第41回農協人文化賞記念シンポジウム2019年7月9日
食と農、いのちと暮らしを守るJA新時代を
JAグループは、いま「JA自己改革」に取り組んでいるが、(一社)農協協会が主催する農協人文化賞の受賞者は、それぞれのJA、地域で核となって改革を実践してきた人たちである。農協人文化賞の表彰式の後、石田正昭・京都大学学術情報メディアセンター研究員をコーディネーターに「食と農、いのちと暮らしを守るJA新時代 農業協同組合が目指すもの」のテーマでシンポジウムを開いた。各受賞者の報告の要旨を紹介する。
シンポジウムの会場
【シンポジウム】
◆営農部門
▽北海道浜中町農協代表理事会長・石橋榮紀氏
色紙には「人生は挑戦」と書いた。32歳で農協の理事になって以来今日までずっと挑戦し続けてきた。
私の農協の経営理念は、「JA浜中町は組合員の営農と生活を守る。地域社会の未来の発展に貢献する」これだけだ。組合員が、あるいは職員が何かをしようとするときには、この理念に沿っているかどうかを考えて行動すればよい。国民の命を守る農産物で、みんなでこの地域を豊かにしていくため酪農に関してやるべきことは全てやる。
▽長野県松本ハイランド農協代表理事組合長・伊藤茂氏
色紙には「人間万事 塞翁が馬」と書いた。JA松本ハイランドは農業の生産・販売・流通の改革で「農業所得の増大」に応えるため、独自の農家支援事業を創設している。また、組合員や地域住民、職員を対象とした総合教育講座「夢あわせ大学」を開講し人づくりを行っている。
「先人・木を植え、後人・涼を楽しむ」。前を行く人は、苗木を植えて、その木が育ち、後から来た人が、その木陰で涼を取れるように、次の人たちのことを考えて行動することが今の自分に課せられた使命と考え、これからもJA、農業の発展に微力ながら頑張っていく。
▽兵庫県たじま農協代表理事組合長・尾﨑市朗氏
色紙に書いた「たじまに生きる たじまを活かす」とは10年前の中期計画のスローガンで、もう10年来このスローガンを使い続けている。このスローガンは農業協同組合として究極のスローガンになっていると私は思う。まさに農業協同組合の使命を謳ったものとして、仕事をしていく上のスローガンとなっている。
コープこうべという日本最大の生協の人たちと古くからたじまの農協は産地直結の取引をいろいろやってきた。「土香り米」というブランドの米をコープこうべの組合員に食べていただいている。「コウノトリ育むお米」は平成15年から始めた米づくりで、こうした歴史を持つ地域であることは1つの強み。これらのブランド資源をどう活かしていくかは農協がやらなくてはならない最大のことだ。
▽茨城県全農茨城県本部前本部長・川津修氏
色紙には「積極的現場主義」と書いた。私は昭和54年に当時の茨城県経済連に入会した。仕事の中心は栽培関係や施肥・防除指導など、肥料農薬を中心とした資材の供給に関する内容。農協職員の皆さんと一緒に部会の講習会や座談会などの対応を行った。
農協職員、部会のみなさん、地域の生産者と直接接する機会に恵まれ、勉強し自ら体験したことなど、五感をもって若い時代に正面から受け止めて取り組んできたことが財産になっている。
▽宮崎県こばやし農協代表理事組合長・坂下栄次氏
色紙には「信念 実行」と書いた。信念がなければ目標もない。またやらなければだめだ。
全国にいろいろな農協があり一つひとつ違う。その土地、その土地に合った農協の活動をしなければ組合員から信頼されない。いつも農家組合員のために農協はある、ということを思っていなければならない。原点は組合員を守るための組織だ。この原点を忘れたら農業協同組合は成り立っていかない。
▽秋田県秋田しんせい農協前代表理事組合長・畠山勝一氏
農協の理事になって30年近くになる。その中で、専務10年、組合長8年の計18年間常勤役員をしてきた。
色紙には「寛容 忍耐」と書いた。専務・組合長をやる中でいろいろな役員がさまざまな意見を持っていると感じた。考えてみると意見が違うのが当たり前だ。それをトップが吸い上げて、忍耐力を持ってどう活かすかということが、私の農協活動の中で心がけてきたことだ。
◆一般文化部門
▽愛媛県越智今治農協代表理事理事長・黒川俊継氏
色紙には「人」と書いた。あらゆる場面を捉えて、職員の人材育成を一生懸命やってきたつもりだ。職員がしっかりしていないと組織は動かないし、組合員に対しても良い職員を次々育てていかなければならない。そのために、出向させたり、研修させたりしてきた。
大型直売所「さいさいきて屋」をやったおかげで組合員はもとより一般市民からも大きな支持を得て、農協が身近な存在になった。
▽岩手県花巻農協代表理事組合長・髙橋勉氏
