「農家手取り最大化」へ挑戦 全農コスト削減の成果発表2019年2月13日
・モデルJAの経験に学ぶ
JAと連合会(経済連・全農)は、JA自己改革として55JAをモデルに平成30年度まで、「農家手取り最大化」に挑戦してきた。JA全農は、2月7日、その成果発表を行い、山形県のJA庄内みどり、滋賀県のJA北びわこ、長崎県のJA島原雲仙、愛媛県のJAおちいまばり、新潟県のJA越後中央の5JAが、それぞれ地域の特性を活かした取り組みを発表した。
農家手取りのアップは、JA自己改革の根幹であり、全国から関係者320人が参加。モデルJAも55JAが全て参加し、この課題への関心の高さを示した。発表したJAはいずれも、(1)トータル生産コスト低減、(2)人材育成・多様なニーズへの対応、(3)モデル経営体の取り組みの3つを柱に、農家所得の増大に取り組み、成果をあげている。
JA全農はこの課題に対し、次期3か年計画で「取り組み成果の水平展開」「経営体の所得増大実証」を取り組み方向として掲げており、管内での座談会や実演会の実施、経営体の課題に対する実践メニューの提案などを行うよう呼びかけている。
成果発表会には農水省の末松広行事務次官が来賓で出席。同次官は日本の農産物の輸出に触れ、「いま、日本の農産物は世界で高く評価されている。人口減で国内消費が減るなかで輸出はJAにも農家にもプラスになる。それには従来の延長ではなく、輸出先のニーズを見極めた農産物を輸出することが重要だ」と述べた。
(写真)320人が出席した成果発表会
JA庄内みどり
農薬の大型規格化
ヘリ防除5000haに
JA庄内みどりは、生産コストの低減に、農薬の大型規格品、肥料で集中購買銘柄の取扱いを始めた。そのなかで、さらに流通コストを削減するため担い手直送規格品を推進し、1000haを上回る実績を挙げた。ヘリ防除でも、これまでよりさらにコスト削減できる大型規格品を扱い、目標の5000haを超えた。肥料では既存の17銘柄を全農指定の5銘柄に集約した結果、取扱量の約半分が集中した。
生産性の向上では、ドローンによる水稲防除、密苗、鉄コーティング直播栽培、水稲多収品種の導入など、それぞれ試験区を設けて検証した。同JA経済部の佐藤弘毅次長は「主幹作物の水稲の低コスト化のため、農業ICT技術等の試験的導入をすすめ、大規模経営体に提案する必要がある」と、大型経営を視野に置く。
また農業生産拡大の取り組みで、長ネギ生産の拡大に取り組んだ。生産者の高齢化に対応するため苗づくり、定植、病害虫防除、土寄せ、収穫、出荷調整など主な作業をJAが受託。これによって新規の作付けも増え、平成29年887haが30年は1.5倍の1364haになった。園芸品目では、法人・個人対象のハウス支援事業を導入し、ミニトマト、アスパラガス、パプリカ、シャインマスカットなどを栽培。パブリカは全農の「うぃずOne」を利用した。
JA北びわこ
水稲・大麦・ソバで
1年二毛作の複合
JA北びわこは、全農滋賀県本部と一体で農業生産拡大プロジェクトを組織して、生産の拡大とトータルコストの低減に取り組んだ。TAC(担い手対応の営農経済渉外)がJA青壮年部の意見を組み入れ、水稲プラス野菜・大麦との複合経営による水田の高度利用、品質向上・収量増対策、省力化・新技術導入を基本に取り組んだ。
これによって縞萎縮病の蔓延で生産意欲が低下していた小麦を全面的に大麦に転換。長浜市と連携して麦茶用の焙煎工場を誘致して850ha分の需要を確保した。この結果、農家収入が2億6000万円増えた。モデル確立実証試験でも大麦、野菜の輪作で、この3年、土地利用率が向上し、農業所得の増加につなげている。
また水田野菜でキャベツ、タマネギを導入して複合経営を推奨。元肥一発型肥料設計・供給を行うと共に、JAレンタル農機導入、育苗さらに収穫以降の作業をJAが負担し、農家の規模拡大を可能にした。今後の取り組みとして「規模拡大に応えるJAの体制整備、この取り組みでの新規就農者の育成、産地の生産構造変革へのチャレンジ」を挙げる。
3か年のプロジェクトの成果について、JAの営農経済担当職員の意識改革と連帯感が醸成されるとともに、「JAの各事業を通じ、組合員との接点が大幅に増え、営農経済事業利用のシェアが拡大傾向にある」という。
