JAは鳥獣害防止の主体に-農中総研レポート 2020年6月5日
「集落環境の整備」「被害防護」を
野生鳥獣による農作物の被害が広がっているなかで、JAの役割が重要になっている。特にこれまでは防護柵、捕獲などの物理的排除が中心だったが、併せて鳥獣を寄せ付けない作目の導入や耕作放棄地の発生を防ぐなど、集落環境の整備の必要性が指摘されている。この分野は、営農指導を通じて地域と地域の農業に関わるJAの役割であり、農家の期待も大きい。農林中金総合研究所の「農林金融」(6月号)は、「獣害対策と農協の役割」をテーマにJAによる鳥獣害対策を取り上げ、「農協は独自の対策のみならず、地域全体の獣害対策に積極的に関わっていくことが重要」と指摘している。同レポートから鳥獣害対策におけるJAの役割をみる。
イノシシが通った跡。米に匂いが残ることも
捕獲一辺倒でなく
野生鳥獣による農作物の被害は、2018年度で157億7800万円。シカ、イノシシ、サルの順で多く、シカは北海道の牧草などの飼料作物が大半で、イノシシは西日本を中心に都府県の被害が大きく、被害は稲、果樹、野菜、イモ類など多岐にわたる。
獣害対策の第一は、古くから行われている、被害を与える野生鳥獣の捕獲だ。10年前に比べ捕獲頭数は2~3倍(2018年度約60万頭)に増えているが、被害額が減少していないことから、レポートでは「捕獲一辺倒の対策では効果が薄いのでは」と疑問を投げかけている。捕獲と被害の関係は明らかになっていないものの、捕獲は猟友会が主体で、農業関係者が関与しにくい環境があったため、これまで「被害の当事者である農業者抜きの対策になっていた」と指摘する。
「JA主体」は1割
全国のJAを対象にしたアンケート調査によると、行政の鳥獣害防止対策協議会などの構成員に参加することはあっても、対策の主体として係わるJAは1割程度だったという。その理由では「すでに他団体が実施している」「JAの事業として馴染まない」との回答が多かった。これは「従来の捕獲に頼った対策のなかで、農協の果たす役割を積極的に位置付けてこなかった」ためとみる。
捕獲に頼った対策から脱却するため、同報告では「集落環境整備」「被害防護」「捕獲」の3つを総合的に行う必要があると指摘。集落環境整備は鳥獣を寄せ付けない集落の環境づくりであり、野生鳥獣の住み家となる休耕地の解消や、餌となる放置された稲刈り後のひこばえや柿の木の除去、あるいは鳥獣害に強い新規作物の導入などがある。
とくに新規作物の導入は営農指導との関わりが強く、「行政や猟友会など、地域の他の主体とは異なる、農協ならではの対策」と位置付ける。レポートが事例として挙げる神奈川県のJA湘南では、ラッキョウやニンニク、ボタン桜など鳥獣が避ける作目を導入し、苗木代の一部を助成。二ホンジカが嫌うレモンを植えて「湘南潮彩レモン」のブランドで産地化を進めている。
次に「被害防護」として、JA独自の資金助成による電気柵の購入支援や営農指導員による技術指導がある。JAによる助成、広範囲に及ぶ防護柵の設置には、組合員の合意が欠かせない。この点でJAの営農指導員は日ごろから現場に出向き、組合員と接する機会が多く、理解を得やすい。また被害防護には、緩衝地帯の設置もあり、愛知県のJAあいち豊田では、農地に接する山林や藪(やぶ)を刈り払って見通しをよくすることで、イノシシの出現を減らしたという。
「捕獲」では、箱わなの貸し出しや新型捕獲檻(おり)の実証試験などを行っているJAがある。静岡県のJA伊豆太陽では職員の罠(わな)猟免許取得を促し、とくに営農指導員は取得が基本で、その費用を負担。またJAあいち豊田では、管内4か所のモデル地区でICT(情報通信技術)を使い、遠隔操作でイノシシの群れを一度に捕獲することで繁殖を抑える実証試験を行っている。
この3つの対策のなかで、ある程度個人での対応が可能な「捕獲」を除き、集落環境整備と被害防護は集落単位での取り組みが欠かせない。しかし、高齢化、人口の減少で集落活動が難しくなっており、「どのように集落機能を維持し獣害対策を進めていくかについては、今後さらに検討が必要」と、レポートをまとめた農中総研の藤田研二郎研究員は指摘。その上で、「農協独自の対策のみならず、地域全体の獣害対策にも中心的に関わっていくことが重要」と、JAの役割と強調している。
重要な記事
最新の記事
-
【28年ぶり警報】平年90倍超え地点も果樹カメムシ類が異常発生 愛媛県2024年7月23日
-
【注意報】野菜類、花き類にオオタバコガ 全県で多発のおそれ 秋田県2024年7月23日
-
2万円が下値になった6年産米ハシリ価格【熊野孝文・米マーケット情報】2024年7月23日
-
【'24新組合長に聞く】JA青森(青森県)鹿内克之組合長 とにかく現場に出向く(6/29就任)2024年7月23日
-
【書評】『これからを生きる あなたとともに―過去を振り返り 未来を描く―』萬代宣雄 著2024年7月23日
-
「乗用型じゃがいも植付機」が農業食料工学会 2024年度開発賞を受賞 井関農機2024年7月23日
-
「Webマイページ」操作ガイドを表示するサポート機能を導入 JA共済連2024年7月23日
-
埼玉県スマート農業展示会に出展 最新アシストスーツを紹介 ダイヤ工業2024年7月23日
-
クリエアナブキと業務提携締結 四国地域の一次産業人材支援へ YUIME2024年7月23日
-
「いわて牛」「いわて短角和牛」ローストビーフ食べ比べセットを新発売 JAタウン2024年7月23日
-
【役員人事】農協流通研究所(6月7日付)2024年7月23日
-
【人事異動】JA共済連(8月1日付)2024年7月23日
-
暖冬、ひょう、カメムシで梅が歴史的不作 収穫半減で価格高騰 農業総研2024年7月23日
-
総供給高は10か月連続で前年超え 6月度供給高速報 日本生協連2024年7月23日
-
瀬戸内産レモンをふんだんに使用 夏限定「瀬戸内レモンタルト」新登場 生活クラブ2024年7月23日
-
水稲栽培テーマに「有機農業・自然農法技術交流会」8月に開催 自然農法センター2024年7月23日
-
神戸~大阪鉄道開業150周年 記念ラベルの日本酒一合缶「福寿」数量限定で新発売2024年7月23日
-
小さなトマト「マイクロトム」遺伝子型の比較と高精度全ゲノム解読から品種改良へ2024年7月23日
-
史上最小「ハッピーターン ちいさいのに濃いやつ」期間限定発売 亀田製菓2024年7月23日
-
今が旬のブルーベリー 摘み取り農園が開園 東京都日野市2024年7月23日