子どもの体験交流を 農業理解と活性化に2016年4月19日
JAグループは「農業者の所得増大と地域活性化」を大きな目標としているが、その実践の一環として農村が次世代を担う子どもたちと交流する事業への取り組みにJAも目を向けようと動きが出てきた。3月に全国農協観光協会が開いた「子ども農山漁村交流プロジェクトセミナー」の報告や意見などを紹介する。
◆経済効果を実感
「子ども農山漁村交流プロジェクト」は農水省、文科省などが連携して小学生に農山漁村での長期宿泊体験活動を推進するもの。学ぶ意欲や自立心が育まれることや、食の大切への理解、思いやりの心や豊かな人間性、社会性などが育つことが期待されている。
全国各地で受け入れ体制づくりが進んでおり、平成26年度で162の受け入れモデル地域としての組織がつくられている。宿泊体験に参加した小学生は25年度で約50万人。全国417地域が受け入れた。
受け入れ地域への影響について農水省の研究機関などの調査では▽農家民宿、農家民泊ともに7割以上で経済効果があると回答、▽農家民宿では25%が重要な収入源と回答、▽地域コミュニティの活性化効果ありと回答している。そのほか地域内の受け入れ関係者間のつながりの強まり、地域外協力者とのつながりの強まり、住民のやる気と生きがいの向上なども指摘されている。
◆若いファンづくり
全国農協観光協会が開いたセミナーでは、宮崎県北霧島地域(小林市、えびの市、高原町)の「北きりしま田舎物語推進協議会」の取り組みが報告された。同協議会は平成18年に設立。北きりしまならでは地域資源を活かした田舎体験を伝えるため農家民泊を主体とした事業に取り組んでいる。会員数は88人、受け入れ農家は57軒だという。
冨満哲夫会長によると、都市住民と交流して農業や食料の大切さを伝える農家民泊は「小さい農家、高齢農家、過疎地でもできる」と強調する。子どもたちへの教育効果も高いという。
平成26年度には修学旅行農家民泊体験で約1000名を受け入れ1300万円の経済効果があったと報告した。28年度には農家民泊で15校2200名を受け入れる予定。次世代に農業と地域の魅力を伝え自分たちの地域を守る活動だと位置づける。今後は受け入れ農家の拡大が課題だという。
新潟県上越市の田舎体験組織「月影の郷」は閉校が決まった小学校の再生計画で首都圏の大学生との連携が始まった。建築専攻の教員と学生と地域住民が建物の再生を話し合った。
民泊で子どもの農村生活体験を受け入れるなかで、再生した小学校の校庭や教室、体育館などを活用した伝統文化の学習や、郷土料理の食堂なども運営している。
平成17年度の開業から10年間での宿泊、体験など「月影の郷」の利用者は累計で4万4000人になるという。首都圏の大学生による小学校の改修、再生は10年かかった。現在は地元の大学生の体験学習も受け入れている。 月影の郷運営委員会の横尾修一会長は「地方創生の将来に向けて大学、大学生との連携は継続していきたい」と強調した。
◆農家所得の一環に
パネルディスカッションで福井県立大学の北川太一教授は「国の農業政策が大規模化推進なのに対し、子どもの農村体験では小さな農村、農業のファンづくりとして重要な意義を持つ。IターンやUターンにもつながる」と強調した。そのうえで「小さな地域が連携、補完し合って活動を広げていく」ことと「そうした地域をまとめてマネジメントできる人材の育成が重要」と指摘した。
全国農協観光協会の米本雅春代表理事専務は、子ども農山漁村交流プロジェクトについて、JAグループが掲げる「農業者の所得増大」を「農業所得+民泊などの所得」として実現する取り組みだと話す。
ただ、受け入れ地域の高齢化・担い手不足という課題もあるなか、行政や受け入れ地域協議会による農家民宿への支援の強化と事業継続のための人材育成と、事業承継対策に取り組むべきなどの課題も提起している。
(写真)3月に開かれた「子ども農山漁村交流プロジェクトセミナー」
重要な記事
最新の記事
-
飼料用米、稲WCSへの十分な支援を JAグループ2025年10月16日
-
【鈴木宣弘:食料・農業問題 本質と裏側】本質的議論を急がないと国民の農と食が守れない ~農や地域の「集約化」は将来推計の前提を履き違えた暴論 ~生産者と消費者の歩み寄りでは解決しないギャップを埋めるのこそが政策2025年10月16日
-
死亡野鳥の陰性を確認 高病原性鳥インフル2025年10月16日
-
戦前戦後の髪型の変化と床屋、パーマ屋さん【酒井惇一・昔の農村・今の世の中】第360回2025年10月16日
-
「国消国産の日」にマルシェ開催 全国各地の旬の農産物・加工品が集合 JA共済連2025年10月16日
-
静岡のメロンや三ヶ日みかんなど約170点以上が「お客様送料負担なし」JAタウン2025年10月16日
-
高齢者の安全運転診断車「きずな号」を改訂 最新シミュレーター搭載、コースも充実 JA共済連2025年10月16日
-
安心を形にした体験設計が評価 「JA共済アプリ」が「グッドデザイン賞」受賞 JA共済連2025年10月16日
-
東京都産一級農畜産物の品評会「第54回東京都農業祭」開催 JA全中2025年10月16日
-
JA協同サービスと地域の脱炭素に向けた業務提携契約を締結 三ッ輪ホールディングス2025年10月16日
-
稲わらを石灰処理後に高密度化 CaPPAプロセスを開発 農研機構2025年10月16日
-
ふるさと納税でこども食堂に特産品を届ける「こどもふるさと便」 寄付の使いみちに思いを反映 ネッスー2025年10月16日
-
「NIPPON FOOD SHIFT FES.」に出展へ 井関農機2025年10月16日
-
マルトモが愛媛大学との共同研究結果を学会発表 鰹節がラット脳のSIRT1遺伝子を増加2025年10月16日
-
マックスの誘引結束機「テープナー」用『生分解テープ』がグッドデザイン賞を受賞2025年10月16日
-
北海道芽室町・尾藤農産の雪室熟成じゃがいも「冬熟」グッドデザイン賞受賞2025年10月16日
-
夏イチゴ・花のポット栽培に新たな選択肢「ココカラ」Yタイプ2種を新発売2025年10月16日
-
パルシステムの奨学金制度「2025年度グッドデザイン賞」を受賞2025年10月16日
-
鳥インフル 英国からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月16日
-
鳥インフル デンマークからの家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年10月16日