賀川豊彦に学ぶ コロナ禍での協同組合 「第3の道」シンポで探る2021年2月10日
賀川豊彦シンポジウム実行委員会は2月4日、「コロナ禍と私たちの生活世界の変容」のテーマで第6回シンポジウムを開いた。日本の農村社会を足場に協同組合の歴史を論じる石田正昭・三重大学名誉教授とオランダの市民社会論を通して日本における公共圏形成の可能性を問う稲垣久和・東京基督教大学特別教授のほか、田嶋康利・日本労働者協同組合連合会専務が加わり、賀川豊彦から何を学ぶかについてディスカッションした。
共同性から公共性へ
賀川豊彦は、資本主義でもない社会主義でもない「第3の道」として、人と人とが助け合う「協同組合主義経済」を提唱した。この使命を果たすため、農村社会に基盤を置く総合JAでは、相互扶助の助け合いがどのように理解・実践されているか、またその課題は何かを探ることは「ポストコロナにおける日本人の生活世界のあり方を考えることになる」と、石田教授は、賀川豊彦研究の今日的意義を示した。
その上で、今日の日本の総合農協は「表層」との事業組織(ゲゼルシャフト)と、中・近世の村落共同体を「基層」とする「内に閉じられた共同性」の集団・集落組織(ゲマインシャフト)という「二重性」を持つことを指摘。「個人」は基層の中で埋没していたが、徐々に集落組織の中から「自律した個人」として育ち、「外に開かれた公共性」を認識するようになったという。
そこで石田教授は「共同性を母体とする公共性の獲得への拡大・転換」と、農協の意識改革の必要性を指摘。言い換えると「身近な他者との相互扶助」から「全人類(異質な他者)との相互扶助」への転換であり、ここに協同組合の普遍性があるという。
この視点から、総合JAの大きな責任に「移動しない資源としての土地」(自然資源)の利用・保全を挙げる。農地は、耕作する「上土」は農家のもの、耕土を支える「中土」は地域のものであり、一番下の「底土」は国土としての土地資源だという、農地に対する「三段重ね」の農民の土地についての思想を紹介。
それに基づき同教授は、「JAはいまこそ『所有は有効利用の義務を負う』『農地はこれから生まれてくる子孫からの預かりもの』との理念に立ち、その旗を高く掲げて、地域農業の活力を取り戻すための多彩な活動に取り組む責務がある」と話した。
「神の国」目指して
稲垣久和特別教授は、「自由主義に対抗する協同組合運動」について、賀川豊彦の「神の国」運動の視座から報告した。同教授によると「神の国」とは、聖書のイエスキリストの教えに由来があり、"他者利益"をめざす運動だという。こうした"他利主義"は簡単にできるものではない。「〝経済人間〟から"倫理人間"」に"回心"に近い人間的転換が必要」と指摘する。
これを実体経済としてみると社会経済連帯経済(「友愛と連帯」の経済)であり、それを支える政治思想は第3セクターの存在をはっきりさせる必要がある。単なる社会の仕組みづくりではなく、人間のモラルの向上と働く意味(ディーセントワーク)を前面に掲げる社会運動だという。
稲垣教授は最後に、「ポストコロナの社会連帯経済は、日本における21世紀の新たな『神の国』運動と位置付けていいのではないか。キリスト教の『隣人愛』、仏教的な『慈悲の心』、儒教的な『仁愛』という普遍的な宗教の教えの根幹に触れている主体としての自覚が必要」と問題提起した。
自ら出資・経営・労働
働く人や市民が出資し、経営に参加し、自らの手で仕事をつくる労働者協同組合法が昨年12月に成立した。日本労働者協同組合連合会の田嶋康利専務は、「賃金のために働くのではなくして、労働することが歓喜(よろこ)びであるということを、経済生活の中へ取り入れるには協同組合の形態をもって労働する人々を解放するほかに道はない」という賀川豊彦の考えを紹介し、労働者が目的をもって働くことの重要さを強調。そこに労働者の協同組合の価値を見出す。
また、「利潤があった場合、これを組合の利益にのみ使わずに、ぜひ、社会公共のために捧げるようにありたいものである」という賀川豊彦の言葉を引き、労働者協同組合法で、剰余金が出た場合は、準備金の積み立てなどを義務付け、定款に定めてあり、定款で定める額に達するまで当該事業年度の剰余金の10分の1以上を準備金として、20分の1以上を就労創出等積立金として積み立て、20分の1以上を教育繰越金として次年度に繰越す。剰余金の配当は従事分量によることとされていることなどを紹介した。
ディスカッションでは、同連合会が取り組んでいる「みんなのおうち」を紹介。子どもや、障害のある人やひきこもりなど困難にある人に開かれ、地域の困りごとや願い、やってみたいことなど、さまざまな思いを主体的に実現する居場所で、地域における総合福祉拠点とする考えだ。
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