荒廃園地にブドウ ワイナリー視野に担い手 長野・JA信州うえだ直営農場2016年12月9日
長野県・JA信州うえだのJA出資農業法人(有)信州うえだファームはブドウを中心に、耕作放棄地の再生による新規就農者の育成に力を入れている。平成21年度から取り組み、31人の研修生を受け入れて、現在11人が独立就農。作目は果樹と野菜だが、県の「信州ワインバレー構想」のもとで行政・民間のワイン企業等と連携し、ワイナリー経営まで視野に入れた取り組みを軌道に乗せている。
JA出資型の農業法人づくりが全国的に増えている。この背景には、農業者の高齢化で、JAの組織・経営基盤であるJA自らが生産に乗り出し、農地の維持管理、担い手育成に取り組まざるを得ない状況がある。JA信州うえだ管内も同様に、厳しい農業環境にあり、平成12年にJAの子会社・信州うえだファームを設立した。
JAが農業経営することで農業の担い手としての役割を果たしながら、地域の様々な面で波及効果を与えようというもの。現在、水稲・麦・大豆のほか野菜、果樹など合わせて73haを経営している。そのなかで重点事項として取り組んでいるのが21年度から始めた新規就農者育成。これまで露地・施設野菜、果樹、ワイン用ブドウをあわせ、現在研修中の15人をのぞいて31人の研修生を受け入れ、11人が独立就農した。
研修生は職員として扱い、普段は同ファームが借り受けた農地を提供し、就農に当たってこの農地を引き継ぐ。管内では、特に樹園地の荒廃が進んでおり、この維持が喫緊の課題となっている。これまでに預かった樹園地が14.2haで、6.2haを改植し、4.7haを5人の研修修了生が継承した。
そこで、いま期待されているのがワイン用のブドウ。同県の信州ワインバレー構想に乗り、東御市にある日本ワイン農業研究所(株)(千曲川ワインアカデミー)と連携し、1年間を研修生で通い、醸造などワインに関する知識や技術を取得する仕組みをつくった。将来、ワイナリーを持とうという人など、現在7人が研修中。20歳から40歳までいるが、これまで農業と直接縁がない人ばかりだという。
その一人、研修生で将来、ワイナリーの経営を目指す田口航さん(33)は、「スペイン料理のレストランでアルバイトし、ワインに興味を持った。2年間の研修で栽培、醸造の技術を学び5年後にはワイナリーを持ちたい」と話した。
信州ワインバレー構想によって、東御市で荒廃園地再生による30haのワイン用ブドウ団地づくりも進んでいる。こうした動きに合わせ同ファームでは、現在、全国的に絶対量不足のワイン用苗木の生産にも取り組んでいる。
農業者の高齢化が確実に進むなかで、地域農業を維持するため、JA出資の農業法人の役割がますます重要になるが、ともすれば生産効率の悪い条件不利地で農地管理を委託され、経営を圧迫するケースが多い。同ファームの船田夫常務は「ワイン産業を核とする6次産業化、農商工連携で地域経済を活性化させたい」と、期待を込める。
(写真)ワイナリーに夢を懸ける研修生の田口さん、荒廃園地を改植したワイン用ブドウ園
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