組合員主体でビジョンづくり 人・資源を総活用2016年3月11日
平成27年度地域営農ビジョン全国推進大会
JA全中が主催する平成27年度地域営農ビジョン全国推進大会が2月25、26日に開かれた。地域営農ビジョンの「実践部門」と「支援部門」の大賞と優秀賞に選ばれた12団体を表彰し事例発表や情報交換、総括討議などを行い大会宣言を採択した。
◆組合員起点に将来像
全中の奥野長衛会長は第27回JA全国大会で「農業者の所得増大」、「農業生産の拡大」、「地域の活性化」の3つを基本目標として「創造的自己改革への挑戦に取り組むことがJAグループの総意として確認された」ことを強調した。
なかでも農業振興にかかる取り組みが最重点課題で「農家が主体となって話し合い、十分な合意形成をもとに産地づくり、担い手づくり、地域づくりについて将来像を描き実践していく地域営農ビジョンの取り組みの実践は、地域農業の振興を図る豊かな地域づくりそのもの」、「農業の持続的発展をいちばん大事にしていきたい。地域農業と農村の振興を図るビジョン運動の強化を」と呼びかけた。
JA全中の大西茂志常務は情勢報告のなかで、農業の担い手は法人のほか、定年帰農者なども地域に増えており「地域の農家を集落営農法人として組織化し、そこが地域農業を担う部分も多い」などと指摘したほか、地域農業の全体像を描く地域営農ビジョン策定・実践運動の意義を強調した。
◆すべての人材が力を
実践部門の大賞は富山県魚津市の農事組合法人NAセンター。魚津市大海寺野地区で平成17年に設立。「地域の農業は地域で守る」を目標に掲げ多様な担い手が作業に関わることができる仕組みづくりや、園芸作物づくりなどに取り組んできた。
支援部門の大賞は青森県のJAつがる弘前。26年度からビジョン策定に取り組み28年度に全30地域192集落で策定される見込みとなった。集落営農組織化の成果は老若男女を問わない活躍の場ができたことや、地域住民との交流が深まったことなどだという。
審査委員長の谷口信和東京農大教授は各賞に輝いた取り組みについて「特殊なことをやっているわけではないいぶし銀のような取り組み」と評価した。
そのうえで「今の日本農業には、点の存在として優良経営の法人が各地に展開しているが、その点と点の間に広がっている地域農業としては全体として衰退している」と指摘した。個別経営自体の発展だけでは、日本農業全体の発展につながる歯車は回っていかず、そこに地域営農ビジョン運動の大切な役割があることを強調した。
その本質について谷口教授は「地域の資源を総活用すること」にあり、それによって地域農業、地域経済、地域社会全体を維持・発展させることに貢献することだと指摘した。その地域資源の総活用は2つの点を考える必要があるという。
1つは多様な人材の活用。不必要な人をつくることなく全員を必要とするよう組織化する。多様な担い手のなかに中核的・中心的な担い手がいる組織づくり、農業展開をめざすべきだと提言した。
400haを超える規模の大規模法人でも、水管理のため地域ごとに組織が作られているなどの事例をあげ「個別農家から農作業全部を取り上げないことが大事。農地を預けても、できることは個別農家で、できないことは組織でという分業関係から組織化を。すべての人材が力を発揮して地域農業を支えること」などと指摘した。
資源の総活用のもう一つのポイントは、農地を最大限活用する営農技術を追求し、多様な農産物を活用すること。水田農業に加えて果樹、園芸なども集落営農組織として「横串を通して」品目を束ねる取り組みが、複合経営の実現の面からも重要だと指摘した。
◆JAが司令塔に
審査委員と大賞受賞組織による総括討議では集落営農組織を地域住民の参加のもとで運営していく大切さが強調された。
農事組合法人NAセンターでは水田管理作業の再委託メニューを多くの地域住民が取り組みやすいように細分化している。労賃も他地域より高水準に設定するなど「何とか参加しようという気になる仕組みを心がけている」と馬場均代表理事は話した。
全集落で地域営農ビジョンの策定・実践に取り組むJAつがる弘前。竹原伸郎農業振興課長によると地域の集落営農づくりに最初からJA職員が関わるだけなく、非農家も集まる住民イベントなどにJA職員も顔を出して集落営農組織の活動の理解に努めている。また、集落営農組織の経理部門の支援にはその集落出身のJA職員が担当しているという。
審査委員の小林元・広島大大学院助教は「ビジョン策定にJAが司令塔として役割を果たすとともに、地域にJAが常に顔出すことも大事」と指摘した。
また、集落営農組織づくりをソバなど作物部会と統合して広域的に法人化した例など、広域ビジョンづくりも話題になった。ただし、「まずは、合併前の集落営農をしっかり経営することが大事。JAがそれを支援すべき」と中央農業総合研究センターの高橋明広ビジネスプロジェクトリーダーは指摘した。
