農業と協同組合から新しい社会像の提起を 哲学者・内山節氏が講演2019年4月5日
4月1日に行われたJA全国機関新規採用職員研修会ではJAグループ全国機関のフレッシュマンに向け哲学者の内山節氏が「私からの提案-これからの時代の生き方」と題して記念講演した。内山氏は「お金だけに還元できない価値をいかに大事にする社会にするか」が問われているとして、自然や人、地域とともに生きている農業や農協こそ新しい社会のあり方を提起できる、と呼びかけた。講演の要旨を紹介する。
グローバル化の時代といわれるが、もっともグローバルなものはお金だ。100ドルは世界中どこでも同じ価値で通用する。お金が世界をひっかきまわしている。
しかし、かつてパリの高級店でご馳走になった寿司には違和感を持った。きちんとした寿司だったがそんなに食べたくはないと思った。やはり日本の水で育った米を日本の水で炊いていないからだろう。こういう食文化といったものはグローバル化はできない。しかし、お金の価値だけが世界を引っ掻き回し世界を壊してきた。
お金だけでとらえられない価値をいかに大事にする社会にするか。社会を作り直さなければならない時代になっている。農業や農村の営みにこそ、これからの時代へのヒントが隠されている。
伝統文化はことごとく農村から生まれている。大都会の盛大な祭りも、もとは地面に足を置いて生きてきた農村の世界から作ってきた。そこには「ともに生きる世界」がある。農産物は人間が自然に働きかけて生産するが、8割は自然の力だ。自然と地域と、それから農業者は消費者とともに生きている。絶えず何かとともに生きている社会だ。
ともに生きていこうとする社会が日本社会と文化の基盤を生んだ。都会は便利さは生んだが深い文化はない。ともに生きる社会の基盤を強化しどこまで最大化できるか。
今、農村の価値にもう一度目を向けようという人が増えはじめている。私が暮らす上野村(群馬県)では25%が移住者になった。多くの農村に都会からの移住者が住んでいる。
農村ではそれぞれの農業者がそれぞれに営農をしている。私も小さな畑を耕しているが、隣に畑があると草はきちん刈っておこうという程度の配慮はするが基本は自分の営みである。しかし、実は地域社会と結ばれていることを知る。自分のための畑を続けていくことが地域社会を守り、農村を守り自然とともあることになる。自分の利益、自利と他利を統一的に捉える発想を生んだ。「利己利他」の発想は日本の協同組合の原点でもある。
したがって、産業として農業を活性化し所得を得ることも大事だが、それだけではなく利己利他の農業、農村が活性化するということは新しい日本の社会として活性化するということでもある。農村は自分たちが幸せに生きる社会のためのフロンティアだと思う。
古典経済学の祖、アダム・スミスはいちばん幸せな労働は農業と田舎の雑貨屋だといった。農業は本当に上手にはなかなかなれなくても、誰でもできるし、まじめにやればある程度できるようになる。アダム・スミスは、農業は働いた分だけその人の力が高まり、いろいろな能力が形成されていく、それが素晴しい労働だと言ったのだ。
田舎の雑貨屋は小さいが地域の人が必要とするあらゆる多様なものを仕入れて地域社会の役に立っている。地域とともにあって地域に役に立つ。スミスはこれを評価した。これもすばらしい農業的世界だ。
協同組合は地域や社会に役に立っていく組織。これからの社会のあり方も提起してほしい。
重要な記事
最新の記事
-
JA共済連が新3カ年計画 協同の力で組合員・利用者との関係強化へ 令和7年度は新展開のスタートに2025年3月18日
-
備蓄米 政策効果なければ追加放出 江藤農相2025年3月18日
-
備蓄米放出でも消えぬ不足感(下) 米不足の恐れ、昨年より早く 「需給見通し」外れる背景は2025年3月18日
-
10月限がストップ安になったコメ先物市場【熊野孝文・米マーケット情報】2025年3月18日
-
風味豊かな落花生 たばこの輪作で栽培広がる JAはだの2025年3月18日
-
信州・中野はきのこ王国 トップクラスの生産量と品質誇る JA中野市2025年3月18日
-
出荷できないリンゴ活用 濃厚な甘さととろける口どけ JAながの2025年3月18日
-
鈴生と津田物産がJ-クレジット活用で協業 "温室効果ガス実質ゼロ"米づくりを拡大へ 農林中金がマッチング2025年3月18日
-
経営を可視化し事業拡大やJAとの関係も強化 担い手コンサルコンペティション 農林中金2025年3月18日
-
陸上養殖「おかそだちサーモン」販売店舗を一部変更 コープデリ2025年3月18日
-
栃木県に「コメリハード&グリーン岩舟店」3月29日に新規開店2025年3月18日
-
山形県南エリアに「農機具王 山形上山店」4月1日オープン2025年3月18日
-
埼玉県 3年連続で「プレミアムいちご県」に認定 日本野菜ソムリエ協会2025年3月18日
-
健康診断・血管年齢が気になる人へ「血管サポートヨーグルト」新発売 協同乳業2025年3月18日
-
TNFD事務局が日本担当設置し栗野佳子氏が着任 TNFD日本協議会2025年3月18日
-
三井化学グループ、インドにコーティングテクニカルセンターを設立2025年3月18日
-
【人事異動】エス・ディー・エス バイオテック(4月1日付)2025年3月18日
-
米粉のグミ「もちきゅあ」和グミとしてリニューアル発売 三幸製菓2025年3月18日
-
農泊総合情報プラットフォーム「FARM STAY Japan」公開 日本ファームステイ協会2025年3月18日
-
鳥インフル ネブラスカ州、メイン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年3月18日