ゼロからの人づくりを JA人づくり研 次期「人づくり方針」へ2019年2月13日
・組合員と職員が「学び合い」
全国のJA役員等でつくるJA人づくり研究会は1月25日、第32回の研究会を開き、「JAにおける人材育成をゼロから考える」をテーマに、実践報告と意見交換を行った。JAにおける組合員大学、民間企業での地域貢献活動と教育、生協の「共育」活動などの報告があり、多様な視点から「人づくり」のあり方を探った。
◆第3次方針の策定へ
(写真)多様な視点で人づくりを議論した研究会
今回の研究会の趣旨によると、「組合員や役職員は自ら学び成長して行くことが重要だが、自分自身の考えを持ち切れず、結果として他者に依存することに陥っているのではないか」との問題意識がある。その上で「改革を進めて行くために必要な人材を育成するとはどういうことか、具体的に何をすべきか。JAにおける人材育成をゼロから考える必要がある」としている。
この趣旨に沿って、JA全中教育部教育企画課の田村政司課長が、今年の5月に全中理事会で決める「第3次人づくりビジョン運動方針」の考えを説明。平成28年に決めた「第2次JAグループ人づくりビジョン運動全国方針」の取り組みを踏まえ、「アクティブ・メンバーシップ強化の考え方に基づき、組合員の『学びと実践』、さらには『組合員と職員の学び合い』という考え方を加える必要がある」と指摘した。
その上で第3次人づくりビジョン運動の重点取り組み課題として、(1)JAトップ層の人づくりビジョン運動への認識統一、(2)JA人材育成基本方針の見直し、(3)JAの主役である組合員学習・教育文化活動の強化、(4)協同組合運動者としての職員教育の強化、(5)働き方改革を踏まえたJA人事労務対策の着実な取り組み、(6)中央会・連合会等によるJA人材育成支援体制の整備を挙げる。
特に今の職員は、8、9割が非農家出身であることなどから、農業理解と経験、ファシリテーションスキルの取得など、職員に対する基本教育の必要性を指摘。
またインターネット環境が整備され、場所や時間を問わない自主的な学習・教育が可能になるなかで、各種資格試験の学習支援を重点にEラーニングの導入・活用を勧めるとしている。
◆組合員大学で繋がり【JA東京むさし】
(写真)農機具の安全管理について学ぶ受講生たち(写真はJA東京むさし提供)
実践報告では、JA東京むさしの組合員教育文化事業実行委員会副委員長の高橋金一氏が組合員大学を紹介。同JAの組合員大学は、組合運動への理解を深めるため、正組合員およびその家族を対象に基礎講座、専門講座をそれぞれ年間10回程度開き、2年間学ぶ。
講座内容は協同組合の基礎から営農、農政、法律、税金など多分野があり、JA役員や各部の部長などが講師にあたる。平成21年からスタートし、現在5期生が卒業。この間、約120人が受講し、100人ほどが卒業した。
講座のほか農機具の整備、料理などの実技もあり、卒業時には、国内・海外の卒業視察旅行もカリキュウラムに組まれている。九州や四国のほか、これまでニュージーランドやイタリア、フランス、オーストラリアの農業を視察した。大学は参加者による自主運営を原則としており、視察旅行の一部や飲食を伴う費用は自己負担する。
同JAの組合員教育の特徴は、受講者の選考から講義内容、卒業後のJA経営の参画まで一貫してJAの事業・運営と結びついていることにある。まず受講者の選定は、各地区の筆頭理事、支部長代表、青壮年部・女性部長、組合員大学卒業生からなる選考委員会が当たる。
同JAには、教育文化事業の一環として常勤役員、青壮年部・女性部、生産組合、総合企画部などからなる「組合員教育文化事業実行委員会」がある。それを支えるのが「ワーキング委員会」だが、この構成メンバー13人のうち、大学卒業生を中心に組合員代表が9人おり、卒業生が提出した要望などを検討し、同実行委員会に上げる。
また組合員大学卒業生の会があり、大学の講座内容充実のための企画を考え、実行委員会に提案する。現在同JAの女性理事は全員が大学の卒業生だ。報告した高橋氏は「組合員、JAの役職員が地域、世代を超えてお互いが学び合う場をつくることが大切」と、学び合いによる仲間づくりの重要性を強調した。
◆地域貢献が学びの場【大里綜合管理(株)】
地域貢献活動と社員教育について報告したのは、千葉県の大網白里市で不動産業を営む大里綜合管理㈱代表取締役の野老真理子さん。同社は不動産業のほか、ギャラリー・カルチャー、地域環境整備に関するボランティア活動などを行う。
20人余りの社員で、掃除や学童保育、スポーツ大会、花植え、レストラン、ミニ直売所など、取り組んでいる地域活動は大小合わせて300を越える。経営理念「『一隅を照らす』~生きていることに、めぐりあえたことに感謝し、お役に立ちます~」のもと、(1)お客様第一を貫きます、(2)環境整備を徹底します、(3)社会的責任を果たします、が基本方針。
特に社会的責任では「創立以来、仕事のできた九十九里地域に感謝し、待ったなしの環境問題や社会的問題を真正面から受け止めて、この地域で仕事をする〝社会的責任ある企業〟として豊かなまちづくりの一翼を担います」とうたっている。
さして広くもない2階建ての本社は、事務所であると同時に学童保育やコンサートなど地域の人も利用する場でもあり、常にオープン。地域の環境整備を含め、こうした活動は地域の問題について「気づきの場」として位置付け、社員と地域の関係をより強いものにしている。
野老さんは「環境を整備することは地域の価値を高めることにも通じ、それによって会社も元気になる。地域から活力をいただき、地域に返す。お客様の役に立つことを通じて、地域になくてはならない会社をめざす」と話した。
◆「教育」から「共育」へ【福祉クラブ生協】
「共育」については福祉クラブ生協副理事長の有賀恵子さんが報告。同クラブは1989年、組合員とワーカーズと職員でつくった全国初の福祉を専門とする生協で、組織上は購買生協だ。
出資し、自ら働くという労働者協働組合(ワーカーズコレクティブ)方式で運営する生協で、有賀さんは「よく生きるための組織」と考える。つまり、今はサービスを提供していても、やがては自ら使う側になる。介護でも、介護者と被介護者が「お互いさまの助け合い」の関係にあると言うわけだ。
それが「共育」(ともいく)であり、福祉を継続させていくための基本的な考えとしている。そのため、長年住み慣れた地域を離れず、自分らしく暮らすための在宅福祉システムづくりを基本に、福祉活動を続けている。
現在、同生協は組合員1万6612世帯、ワーカーズ3465人、それに職員43人で運営。福祉関係19業種を117のワーカーズコレクティブで、組合員の生活を守っている。
有賀さんは「共育」は「教育」ではないと言う。「教え、教えられて共に育つ関係、モノだけでなく人間的にも価値観を共有することが大事だ」と言う。
それがワーカーズコレクティブの「共育」の働き方だと言う。ただ、利用するだけの組合員も増えており、「組合員共育を来年から強めたい」と、組合員の参加の重要性を強調した。
◆ ◇
なお全体討議では、「JAグループ内で人材育成に統一性が欠けている」「JAへの応募者が減っており、採用しても途中でやめる若い職員が多い。離職をさせない教育が必要だ」など、JAからの発言があった。
(関連記事)
・ボランティア農業を視察 人づくり研究会が現地研修(18.09.14)
・【JA人づくり研究会】准組合員もJAの組合員(18.05.28)
・第29回JA人づくり研究会 JA改革、各地で着実に(後半)(18.02.09)
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