そのほか多様な地域住民の参加といいながら「女性が農業機械を扱って農業参加するようJAも指導しているか。女性も含めて地域が守られているかが問われる」と谷口教授は女性参画の重要性を説いた。
総括討議をふまえJA全中の大西茂志常務は「参加と多様性、マネジメント」の重要性を指摘。大規模経営との連携だけでなく、地域住民、老若男女などの視点での地域農業への「参加」が必要で、農業を核にして人やモノを活用して「人が幸せになっているか」が重要だと話した。
そのうえで「地域農業の素晴らしさをアピールし、さらに磨きをかけて実践することが大事」と呼びかけた。
【平成27年度 受賞組織】
◎実践部門
・大賞(全中会長賞)=農事組合法人NAセンター(富山県魚津市)
・優秀賞(家の光協会会長賞)=農事組合法人フォレストウィンド津山(宮城県登米市
・優秀賞(日本農業新聞会長賞)=農業生産法人 株式会社百姓王(千葉県富津市)
・優秀賞(農林中金理事長賞)=農事組合法人市原地区布引営農組合(滋賀県東近江市
・優秀賞(全農会長賞)=農事組合法人羽賀台共同生産組合(山口県萩市)
・優秀賞(全共連会長賞)=庄手・梶木地区営農組合(宮崎県日向市)
◎支援部門
・大賞(全中会長賞)=JAつがる弘前(青森県弘前市)
・優秀賞(日本農業新聞会長賞)=JAいるま野(埼玉県川越市)
・優秀賞(全農会長賞)=JA福井市(福井県福井市)
・優秀賞(全中営農・経済改革対策委員長賞)=JA京都にのくに(京都府綾部市)
・優秀賞(農林中金理事長賞)=JA山口宇部(山口県宇部市)
・優秀賞(家の光協会会長賞)=JAたまな(熊本県玉名市)
【大会宣言】
わが国の農業・農村は、米価の低落、生産農家の高齢化、担い手不足など多くの課題を抱えており、地域農業の将来展望を切り開いていくためには、農家組合員が主体となって、地域農業の将来像を描き、実践していく取り組みが重要となっている。
このため、我々は、平成27年度地域営農ビジョン全国推進大会を開催し、「担い手づくり」「産地づくり」「地域づくり」等に優れた取り組みを行っている全国各地の先進事例を学び、地域営農ビジョンづくりの重要性を再確認した。
我々は、本大会の成果を生かし、JA・都道府県・全国の各段階において、次の事項を重点に、JAグループの創造的自己改革に組織の総力を挙げて取り組む。
1.集落・地区・生産部会等における「地域営農ビジョン」の策定・実践に向けた取り組みを強化する。
2.「地域営農ビジョン」の取り組みにより、地域に根ざした「JA地域農業戦略」を策定し、確実に実践する。
3.地域に根ざした「JA地域農業戦略」の 取り組みにより、JAグループの創造的自己改革を確実に実践する。
平成28年2月26日「平成27年度地域営農ビジョン全国推進大会」参加者一同
【実践部門 大賞(全中会長賞)農事組合法人NAセンター(富山県魚津市)】
◆地域の農業は地域で守る
平成17年に地区内全農家(73戸)が参加して設立。高品質で安全、安心な農作物の生産に努めることなどが事業方針。地区内の農地集積率は87%。耕作放棄地も復田させた。ブロックローテーションによる団地化栽培で耕地利用率は129%を実現。若手の登用と無人ヘリなど機械化の一方、水田管理作業メニューを細分化し一般構成員による作業参加、女性や高齢者のノウハウ活用と雇用や交流の場の提供も。新川大根など特色ある産地づくりに向け営農技術の追求も重視。高品質の農産物づくりと多様な人々の参加で農を通じた豊かな地域づくりを実現をめざしている。
【支援部門 大賞(全中会長賞)JAつがる弘前(青森県弘前市)】
◆集落営農組織を軸に農業振興
地域営農ビジョンは平成26年度が7地域・70集落、平成27年度10地域・55集落で策定され、そして平成28年度には13地域・67集落の予定となっている。管内30地域・192集落すべてでビジョンが策定される見込みだ。
弘前市を中心としたりんごの大産地だが、県内有数の水田地帯でもある。水田農業を超えて地域農業像を描くため、りんご部会や防除組合などと水稲を中心とした組織を地域で連携させて地域営農ビジョンを策定してきた。行政との連携も重視。JAは集落営農組織と事務委託契約を結び事務作業軽減などを支援。集落営農組織の合併による法人化もバックアップした。「老若男女が和める地域」など集落それぞれキャッチフレーズを掲げている。
(写真)奥野長衛会長、大西常務、谷口先生、大賞受賞組織と審査委員で討論
(関連記事)
・地域営農ビジョンの実践強化を-27年度全国推進大会 (16.02.26)
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