据えてやらなければ達成できない。
片想いではだめだ。これまでのように「最後は政府・自民党が何とかしてくれるだろう」ではやられる。なぜなら自民党は安倍政権になって完全に変質した。本気で農協をつぶそうとしている。そのことをはっきり認識する必要がある。
2015年の知事選の"佐賀の乱"では新自由主義の安倍政権と対決した選挙だが、農協を中心とした勢力がどうして勝てたのかを思い出してほしい。惜しいところまでいったのが2013年の参議院選挙の"山形の乱"だが、そのとき卑劣にも、庄内の農協に公取委の強制捜査が入った。
これからも安倍政権はそうした圧力をかけてくるだろう。それを跳ね返す気持ちでたたかわなければ勝てない。
自民党は選挙でTPPの重要5品目は守ると言いながら、選挙が終わると次々と安売りした。TPP担当の甘利大臣をタフなネゴシエーターと評価する声もあるが、単にアメリカの言いなりになったに過ぎない。われわれの生活にかかわることを、このような薄汚れた政治家に任せておいてはならない。
自民党の歴史をみると、アメリカべったりの"国権派"と、それなりに筋を通そうとする"民権派"とに分かれる。国権派は岸信介、中曽根康弘、小泉純一郎、安倍晋三と連らなり、民権派は石橋湛山、池田勇人、田中角栄、加藤紘一の流れがある。
違いは、中国との関係で分かる。1949年に今の中国が成立した時、国権派はイデオロギーを優先し、共産主義の国とはつきあおうとしなかった。しかし民権派はくらしを考える。国民のくらしや経済の視点で考え、隣の国との付き合いを優先した。
たとえ困難が多くても、日本はアメリカとも、中国とも仲良くしなければならない。外交は八方美人でよい。一つの方向に決めるのは思慮のない人のやることだ。アメリカと仲良くして中国を牽制し、中国と仲良くしてアメリカを牽制する。これが外交というものだ。そのことを民権派の政治家は分かっていた。この民権派がいなくなり、自民党はタカ派の国権派支配になった。ここに今の日本の危機がある。
◆ 異なる意見を排斥
日米関係で、われわれが認識しておかなければならないことは、こちらがいくら尽くしても、相手はそう思っていないということだ。1971年のニクソンショックを思い出してほしい。アメリカと一緒になって中国の国連加盟阻止までやっていたが、本尊のアメリカが、日本の頭越しに中国と国交回復してしまった。
それと同じことを、いまアメリカがやらないと言えるのか。アメリカと中国は、日本とアメリカより近い。そのことが安倍首相には分っていない。
ニクソンショックの時、当時、自民党の幹事長だった保利茂が、中国の周恩来あての手紙を東京都知事の美濃部亮吉に託した。いわゆる保利書簡と呼ばれる手紙だが、そのとき保利は「あなたの立場が難しくなるかもしれないが」と、美濃部を気遣った。美濃部は「そうかも知れないが、日本のためだ」と引き受けた。
それがのちの田中内閣による日中国交回復の布石になった。これを今にあてはめると、安倍首相が村山富市元首相に頼むようなものだが、同じことができるのか。人にはそれぞれの立場と役割がある。
このことが安倍首相には分かっていない。違う人を受け入れる幅が自民党になくなり、愛国心ばかりを主張する人が増えた。国は、愛されるようにすることが先で、そうすると国民は自分の国を愛するようになるものだ。
◇ ◇
食料自給率はTPPでさらに下がるだろう。ヨーロッパでは国民も経済界も一緒に食料自給率を高めようとしているが、ヨーロッパでは自給率の低い国は戦争をしたがる国だといわれている。TPPで自給率を下げて安保法制を強制することは、世界に向けて戦争をする国であることを宣言するようなものだ。TPPと安保法制はセットになっている。
それと、軍隊が果して国民を守るのかということを考えたい。かつて自衛隊の統合幕僚会議議長がその著書で、「自衛隊が国民の生命、財産を守るためにあるというのは誤解。その役目は警察であっても武装集団である自衛隊ではない」と、はっきり言っている。
これは歴史をひも解けばわかる。旧満州で関東軍は、開拓民を置き去りにして真っ先に逃げ出した。軍隊は絶対に国民を守るものではない。このことをしっかり覚えておいてほしい。
◆言葉は譲れぬ文化
安倍首相はアメリカ議会で演説したが、なぜ英語だったのか。ドイツのメルケル首相が英語で演説したらドイツ国民が黙っていないだろう。言葉は文化であり、思想なのだ。安倍首相は「日本を取り戻す」というが、英語で演説した人にその資格はない。その前に「日本語を取り戻せ」と言いたい。
黙っている国民もどうかと思うが、言葉は一番譲ってはならないものだ。安倍政権のそうした体質はTPPでも表れており、国民を売り飛ばしていいと思っているのではないか。それでいてアジアでは日本語しか使わない。これは明らかに植民地に対する態度だ。
文化についてだが、故・宇沢弘文が『自動車の社会的費用』で指摘しているが、自動車は道路が整備されていないと売れない。自動車産業はつまり税金で支えられている。
そのことを考えず、トヨタ自動車は、本社のある挙母市の名称を豊田市に変えた。挙母は古事記にも出てくる由緒ある名前であり、文化が分からないというのは恐ろしい。
国鉄民営化では国民は騙された。民営化ではなく分割会社化だった。そのころ北海道のある町の町長が、「消防、警察が赤字だから会社にすると言えるか」と開き直っていたが、交通は公共である。
◆ 金で計れぬものも
それを赤字、黒字ではかることはできない。協同組合もそうで、赤字、黒字で測ってはいけないもののひとつだ。政府の農協改革は跳ね返さなくてはならないが、赤字・黒字で議論しても勝てない。
◇ ◇
過疎地では郵便局はいわばライフラインである。それを小泉政権は郵政民営化でぶった切った。いま過疎地域で「移動スーパーとくし丸」のネットワークが広がっている。地域のスーパーなどと提携し、小型トラックで食料品を販売する仕組みで、お年寄りの「見守り隊」の役目も果たしている。だが、こうした移動スーパーが話題になるということは、住民や生きている人のことを考えない政治の結果だ。そのことがわかっていない政治家が多い。
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