所得増大と生産拡大の糧に 詳報:第5回JA営農指導実践全国大会(下)-JA全中2021年3月11日
【優秀賞】

農業を元気に!地域を元気に!
(株)アグリ甲斐は農地の遊休化防止と新規就農者の育成を目的に設立された。自社の農業生産は地域特産のトウモロコシ、「甘々娘」、ちぢみホウレンソウ、大塚にんじんなど多品目を生産。新規就農者が始めやすい露地栽培品目を中心に研修生はこれらの栽培作業や経営管理なども学ぶ。
研修期間中は宿泊施設や生活費補助も用意、就農時には農地を用意するとともにJAや直売所など販売先も確保する。就農後も栽培技術の助言、緊急時の農作業代行も行う。JAや行政の相談機能も充実している。
当社の作付面積は約9ha。研修生・修了生(6名)で7ha。「甘々娘」は管内作付け面積の4割を占める。この新規就農支援事業で1haの遊休農地を解消した。
課題は高齢化で、農地は確保できるが、倉庫付きの住居、作業場の確保だ。また、多くの研修生を受け入れる体制と指導者の育成も必要だ。当社自体も規模拡大し遊休農地に対応していく必要がある。そのため品質と収量の向上、作業効率の改善に取り組み、持続可能な営農形態の確立を実現したい。

「Beans Phoenix」
大豆産地の復活に向けて2015(平成27)年に大豆部会を立ち上げた。大粒品種「里のほほえみ」導入が追い風となり、2019(令和元)年に300haを超えたが異常気象で単収向上が課題に。部会だよりの発行による情報発信や、は種前の技術研修会を開催した。「単収V字回復」が合言葉になり目標を明記したポスターも配布した。
一方で課題は実需者が求める品質と安定した数量。それに応えるために大豆の区分集荷に取り組むことにした。販売先の関係者もほ場に同行して審査を実施。メリットは生育状況や品質を自分で確認するため自信を持って販売できることや、生産者の意識向上と販売単価向上につながることだ。
卸業者や実需者を産地に招いて産地情報の開示に取り組むと同時に、大豆部会員が製造や商品開発の現場を視察し、双方が大豆への思いを高めている。
生産者からは「大豆部会のような取り組みこそJAの自己改革だ」との評価を得ている。実需者が求める高品質な大豆づくりへの取り組みは、生産者と実需者からJAへの信頼を強めた。

愛知一のいちご産地維持発展のために
76人(令和2年)のいちご部会は高齢化による栽培面積の減少が見込まれるなか、栽培技術向上、新規就農者確保、販売強化に関する取り組みを進めている。
栽培技術では高濃度の炭酸ガスでハダニを死滅させる「すくすくバッグ」など新資材の利用提案とほ場巡回によるフォローを実施。ハダニ初期発生の抑制が確認できた。また、ハウス内の環境データを農業ICTツールで記録することを提案し、導入した部会員でいちごICT研究会を立ち上げた。温度、湿度、CO2濃度などをハウスごとにグラフ化し、収量などとの相関関係を話し合っている。皆で考えるためにファシリテーターを務めている。
新規就農者の確保育成を目的に2019(令和元)年度から関係機関が一体となって「いちごスクール」をスタートさせた。部会員のほ場で栽培の基礎から経営管理、就農準備まで研修を受ける。1期生5名が就農。小まめにほ場を巡回し悩みや課題を聞き取り、他の農家、業者などへの橋渡し役となって課題解決を考えることに努めている。信頼される産地づくりをめざしたい。