色紙の「原点回帰」というのは、やっぱり初心に戻れ、農協をつくったときの精神を忘れるな、ということ。みんなが困ったときに造った農協だ。それを今、忘れている。困っているときに、困っている人に、困っている地域に手を差し伸べながら農協運動するんだということです。原点に戻れということです。
▽愛知県あいち尾東農協前代表理事組合長愛知県農協中央会前会長・吉田濵一氏
色紙には「原点は協同の心」と書いた。新採用職員として「農協職員長期養成研修」で始めて協同組織の存在を学んだ。組合員が協同してくらしを守るという協同組合の存在に、純情だった私は大きな感銘を受けた。それから50年も協同組合にいる。
中央会を退職したあと、地元の農協の組合長に就任した。若手職員を中心に、農協は何をしなければならないのかを議論させ、「原点回帰」がもたらすJAらしさをテーマに、計画を作成した。
◆福祉部門
▽山口県山口農協宇部統括本部副本部長・梶山ゆかり氏
この4月にJAが合併した。色紙には「心縁 感謝」と書いた。心の触れあいをとおしてご縁をいただいたことへの感謝だ。
私がこうしてやってこれたのは教育の場を与えてくださったから。当時の全中や県中、JAが場を与えてくれた。全国の職員との縁をつくり人脈を得て皆さんの知恵をお借りできた。普通の企業であれば自分のところのノウハウは秘密にするが、農協の組織ではいろいろと教えてくれる。
◆経済事業部門
▽香川県香川県農協前経営管理委員会会長・廣瀬博三氏
色紙は「協心戮力」(きょう・しん・りく・りょく)と書いた。1人ではどんなに頑張ったって知れてるよ、みんなが協力しあって始めてどういうことでもできるんだよ、ということを職員の皆さんに伝えてきた。
香川県農協は今年で合併20周年を迎える。県1農協になって20年になる。ファーマーズマーケットも新しくつくった。准組合員の力がなければ農協の経営はできない。准組合員とのふれあい活動でいろいろな施設を准組合員の皆さんにも利用していただく。
◆共済事業部門
▽栃木県足利市農協代表理事組合長・石橋孝雄氏
色紙には「努力は必ず報われる」と書いた。JAの経営には、現場の気づきを反映させなければJA自己改革も砂上の楼閣になる。JAの経営は組合員ためにある。組合員の各戸を月に1回全職員で訪問している。
一昨年、准組合員アンケートを行った。JA事業の評価について、大変満足・満足と82%の准組合員が回答している。また、70%の准組合員がJAの商品やサービスを知人などに勧めたいと回答している。
▽岡山県岡山西農協前代表理事組合長・山本清志氏
色紙には「相互扶助」と書いた。岡山県は「晴れの国」といわれていたが、昨年の西日本豪雨では当JAの管内にある倉敷市真備町で大水害が起こった。
こうした中で、昨年7月豪雨で管内の真備、総社地区等に大水害が発生した。「とにかく早期に生命・建更や水没車両の共済金を支払うこと」を第一に指示した。「JA共済に入っていて良かった」「これで生活のメドが立った」などの声がある。JA共済の力を示せたと思う。これが相互扶助ということだ。
◆信用事業部門
▽広島県福山市農協前代表理事組合長・山上一成氏
平成15年4月に合併して誕生した。色紙に「百姓来年」と書いたのは、例えば、コメ作りであれば今年は収量が多く品質も良かったと思っても、次の年は悪天候や病害虫の影響で収量減になったり、品質が悪くなったりして、うまく作れないことがある。これは農作業だけではなくいろいろなことで使える。「来年こそは良い物を作るぞ、良い物を作っても、次はそれ以上のものを作ってやろう」という気持ちだ。この「百姓来年」をモットーに日々取り組んでいる。
◆厚生事業部門
▽長野県佐久総合病院老人保健施設元施設長・若月健一氏
佐久総合病院は昭和20年代から様々な活動をしてきた。これから大都市は高齢者がたくさん増える。元気なうちに農村に招き入れて食べ物を自ら作っていただいてはどうか。
国民の健康を守るために国民が何を食べるか、その必要な食料を国内でどう生産し供給するかということが重要だ。農業協同組合がもっと市町村と連携をとって、食を守る、健康を守る活動を積極的に展開してほしい。
▽石田先生のまとめ
梶山さんが「縁」という言葉を使われたが、JAの役職員や女性部や組合員組織のリーダーは、毎日毎日、「縁を起こしていますか」と自問自答すべきではないか。「縁」つまり関係やつながり。そうした縁をつくる場としてファーマーズマーケットがある。生産者と消費者の新たな縁を作ることが現実的に一番やりやすいのではないか。私の今日の結論だ。
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