果樹の霜害防ぐ最新の自動観測装置を導入 ――スマート農業で生産者の負担を軽減 JAふくしま未来2017年4月26日
全国でも有数な果樹・野菜産地である福島県のJAふくしま未来は、これまで霜対策のために人が行ってきた温度等の観測を、NTT東日本が開発した自動的に観測を行うシステムを農業界として初めて導入した。4月初めから観測を開始しているが、その記者発表会を4月25日に同JA本店で行った。
◆人が観測し対応してきた防霜対策
JAふくしま未来は、果樹(モモ、ナシ、リンゴ、柿など)生産量が約2万6000t、さらに野菜(キュウリ、トマト、ニラ、ナスなど)が約1万6000tという、果樹・野菜の大産地だ。
そのなかでも果樹については、開花期となる4月からは「霜」による重大な被害が発生する可能性の高い時期であるため、「半世紀くらい前」から農家組合員やJA職員がポイントとなるほ場で夜8時から夜明けの4時半まで、1時間ごとに温度観測を行なっている。凍霜害が発生する危険温度に達する前に、果樹園地内で燃焼剤を燃やして空気を対流させて温度を上げるといった取り組みを実施してきている。
毎年、果樹の開花期である4月にJAは「防霜対策本部」を設置し、霜注意報が発令されるとJA職員と組合員約60名が福島地区に点在する56カ所の観測地点でこの観測を実施。その人的な負担が大きな課題となり、JAではこれに変わる自動化の仕組みをいろいろと検討してきた。
しかし、ほ場の観測装置に電源が必要で、そのメンテナンスを行わなければならない。さらに、観測データの送信にモバイル回線を利用するので通信コストがかかるなど、コストや効率面で難点があり導入を見送ってきた。
◆電源・送信費用不要の自動観測装置
今回導入されたNTT東日本が開発したほ場センシングソリューション「eセンシングForアグリ」は、電池など電源不要のエネルギーハーベスティング(環境発電)によって、温度・湿度・照度を観測するセンサーと、モバイル回線費用が不要なLPWA方式(省電力でkm単位の距離で通信できる無線通信技術)無線通信機器を設置できるなど、コストパフォーマンスに優れたもので、「スマート農業」を促進するツールだといえる。
観測は15分ごとに終日自動的に実施され、データはNTT東日本のオンラインストレージサービス「フレッツ・あずけ~る」に自動収集され、スマホやPCなどを通じてほ場環境を"見える化"できる。
観測拠点はこれまでに行ってきた観測のデータ分析を踏まえて37カ所に絞り、そこから500m~1.5km(もっとも長い距離で2.6km)のところに受信拠点18カ所を設置。受信拠点がインターネットを通じて「フレッツ・あずけーる」にデータを送る仕組み。JAの本店も受信拠点となっている。
JAふくしま未来では、収集されたデータをJAで管理し、危険温度に達すると予測された時には、登録されたメーリングリストから警告メールを自動的に発信するようにしている。
また、同JAのホームページで1時間ごとのデータが公開されており、そこで確認することもできる。 こうしたシステムはすでにいくつかあるが、施設など屋内向けが多いこと、防水など屋外での使用に耐え、しかも電池交換など電源管理や送信コストが不要なものはないのではないだろうか。
現在は、果樹の防霜対策として導入されているが、通年で観測できるので、米や野菜類の積算温度の観測にも使える。また、二酸化炭素濃度の観測センサーを搭載すればハウスなどでの栽培管理にも、十分に応用できるという。
◆今後の事業展開の起爆剤に 菅野組合長
こうしたことを踏まえて、菅野孝志JAふくしま未来組合長は、次のように語った。
果物だけではなくて農産物すべてに活かせるので、汎用的に拡大し、これからの地域農業のいろいろな面で活用できるように、取り組みを強化していきたいと考えている。
さらに、震災前には368億円の販売高があったのに、現在は280億円となっている。これの復活に向けて、このシステムを一つの起爆剤として、これからの事業展開を進めていきたい。
また、JAは金融や共済などを含めていろいろな渉外活動を通じて、農家や地域の人たちとお付き合いをさせていただいているが、営農指導員だけではなく、金融や共済などの渉外担当者もこのデータを少しでも取り入れ、その情報を農家の方々に提供したい。コミュニケーション能力を高めていける非常に有効な手段になるといえるので、一つの分野に止まることなく、各事業でも活かせるように、活用の方策を考えていきたい。
(写真上から)「eセンシングForアグリ」の太陽光パネル(上)と温度センサー、JA本店に設置された受信アンテナ、あいさつする菅野組合長
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