JA島原雲仙
イチゴ作で目指す
日本一元気な産地
JA島原雲仙はイチゴを中心に農業所得10%アップを目指している。従来の「さちのか」から大玉で多収、長期取りの「ゆめのか」に切り替え、その際、農家に対して個別面談を行い、営農内容とモチベーションを確認する。現在のイチゴ部会員は543人で、147haを栽培し、販売高は約64億円。全販売高の2割を占めるトップ品目だ。
生産拡大の足かせになっているのがハダニの防除。同JAは天敵利用のバンカーシートを管内7か所のほ場で試験し、平成30年から導入して化学薬剤の使用を減らし、農家の労力を軽減させた。このほかモデル農家を設け、「ゆめのか」専用肥料の開発・普及、アザミウマ類の防虫ネットの利用、自動換気装置の導入などに努めた。
この結果、モデル農家ではL級以上の大玉率が向上し、ピークの3月を含め、各月の収穫量が増えた。特にバンカーシート試験区では、対象区に比べ出荷期間を20日以上延ばし、481kg、約43万円の増収につなげた。「ゆめのか」の導入で作型の分散による平準出荷と6月までの長期取りが可能になり、安定販売に向けた成果が出始めている。
これからの取り組みについて、同JAは「モデル経営体での実証結果を体系化して、部会活動通じて横転換したい。施設園芸では、反収を確保すると共に収益性を上げることが大事。もうかる営農スタイルができれば、JAが自己改革で掲げた『日本一元気な産地』づくりも夢ではない」と意欲を示した。
JAおちいまばり
労力支援で組織化
派遣会社と連携も
JAおちいまばりは、所得増大に向けた方針を7つに絞った「ochiimaレインボープラン」を策定し、70億円の販売高を目指している。プランの中で、購買事業は肥料・農薬の銘柄集約、予約注文と大口購入、土壌診断による適正施肥、農業機械の事前・事後メンテナンスの推進などを行った。
こうしたJAの努力の結果JAの予約による価格は、県内のホームセンターに比べ、肥料で32品目中18品目、農薬148品目中125品目で安いことが、同JAの調査で明らかになった。また農業機械のメンテナンスは平成29年度で300件実施し、重大な故障を未然に防ぎ、機械寿命の延長につなげた。
さらに労働力支援で果樹を対象にした農作業支援グループ「心耕隊」、全ての農作業を受託する「ファーム咲創」を組織。労働力支援による規模拡大を促す。平成29年度「心耕隊」の受託は494件だった。この他、人材派遣会社と連携した「農業応援隊」を結成し、未経験者や中高年の就農機会、および農業の担い手不足の解消に努めている。
農業応援隊一人の支援を受け入れ、増加部分の収穫作業だけを手伝ってもらい、キュウリの規模拡大に成功した農家もある。また「ファーム咲創」は、27haの農地を集積し、水稲育苗、水稲、小麦、サトイモ、キュウリ、イチゴの輪作で年間1億3000万円を売上げ、4期目で単年度黒字を達成した。同JAは「規模拡大・維持には人の確保・育成が最重要課題。発想を転換し、創意工夫が必要」指摘した。
JA越後中央
米プラス園芸確立
冬期の雇用を維持
JA越後中央は水稲地域での園芸作物導入による経営安定と所得確保に取り組んでいる。
推進選定品目のトマト「アンジェレ」、タマネギは年々増えており、平成27年度と比べて、30年度はそれぞれ2倍、2.9倍になっている。
作付面積102haのモデル経営体は、水稲、大豆、それにタマネギ、「アンジェレ」などの園芸作物による高生産性の輪作。流し込み施肥で施肥時間を6分の1に短縮、乗用管理機による除草で作業時間を90%削減するなど、省力化で大きな成果をあげている。また営農管理システム「ZーGIS」を活用。地図情報を職員全員のパソコンに落とし、ほ場間収量差を視覚的に容易に確認できるようにした。
園芸では大豆、タマネギ体系を確立。また年間の雇用維持のため、水稲育苗ハウスでブロッコリーを栽培するなど、冬期の仕事を確保し、水稲と園芸の周年出荷体制を確立した。
播種機、畝立機、移植機、収穫機などは全農県本部のレンタル農機を活用し、機械投資を抑えた。
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