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過疎地の農業救う Z-GISで圃場管理 熊本・JA本渡五和2019年4月9日

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営農組合が地図情報を活用

 JA全農が開発した営農管理システム「Z―GIS」を、熊本県天草市のJA本渡五和管内で2つの営農組合が活用している。法人化で農作業や経営受託等で農地の荒廃を防ぎ、就労の場を確保することで、農地とそれを取り巻く自然環境、それに地域の文化を次世代へ引き渡そうという思いから導入した。Z―GISは営農組合の経営にとって有力な武器になるものと期待が大きい。

 Z―GISを使っている営農組合は、農事組合法人の宮地岳営農組合と楠浦営農組合。山間部と海岸部の違いはあるが、いずれも生産者の高齢化が進んで耕作放棄地が増え、その対策に頭を痛めていた。ここに「Z―GIS」の利用を勧めたのはJA本渡五和のTAC、営農経済渉外員の山下清弥さん。「圃場の状態を"見える化〟すれば、管理作業がやりやすくなる。また組合のメンバーが入れ替わるとき、引き継ぎもスムーズにできる」と考え、JA全農のZ―GISの導入を考えていた。
 同JA管内にはTACの働きかけでできた8つの営農組織で構成する営農組織連絡協議会があり、Z―GISの研修会を行ったところ4つの営農組織が興味を示し、先行する形で2つの組合が導入した。


◆楠浦営農組合

耕作放棄地が大区画の麦畑に復活1

耕作放棄地(下)が大区画の麦畑に復活(説明する代表理事の鬼塚さん)

 

耕作放棄地が大区画の麦畑に復活2 楠浦営農組合は山間部にある宮地岳営農組合と違い、海沿いの海抜ゼロメートルに近い干拓地にあるが、区画は狭くばらばらで農道もなく、給排水もままならないような冠水常襲地だった。営農組合づくりは、条件の悪いこの水田のほ場整備から始まった。
 やはり生産者の高齢者が進み、「この先、営農はできない」と、ほ場整備に消極的な人が多かった。このため、営農組合をつくって水田を預かり管理するという条件で説得。平成14年に着工し、同時に任意組織の営農組合を立ち上げた。
 平成21年農事組合法人に組織替えして、作業受託だったものを利用権設定による賃貸借に切り替えた。現在、地権者130人ほどで、約27haの利用権を設定。これは楠浦町の水田の半分ほどになる。水稲、大麦、WCS(稲発酵粗飼料)、高菜などを栽培している。

JA本渡五和 営農経済渉外員の山下清弥さん

TACの山下さん

 
 干拓地だったため、畑作物を作るには水位が高いという問題があったが、JA全農と農研機構が共同で開発した地下水位制御システム「FOEAS」を導入。これによって麦のほか、高菜や広島菜など畑作物の栽培ができるようになった。ほ場整備した3つの工区をペーパー1枚の地図で管理していたが、作業日報の管理が煩雑になっていた。
 転作野菜や飼料用米を管理するため、他社の地図情報によるほ場管理システムを無料で試験的に使っていたが、「入力とオペレーター作業に時間がかかり、使い勝手が悪かった。Z―GISはエクセルで簡単に入力でき、利用価格も安いので使うことにした」と、同法人の鬼塚猛清代表理事(JA本渡五和営農組織連絡協議会会長)は言う。
 そこで、エクセルデータで一元管理できるZ―GISをJA本渡五和のTACが提案し、導入を勧めた。今年、導入したばかりでまだ日が浅く、台帳面積・水張り面積・早期米と晩期米の区別と品種、裏作の作物をデータ化して管理している。地図データが完成すると、「パソコンで管理できるので、ほ場を巡回しなくても、消毒などの管理ができる」と会計担当の吉田英俊さん。特に平成31年度から取り組むWCS(稲発酵粗飼料)は、確認のため、ロール数をほ場ごとに写真に撮って管理しなければならないが、Z―GISの地図は1mくらいの大きさを判別できることから、吉田さんはその機能に期待する。

国の事業で大型農機を一通り揃えた鬼塚さんと会計担当の吉田さん

国の事業で大型農機を一通り揃えた鬼塚さん(左)と会計担当の吉田さん(右)

 
 代表理事の鬼塚さんの願いは、先祖から引き継いだ農地を守ることにある。そのためには「地元の若い人が年間を通じて働き、給料を出せるような経営を確立しなければならない」という。農業委員でもある鬼塚さんの思いでもある。

 

◆宮地岳営農組合

 宮地岳営農組合は、天草下島の中央部、周囲を500m級の山に囲まれ、平均標高110mの盆地にあり、温暖な天草では一番の寒冷地で、積雪もある。天草市の中心から17㌔離れており、世帯数は240戸ほど。ピーク時1900人だった人口が、いまや500人を割るほどになった。
 高齢化も進み、このまま放置すると集落の維持も危ぶまれるという危機感を持ち、平成12年、農地を維持するため営農組合を設立。さらに翌年、中山間地域直接支払制度の受け皿として町全体で集落協定を締結し、宮地岳農業振興会を立ち上げた。いわば転作組合とまちづくり2つの組織ができたわけだが、実質的な構成員は同じであり、平成14年に、転作作物の作業受託を中心とする「宮地岳営農組合」とは別に、町の農業全般に関することを行う「農事組合法人 宮地岳営農組合」をつくった。

Z-GISで作成した地図情報について説明する組合長の山﨑さん

Z-GISで作成した地図情報について説明する組合長の山﨑さん

 
 現在、営農組合の組合員は150人で、管理する農地は100ha余り。8割は基盤整備してあるが、昔の規格で、農地の筆数は900を超す。転作で導入している作目は飼料用米、大豆のほか、ナタネやソバ、レタスなど多岐にわたる。農地は山を挟んで水系ごとに別れており、どこでどのような作目が、どれだけ、いつ栽培されたかを掌握するのは容易ではない。繁忙期にはアルバイトも使うが、作業すべき農地の位置が分からないということも珍しくなかった。
 水田転作や中山間地域直接支払いなどの助成金で、トラクターやコンバインなど、経営に必要な機械・設備はほぼ整備した。現在、3~4人の組合員がオペレーターとして作業に従事しているが、課題は営農組合をどうして次の世代に引き継ぐかということ。「個々の農家では限界があるが、共同で農業に取り組むことで、さまざまな夢を実現できる」と山﨑三代喜組合長は言う。
 景観作物の植え付けや子ども向けの農業体験、行政と一緒にグリーンツーリズムなどにも取り組んでいるが、営農組合を継続するには「若い人に組合に入ってもらえるような魅力ある農業にしたい」と期待を込める。Z―GISはその有力なツールの一つになっている。

Z-GISは簡単にデータ入力できる

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