第6回JA活力ある職場づくり全国研究発表会-JA全中2017年11月14日
JA全中が主催する第6回JA活力ある職場づくり全国研究発表会が、11月9日、東京・大手町のJAビルで開催され、22都道府県のJA・中央会・連合会の役職員約40人が参加した。
わが国の職場環境は近年大きく変化している。非正規雇用比率を見ても11年から16年の5年間で35.1%から37.5%に高まっている(総務省「労働力調査(特別調査)」2月調査)。また、女性活躍推進とダイバーシティ(多様性)への取り組みがより一層求められるようになった。これは「自己改革」に取り組むJAの職場においても同様である。
これまでJAグループでは、2009年の第25回JA全国大会決議で「活力ある職場づくり運動」を提起し、組合員の営農や暮らしを支えるJA職員の育成を図る取り組みを進めてきた。日々の仕事の中で、自らの仕事や部門の枠を越えて、仲間同士が支え合うとともに、組合員の営農とくらしに寄り添い、評価される仕事をしていくことで、仕事のやりがいを感じ、職員が成長していくというものだ。
しかし、今回の研究発表会では、職場づくりの取り組みが職場環境の改善など現場職員レベルの活動に留まるものではなく、経営者の明確な意志を伴う経営活動そのものであるとの立場から取り組み発表が行われた。
(写真)第6回JA活力ある職場づくり全国研究発表会の会場
発表会は、主催者であるJA全中の馬場利彦参事・JA支援部長のあいさつ、同部教育企画課の田村政司課長による情勢報告に続き、(株)ローランド・ベルガー会長の遠藤功氏による記念講演「JAの職場づくりに期待する」が行われた。その後、取り組み発表としてJA鹿児島きもつき代表理事組合長の下小野田寛氏らによる「No.1きもつき! 起こそうイノベーション!」、生活協同組合コープさっぽろ理事長の大見英明氏による「経営再建とV字回復の職場づくり」、城北信用金庫採用研修部長の枝村治信氏による「城北信用金庫の人材育成への取り組みについて」と題する3つが行われた。最後に遠藤氏をコーディネーターとした総合質疑が行われた。
◆答えは自分でつくる
ローランド・ベルガーの遠藤会長は講演で次のように指摘した。
JAの活力ある職場づくり運動は始まって10年近くになるがJAは変わったのか、全国を歩いてみると素晴らしいJAはあるがそれは点でしかない。点から線に、線から面にできていない。この運動は本気でやらないと目的が実現しない。今は環境が激変しており、未来が読めない。それなら未来を自らの手でつくる。答えがない。だから自ら答えをつくらなければならない。それを単位JAで、さらには支所・支店でつくる。そしてもう一度新たな成長を現場からの積み上げでつくっていくことが求められる。職場づくりは手段にすぎない、JAの革新や変革につなげることが目的である。止めるべきことは止め、新たな創造に取り組まなければならない。
(写真)ローランド・ベルガーの遠藤会長
◆人が最高の財産
JA鹿児島きもつきの下小野田組合長は、2017年9月に開催された宮城全共(第11回全国和牛能力共進会)で鹿児島県が総合優勝した背景に、同JAから出品された和牛が大きく寄与したことを紹介した。これはJAの畜産部門だけでなく全職員、農家、行政等関係機関のすべてを巻き込み勝ち取ったNo.1の称号だという。
かつて下小野田組合長はJAの経営改革に懸命に取り組んだ。当時は経営不振JAの事業そのものをどのように立て直すかということにあまりにも傾きすぎていて、人の心に目を向けていなかった。しかし今やっと、人に目を向けそれぞれ違う一人一人に目を向けることができるようになった。「人が最高の財産」であり、「一人一人の職員の人生を幸せにするために職場がある。これを実現することも経営者の責任」と語った。それはJAの役職員だけでなく、組合員、地域を大きく巻き込んだ「チームきもつき」を創ることであり、それがあるからこそ、イノベーションに挑戦できるのだという。「今では職員の中途退職がなくなった」という。県内でも際立って離職率が低い。これこそが職場づくりと事業とに関係があることを端的に示す事実だろう。下小野田組合長は「職員をよくすれば組合員が喜んでくれる。私自身楽しい」と語る。
(写真)
JA鹿児島きもつきの下小野田組合長
◆組合員の支持で組織再生
生活協同組合コープさっぽろの大見理事長は、1998年に経営破綻したコープさっぽろが、99年1月から断行したリストラを紹介。希望退職による人件費の削減、不採算店・不採算部門のスクラップとともに、食品中心で特化型の店舗づくり、共同購入事業の強化の4つ、いわば拡大再生産による再建以外の道はない、と決意し「残るも地獄・去るも地獄」というリストラを断行した。
店舗展開の再編、人事制度は業績による人事評価を導入、パート職員の登用制度など平等主義から成果主義へと舵を切った。そこには降格人事もある。
大見理事長は、20年前に経営破綻した生協を瀬戸際から回復させることができた背景に「職員の危機の共有化」があり、コープさっぽろの再建を成功させた要因だという。また、「組合員は見捨てなかった」。地域の組合員さんから支持されて、「私たちは生かされている」という。
こうした思いを経営再建の苦しい時代を知らない若い世代に伝えることが課題だという。
(写真)生活協同組合コープさっぽろの大見理事長
◆職員自らの発見重視
城北信用金庫の本部には人材育成を専門に担う採用研修部がある。枝村部長は、若年層の教育で、「われわれは誰のために仕事をするのか」と質問するという。そして、銀行と信用金庫との違いを次のように説明する。
「銀行は利益を得る仕事をする。つまり取引のある先がお客様。信用金庫は地域に利益を与える仕事をする。つまり地域すべてがお客様」。そしてこれが城北信用金庫が地域の一員だと思われている理由だという。まさしく地域「密着」型金融である。同金庫の経営戦略は、提供する価値を2つに区分した上で立案されている。1つは「当たり前なこと(消極的価値)」、これは金融の世界は手堅くということである。2つ目は「サプライズなこと(積極的価値)」、非金融の世界は革新的にやっていくということである。この2つの「世界観」をベースとして経営戦略を組み立て、差別化を図ろうというのである。しかし、戦略を実行するのは人であり職場である。そのために不可欠な能力開発体系と専門人材の育成の取り組み、本部主導のOJT施策について報告をした。金融機関の役割として資金供給の役割にとどまらず、取引先企業の事業拡大や経営改善等の向けた情報提供や適切なアドバイスができるコンサルティング機能強化プログラムの展開や、若手営業担当者の育成に「お客さま発見」シートを作成、前任者からの引き継ぎではなく自分自身で聞き取りニーズを発見することが大切であると社員に伝えるプログラムなどを紹介した。
◆JAは理念が強み
総合討議ではコーディネーターであるローランド・ベルガーの遠藤会長が次のように締め括った。「組合員活動が行われる協同組合は、自分たちが何ものなのかをはっきり語れる組織である。理念や信条が強みになる。理念に基づいて主体的に動いていく職員をつくる教育や人事制度が必要。職場づくりはそれぞれの職場の問題ではなく、経営の問題である。職場づくり、そして改革はすぐにはできない。大きな絵姿を見据えた上で、先ず第一歩を踏み出してほしい」。
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