JA出資型法人を軸に担い手支援を JA全中が実践交流研究会2019年2月5日
直接農業経営に乗り出すJAが増えている。JA全中は1月24日、東京都内でJA出資型農業法人の全国実践交流研究会を開き、4JAの事例報告をもとに、そのあり方を探った。単なる個人経営と違い、担い手の育成や農地の維持、環境保全など社会的な役割を果たしており、それぞれ特徴ある取り組み報告があった。
報告したのは兵庫県JA兵庫六甲の(株)ジェイエイファーム六甲、山形県JA庄内たがわの(株)あつみ農地保全組合、茨城県JA常総の(株)常総アグリサポート、それに長野県JA信州うえだの(有)信州うえだファームのJA子会社。
◆都市部ならではの役割
ジェイエイファーム六甲は、都市部地域のJA出資法人で、(1)農作業支援、(2)就農者の育成、(3)モデル農業経営、(4)新たな事業創出の4つの目的を持つ。農作業支援は、稲発酵粗飼料(WCS)と水稲作業支援が86ha、土づくり(42ha)、農地の管理作業などが約175ha。
平成30年度で預かり農地は52haあり、協力金として地権者に10a当たり1万円を支払う。キャベツやスイートコーンを栽培しているが、5年間でいまだ計画収量を達成しておらず、野菜栽培の難しさを示している。同ファーム松井紀之・総務部兼農業支援部長は経営の課題として、労働生産性向上、販売力強化、それに社員のモチベーション向上を挙げる。
一方、平成30年度から1.2haの高度環境生業ハウスの運営を始めており、イチゴやトマトの栽培を目指す新規就農者の研修希望に対応する方針だ。このほか、都市部ならでは取り組みとして生産緑地等で市民農園の管理と巡回を行い、スイートコーンの観光農園も計画している。
(写真)JA出資型法人のあり方を探る
◆休耕地で働き稼ぐ場に
(株)あつみ農地保全組合は中山間地域におけるJA出資型法人の典型で、農家6戸とJA庄内たがわ100万円の出資金で設立。名前の通り、耕作放棄から農地を守り、地域営農を育てることを目的とする。耕作放棄農地を復旧し、約50haでソバ、水稲、大豆、カブ、ワラビ、アスパラガス、ミョウガなどを栽培。
休耕田を農家の働き場所にする仕組みをつくったところに特徴があり、高齢や労力不足で休耕せざるをえなくなった農家は10a3000円で保全組合員に農地を預け、農地の管理、作物の栽培などに作業員として農作業に専念する。
栽培する作物は経費、労働時間など徹底した経営分析によって選定する。JAたがわの営農指導員で、出向している同組合の佐藤昌幸・統括管理部長は「組合の目的は農地を守ることであり、黒字前提でないと農地は守れない」と、マネジメントの重要性を強調する。
経営の確立だけでなく、「決算書に乗らない資産」(佐藤部長)も生まれつつある。保全組合の影響を受けて、担い手農家や作業班から発展した集落営農法人が生まれ、農業機械の共同利用などが始まった。
◆JA広域合併で再編成
(株)常総アグリサポートは資本金6070万円。平成29年度の売上高約8億1900万円で、育苗センターやライスセンター、農機利用、お茶加工などのほか、水稲119ha、畑作162ha、それに水稲、ソバなどの受託作業を行う。
アグリサポートセンターの鈴木秀行取締役専務は、平成の26年のJA合併に伴う子会社の合併の経過と課題について報告した。同センターは合併前、別々にあった農業関係法人の合併で生まれた。それぞれ労働条件が異なり、鈴木専務は、「最初、管理費増加や地区別社員のモチベーションを考慮しながら就業規則・給与体系の調整で苦労した」と話した。
同部長は合併後の課題として、管内には11市町村があり、合併前は別々の行政に同じ補助金申請ができたが、合併後は窓口の行政を決めるのが難しくなった。また老朽化している施設・農機の更新、エリアが拡大したことで人員配置が困難な施設も生じているという。
◆新規就農者を育成
(有)信州うえだファームは資本金3620万円で、JAが99%出資。耕作放棄地の再生・利用を目的とする子会社だが、野菜、果樹で、新規就農者の育成に特徴がある。約7400haの経営面積のうち、果樹が約1000ha、野菜が900haを占める。
各種の補助事業を活用して新規就農希望者を直接雇用し、2年間、栽培技術、経営管理取得の研修を行う。研修ほ場は同ファームが借り受けた農地を提供し、研修修了後、そのまま引き継ぎ、農家として自立させる。就農時には行政など関係機関の協力で、農地、住宅等の斡旋、地域への受け入れ支援などを行う。
同ファームは、JA管内で「信州ワインバレー構想」に取り組んでいる東御市にある日本ワイン研究所(株)に出資。研修生は、栽培だけでなくワイナリー開設のノウハウを取得することもできる。「新しい地域のブランドに成長させたい」と期待する。
一方、 ファームの運営上、解決すべき課題として、耕作者のいない条件不利地を引き受ける場合が多いことのほか、周年雇用のため冬季の現金収入が少ない、新規就農者も正社員として雇用するため技術力不足、などを挙げた。
なお、実践交流研究会では、東京大学名誉教授の谷口信和氏、岐阜大学准教授の李倫(「人」べんなし)氏が、JA出資型法人についての論点と課題について問題提起の基調講演をした。
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