農協運動の発展に寄与した16氏を表彰 食と農、地域と暮らしを守るために 農協運動の仲間達が贈る 第38回農協人文化賞2016年7月11日
農協運動の仲間達が贈る「第38回農協人文化賞」の表彰式および記念シンポジウムが7月6日、都内で開催され、祝賀パーティーには、奥野JA全中会長やジャーナリスト堤未果氏を初め200名を超える人たちが参加した。
【表彰式】
協同組合運動のさらなる発展のために
今回表彰されたのは、経済事業部門2氏、営農事業部門3氏、共済事業部門2氏、信用事業部門2氏、厚生事業部門1氏、一般文化部門5氏、特別賞1氏の16氏(詳細は6月30日号参照)。
表彰式では、佐藤喜作(一社)農協協会会長が開会のあいさつをし、今村奈良臣農協人文化賞選考委員会委員長が「これまでに391人、今回の16人を加えて407人にのぼる農協運動の先達を表彰してきた」ことや、今回の選考にあたっては、「各界からの推薦が昨年に劣らず多数にのぼったために、選考は熱気の中に慎重に進められ」その結果、特別賞を加えた7部門16氏に決まったと、選考経過を報告した。
そして、今村奈良臣選考委員会委員長から、受賞者一人ひとりに表彰状と盾及び副賞が手渡された。
その後、来賓の吉村保繁JA共済連常務理事と新世紀JA研究会を代表して萬代宣雄前JAしまね組合長が、16名の受賞者の功績を讃えて祝辞を述べた。萬代氏は新世紀JA研究会の代表である八木岡努JA水戸組合長が、今回の受賞者であるため、同会を代表して祝辞を述べた。
【記念シンポ】
総合農協としての役割を地域で確立
表彰式後、受賞者をパネリスト(3名の受賞者が所用のため欠席)に、「もう一度考えよう 農業協同組合の役割を――命とくらしと地域を守るために――」をテーマにシンポジウムが行われ、会場には約150名が参加した。司会は石田正昭龍谷大学教授が務めた。
シンポジウムは、受賞者が「私の体験と抱負」(本紙6月30日号掲載)の要点と各JAなどにおける「JA改革」について報告。その後、会場からの質問・意見ををまじえて、改めて農協の役割について討論した。
厚生事業部門受賞者の土井一輝氏はTPP問題にふれ「米国の狙いは農産物関税だけにあるのではなく、JAバンクとJA共済にある。JAはそのことに気付かなければいけない」と指摘した。
梶井功東京農工大名誉教授は会場から「いま行われていることは、『改革』ではなく『農協潰し』につながっている。かつては農協批判をしても農協がいらないという財界トップはいなかったが、いまは、財政負担無しならいいが、そうでなければ農業がなくてもいいといっている。そのための第一歩が『農協改革』だ」との意見を述べた。
受賞者の一人山本勉生氏は法人の立場から「地域を守るためにはJAや行政と一緒にやらなければ無理であり、JAと一緒にという法人経営者は多いので、JAが頑張って欲しい」と述べた。
また、農水省幹部や政府高官などから「農協の正組合員は農業者なのだから、そこに向けて仕事をする職能組合となればよいのであって、地域農協になる必要はない」。「民間企業が撤退したこと(事業)は農協がやってもいいが、撤退しないところは農協がやる必要はない」といわれたとの指摘も出た。さらに「ICT化が進めば金融事業の窓口は不要になる。地銀も潰れる時代だから、代理店になればいい」といわれたなどという報告がされた。
会場からは「全中の社団法人化か准組合員の利用規制かの選択を迫られ、結局、全中社団法人化を選択したが、それにもかかわらず准組問題は5年後までに...とされた。この状況は危機的だ」との指摘もあった。
広島県JA三次の前組合長の村上光雄氏は会場から「中山間地域では民間も介護から撤退している。JAが既成事実をつくりあげ、農協を潰すことができない。農協がなくては地域が成り立たない」という既成事実を築くことが重要だとの意見を述べた。
受賞者の床爪晋氏は「相続税対策の相談をJAがきちんと受けることが大事」であり、そのことで後継者のJAへの信頼が高まる。床爪氏のJAには農業地帯のJAから職員が研修にきてかなりの成果をあげていると報告した。
また農協関係ではない人から「農協法改正の一番の問題は『非営利』を外したこと」としたうえで、「朝ごはんを食べる人の半分以上はパン食だがこれでTPPに勝てるのだろうか。また、TPPではISDS条項が非常に重要」だとの指摘もあった。
