組合員から選ばれるJAに-「JA人づくり研究会」より2017年11月7日
政府による農協改革を受け、全国各地のJAグループで、自己改革への取り組みが進められている。しかし、平成26年の規制改革会議による答申から3年あまりが経過し、先進的なJAと後れを取っているJAに取り組みの格差が現れ始めている。
政府が定めた農協改革集中推進期間の折り返し地点となる今、自己改革にどう向き合えばよいのか、そして地域におけるJAの役割とは何かを、自己改革に積極的に取り組む2つのJAの実践から考えたい。
【JAぎふ】
「JAが無くなっては困る!」と言われる組織を目指す
岐阜県のJAぎふは、6市3町を事業エリアに広域合併し、今年で10年目を迎える。組合員数は正・准含め10万人以上、職員数も1000人を超える大型JAだ。
自己改革の取り組みは、平成26年6月に閣議決定された「規制改革実施計画」をきっかけとして始まった。「それまで各役職員が心の中に秘めていた『このままではいけない』という思いが表面化し、『なんとかしたい』という前向きな行動に結びついた」(JAぎふ・岩佐哲司常務理事)。これを契機に自己改革対応の具体的なロードマップ作成を視野に入れた、「第3次中期経営計画」の策定に着手することになる。
(写真)岩佐哲司・JAぎふ常務理事
「第3次中期経営計画」は、トップダウンではなく、より現場に近い部長クラスが中心となって、組合員や職員の意見を丹念に積み上げる形で作成した。主テーマは「積極的な自己改革への挑戦」。
∇農業者の所得増大の実現
∇総合性の発揮による地域の活性化
∇組合員と利用者に信頼される経営基盤の確立
という3本の基本目標を打ち立て、自己改革を多面的に実践するための指標とした。
ここから本格的な取り組みがスタート。生産コスト低減に向けて、ホームセンターから通販に至るまで、あらゆる媒体の生産資材価格の調査を実施、仕入れ交渉を行った結果、取引価格の大幅低減が実現した。米の販売対策では、大手外食チェーンと連携した相対取引で、業務用米の複数年契約を締結し、需要に応じた生産体系を構築、米生産者の経営安定化を図った。また、新たな販売チャネルの拡大に向け、量販店へのインショップ販売にも取り組み始めている。
広域合併したJAぎふの総面積は約1000平方kmと広大で、組合員との物理的な距離が心の乖離を生み出しかねない。そこで、本店各部署と管内に54ある支店が連携し、組合員のなかから重要世帯を設定して、役員や部課長が支店職員とともに定期的に訪問する「みらいJAプロジェクト」を開始。組合員から上がった課題や情報は共有し、即時対応に当たる。いずれは全職員による全世帯訪問につなげる意向だ。
一方、認定農業者や生産部会、支店役員等を中心に、中期経営計画の期待度と満足度を尋ねる「組合員アンケート」を実施し、自己改革の取り組みが組合員の実情に伴走しているか振り返りも行った。「営農指導体制・出向く営農指導強化」と「組合員の意志反映強化・情報発信」の2つの項目で、期待度に対し満足度が低いことが分かり、いっそう力を入れる方向性が定まった。
お題目に終わらない、実行可能な計画を組み立て、組合員から汲み上げた意見や要望を経営に反映させる仕組みを構築しながら、多面的に自己改革を進めるJAぎふ。「組合員や地域の利用者から『JAが無くなっては困る!』」と言われる組織を、まずはJA役職員が中心になって、そして組合員と力を合わせて目指していきたい」という。
【JA梨北】
"組合員メリット"の創出を主軸に、さらなる「自己改革」
政府による農協改革が叫ばれる以前から、自主的な改革に継続的に取り組んできたのが山梨県のJA梨北だ。「平成26年度に策定した『第7次中期経営計画』のなかで、これまで協同活動の意義や組合員意識の継承を"なおざり"にしてきてしまったこと、JAの存在意義は、組合員の営農と生活、そして財産を守ることにあることを、あらためて確認し、組合員が求める改革を実現する決意を表明した」(JA梨北・仲澤秀美常務理事)。その後、まるでそれを知っていたかのように社会が一斉にJAへの攻撃を始めたが「これまで積み重ねてきたことを粛々と、今向かっている方向に進んでいけばよいのだという手応えがあった」。
(写真)仲澤秀美・JA梨北常務理事
JA梨北では、"あるべき姿の追求"をテーマに、組合員の営農・生活・財産を守ることを目標とした経営方針を組み立て、自己改革を着実に進めている。
経営方針の主軸は"組合員メリット"の創出という理念だ。代表的な営農戦略が、段階的な「梨北ブランド」の確立。規格をクリアした商品「メイドイン梨北」を中心に、最高級品の「メイドイン梨北エクセレント」、農産物直売所向けの「マルシェ梨北」など、ストーリー性のある差別化で、管内農産物の廃棄ゼロを目指し、組合員メリットの増大を図る。
(画像)メイドイン梨北のロゴマーク
特Aのブランド米として定着する「梨北米」は、米袋としては通常あり得ないとされる黒色をベースに、金文字が浮かび上がるデザイン。食味だけでなくビジュアルでも他地域の米との差別化を図り、販売力を上げる。また、セブン‐イレブンと周年契約を結び、県内約200店舗のおにぎりや弁当に「梨北米ブランド」がはっきりと記され、使用されている。
単一JAでは全国的にも珍しい病院の運営や、農福連携、産学連携など、JA梨北の事業組み立ては実に立体的だ。それは組合員や地域を点でなく球で捉えているからだ。「組合員にはJAを使う権利はあっても義務はない。都合のいいときに使ってもらえる使い勝手のいいJA、そして組合員であることに満足していただけるJAになることがJA梨北の自己改革の完成形。ビジネスとして成り立たない地域の最後の砦でありたい」。
多様化する組合員と向き合い、将来どうありたいのか、ストーリー性をもって地域のグランドデザインを共に描く。「農協改革の波は、JAが存在意義を取り戻すチャンス」と仲澤常務はいう。JAが果たす社会的な役割とは何か、今、真剣に向き合うべきときがきている。2つのJAの実践がそう語っている。
(画像)マルシェ梨北のロゴマーク
「第28回人づくり研究会」は10月27日に東京・大手町開催された。
研究会では、「政府による農協改革とJA自己改革の課題と対応」をテーマに、この2JAの実践報告のほか、広島大学の小林元助教による現地レポート、総合討議が行われた。(JC総研・小川理恵)
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