直売所出荷者への取り組み
直売所にはさまざまなレベルの出荷者がいるためレベル分けして営農指導することにした。売り上げ50万円以下の「レベル1」には、基礎栽培講習会や農業講座初級編講座などを開いて基本技術・知識を習得してもらった。
一方、売り上げ200万円以上をめざす「レベル3」の出荷者には、経営力向上のため行政と連携しイチゴ生産研修会を開催したり、ブドウ振興のための講習会などを実施。また、直売所以外での販売強化のためGAP導入や学校給食用品目の検討などにも取り組んでいる。
重点的に指導している売り上げ50~200万円の「レベル2」には実習講座の実施と出荷状況の一覧表の提示による出荷量調整を指導している。また、端境期対策としてJAが安価な簡易ハウスを開発し野菜の出荷時期をずらす栽培体系を提案し取り組んでもらっている。また、新規作物として初年度だけで収穫を終える「アスパラガス採りっきり栽培」も提案した。
こうした取り組みで直売所の販売実績も伸びている。できることから始める小さい改善の積み重ねが大事だ。

目指せ! 販売金額1億円
山間地の津野山地域では2010(平成22)年に「土佐甘とう」の本格栽培をスタートした。山間地域でも栽培適合性があり、価格も安定しJA共選による省力なども農家から評価され普及してきた。
ただ、露地栽培では雨よけハウスより収穫期間が短いなど圧倒的に不利のため、JAでは露地栽培に簡易雨よけハウスの導入を進めた。試験栽培では病害虫被害もなく収量差は175kg/aとなり、1aあたりの精算金額も13万円以上アップした。
更なる課題解決のため改良型の簡易ハウスを導入したほか、栽培技術の強化、販売促進活動、新規就農者の獲得などに取り組んできた。
産地力強化をめざし、農家が農家を育成する「営農アドバイザー制度」も導入した。新規栽培者のフォローと個別指導による技術の伝授、新技術・品種の栽培試験などに営農アドバイザーに取り組んでもらうことで部会の底上げを図っている。行政によるハウス導入支援も含め産地を維持させる仕組みを強化。5年後に1億円突破をめざす。

しろいし「泥付きれんこん」 産地振興に向けて
JAさが白石地区れんこん部会は2017(平成29)年の部会員111人を19(令和元)年に130人に、作付面積を115haから130haに拡大することを目標とした。
生産面では干拓地を中心にした「団地化」と、生産者がほ場に入ることなく薬剤散布ができるマルチローターの導入だ。これによって1・1haの散布面積で作業時間を27分削減できた。
販売面では「個選」の品質向上に向けてJAや部会委員での検査の実施や出荷目ぞろえ会を実施した。しかし、個選では労力がかかり作付面積を増やせないとの声があり、れんこん共選場を2015(平成27)年に建設した。契約販売による安定した価格を実現できた。ただ、出荷量が不安定という問題が出たため共選場運営協議会を設立し、出荷者にSNSで出荷状況について情報発信するなどの改善に取り組んだ結果、135%の供給増を実現した。
消費宣伝活動や食育活動として収穫体験も実施。3年間で作付面積目標は上回り部会員も増えた。青年部組織も設立しさらなる生産振興を図っている。

【記念講演】目指す指導員像
今大会では2016(平成28)年度の第1回大会で最優秀賞に選ばれた佐藤昌幸氏が講演した。現在はJA庄内たがわのJA出資法人で中山間地域の農地を守る取り組みをしている。
営農指導員には年齢、経験、地域性、技術の壁が立ちはだかっている。年齢と経験は農家のほうが上でこれは変えようがない。地域性はJA合併で広域化しているが、これは地域活動に参加するなど地域に溶け込むことに努めたい。技術については自己投資し勉強することが必要だ。
一方でどんな農家組合員がいるかの分析も必要だ。たとえばJAから離れて独自路線を行く農家には指導しなくてもいいのではないか。また、最初から教えるというのではなく、交流や情報提供をしていくうちに助言や指導を求められる関係になることもあるだろう。
今後の農業に求められるのは経営分析。思い入れだけでは農地は守れず、黒字になるように栽培作物も選定する必要がある。そのため単収と価格、生産費からどれだけ安定した収入になるかを考えるなど新たな分析手法が求められている。
農家が農業で幸せに暮らすことが目的でその手段として営農指導がある。コミュニケーション能力、企画・発想力、技術力などが営農指導員に求められるがスタイルはそれぞれ。答えのない時代だからこそ主体的な営農指導員が農業を変える。
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