特別賞受賞の関青山学院大学名誉教授は、専攻の会社法の視点から、協同組合について次のように指摘した。会社などのゲゼルシャフト(利益社会)は事業をして利益を追求するが、そのためには「騙す」こともいとわない。米国は儲けるためには冷酷で、フリードマンの新自由主義や株式会社はそうした存在だ。それにブレーキをかけるのが共同体や家族といったゲマインシャフト(共同社会)だ。協同組合はその両方を兼ね備えたゲノッセンシャフトであり、素晴らしい存在であり、これからさらに協同組合について研究していくつもりだとした。
石田教授は、「JAの信用事業が代理店になって、組合員や全国民の信頼が得られるのか」。さらに「准組合員問題については、相手は『員外』といっているが、JAにとっては准組合員も組合員だ。准組合員が正組合員の利用を妨げなればいい。信用・共済事業は正組合員の利用を妨げることはまったくない。そのことをきちんと踏まえてまとめていかなければいけないのではないか」とまとめた。
【懇親会】
受賞者の業績讃える
奥野全中会長ら200人
情報交換し交流深める
農協改革の議論で盛り上がったシンポジウムの余韻が残る中、記念パーティーには、奥野長衛JA全中会長を始め全国のJAや全国連の関係者など約200人が参加した。16名の受賞者を囲んで、和やかなな中にも、昨今の農業・農協をめぐる大きな環境変化への対応など、あちこちに意見交換の輪ができた。
記念パーティーでは、(一社)農協協会の佐藤喜作会長が開会のあいさつで、現在日本は戦後、「生きる」上で、もっとも根本的なことが問われていると指摘。「人が生きる上で必要な大気、水、食料を守るべき農業、農協、農家、そして平和が崩れ去ろうとしている」という。
その上で、「戦後変わらなかったものが変わろうとしている。これまでの農協人文化賞の受賞者約400の仲間が蓄積してきたものが崩れ去ろうとしている。われわれの子孫が変わりなく生きていけるように農を守り、平和を守ることのできる未来を語り合おう」と呼び掛けた。
来賓あいさつ (要旨)
◆女性の感性が大切
来賓として出席したJA全中の奥野会長は、明治以後の絹の輸出に触れ、品質のよい国産農産物の輸出に日本農業の可能性を見出す。また、最近農業高校に進学する女性が増えていることに対して、「機械化が進み、農業は女性でも十分できる。それにこれからの農業は感性が必要になる」と、作目の選定や商品開発などに女性の感性が必要であることを強調。「日本の農業はまだま頑張れる」と述べた。
同じく来賓のJA全農の香川法男参事は、「地域農業を育て、次世代につないできた業績に敬意を表する」とあいさつ。
また(一社)家の光協会の河地尚之常務は、農協改革で問題になっている准組合員の問題に対して「家の光協会として何ができるか検討している」ことを明らかにした。
EUの影響を懸念
山田俊男参議院議員は、イギリスのEU離脱に触れ、「EUの共通農業政策がどうなるか分からない。これが崩れると日本の農業政策にも影響が心配される」と指摘。
さらに今日の金融危機について「成長戦略の限界か。このまま続くと日本も大事なところが崩れてしまう」と、英国のEU離脱による影響に懸念を示した。
世界に誇れるJA
ジャーナリスト堤未果さんも出席してあいさつ。今のアメリカでは、さまざまな共同体が暴力資本主義によって次々と破壊されている現状を話した。その上で日本が守るべきものとしての国民皆保険と農業の2つを挙げる。「『今だけ、金だけ、自分だけ』の資本主義に対して『お互い様』の精神で地域を、農業を守る。このことに胸を張って一緒に頑張っていこう」と、日本のJAにエールを送った。
(表彰式・記念シンポの写真)
受賞者ら、審査結果を述べる今村奈良臣委員長、あいさつする佐藤喜作会長、シンポジウムで報告する受賞者、会場からも活発に意見が出された
(懇親会の写真)
挨拶するJA全中の奥野会長、香川法男参事、河地尚之常務、山田俊男参議院議員、堤未果さん、受賞者を囲んで懇談する参加者
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