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高度輪作体系で米の輸出拡大へ-JAぎふ2021年5月20日

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JAぎふは3年5作体系という高度輪作体系による輸出用米の増産に取り組んでいる。この輪作体系を実現するためスマート農業も導入。スマート農機による作業の効率化や省人化という効果はもちろんだが、女性が新たに担い手となるなど地域農業を活性化する動きも生み出している。

営農担当の武藤隆志常務理事(左)と営農企画課の林秀治次長営農担当の武藤隆志常務理事(左)と営農企画課の林秀治次長

輸出向けに3品種

JAぎふでは高齢者にともない大規模農家が出荷者の中心となり、50俵以上の出荷者約130経営体で水田農業担い手協議会を設置し年に2回情報提供と意見交換を行っている。こうした場を通じて実需者と結びついた冷凍米飯などの加工用米や外食用米向けなど需要に応じた生産への取り組みなどを進めてきた。

同時に国の政策も活用し、輸出米にも産地交付金など使って主食用米と手取りが平準になるような取り組みも行ってきたが、やはり低コスト体系を確立しなければ輸出向けや国内実需者のニーズには応えられないことから、高度輪作体系の確立とスマート農業の導入を進めている。

高度輪作体系とは3年5作体系。(1)輸出用米「みつひかり」を作付けした翌年は(2)輸出用米「にじのきらめき」を作付けする。にじのきらめきの収穫後は(3)パン用小麦タマイズミを作付け、収穫後は(4)輸出用米「ハツシモ」を作付ける。その収穫後は(5)パン用小麦タマイズミを作付ける、という3年間で米を3回(3品種)、麦を2回栽培するという体系だ。土地利用率は1.6倍となり2年3作よりも高くなる。

もちろん(1)~(5)までのサイクルとすべての地域で回していくのではなく3つの地域を設定、初年度となった2019年産の米栽培は「みつひかり」、「ハツシモ」、「にじのきらめき」をそれぞれ作付けた。

みつひかりは多収品種で11月上旬が収穫期の晩生品種。つゆどおりがいいことから牛丼店にも供給する。ハツシモは岐阜県のブランド米でもっとも生産量が多く、10月中旬が収穫期。寿司米として人気が高い。にじのきらめきは農研機構が開発したコシヒカリ並みの食味を持つ多収品種で暑さにも強い。9月下旬が収穫期だ。このように3品種の収穫期がずれているためカントリーエレベーターでの乾燥調製の時期もずれる。

「スマート農業」の活用(3年5作体系)

「スマート農業」の活用(3年5作体系)

乾田V溝直播栽培も導入

また、にじのきらめきについては、直播栽培を行っている。その先駆けとして瑞穂市旧巣南町エリアの中心経営体で新しい技術を積極的に取り入れている巣南営農組合は、平成30年度に乾田V溝直播栽培に取り組んだ。

2月初めに冬季代掻き、3月初めに排水溝設置、そして5月初めに播種作業を行うという流れで、冬と春に作業を分散できたほか、資材費はかかるものの10aあたりの労働時間は移植より少ないためトータルでコスト削減効果があった。移植では11時間ほどかかった労働時間が8時間に短縮できたという。

このような成果をふまえて3年5作の高度輪作体系に直播栽培も組み込んだ。しかし、それでも6月の麦の収穫後、耕起、代掻き、田植と作業がどうしても集中してしまう。小麦の収穫後にいかに短時間に効率的に田植えできるようにほ場の準備ができるかが鍵になる。

こうした課題に応え、さらに他の作業でも低コスト化を実現するために導入したのがスマート農業で、農水省のスマート農業加速化実証プロジェクトに手を挙げ、2019(令和元)年から取り組んだ。

現場に導入したスマート農機は無人ロボットトラクターによる耕起・整地、直進アシスト付き田植機、ドローンによる農薬散布、水田の水位、水温、気温の自動計測装置、ほ場ごとの作業記録、肥料・農薬の使用量などの記録とデータ分析に基づく作業時間の標準化などのためのシステムなど、現場の課題を解決するために「フル活用した」と営農担当の武藤隆志常務理事。

導入成果のいくつかを紹介すると、まずは労働時間の短縮だ。慣行作業では10aあたり6.1時間の労働時間が5.9時間となった。またスマート農機を活用した作業に限ると10%の労働時間削減となった。

女性がオペレーターに

女性や若手の活躍という成果も出ている。無人トラクターの運転資格は4人が取得したが、そのうち2人は女性。ほかに若手農業者も増えた。女性2人は巣南営農組合で経理担当社員と野菜の出荷作業でアルバイトをしていた。それがスマート農機の導入を機に興味を持って資格を取得した。ドローンの操縦も女性が担当しているのだという。

スマート農機の導入によって既存農機の活用の幅が広がることも示された。たとえば、田起こしでは2台のGPS利用の無人トラクターを1台分の間隔を空けて動かし、その間を後から既存の有人運転トラクターでなぞるように進めばまっすぐに田起こしができる。安定して直進できる技術がない人でもトラクターを扱えるようになり、農繁期のオペレーターを増やすことにつながる。

農業のハードルを下げる

このようにスマート農機の導入は単に効率化、省力化だけではなく「農作業のハードルを下げる」ことにもなり、農業に関わる人々を増やすことになる。巣南営農組合のように経理担当の女性がオペレーターの一員を担うようになったのはまさにその例だろう。

また女性がドローンを飛ばしている姿はスマート農機導入の機運を作り出し、世代交代も促進した。JAぎふ管内のスマート農機の導入件数は、スマホを利用した生産管理・記録システム19件、直進アシスト付き田植機と食味収量測定機能付コンバインそれぞれ10件など。また、JA支店に基地局を設置することによる取り組みの広がりも期待されている。

人工衛星からの電波に加えて、地域内に基地局を設置することで無人トラクターを動かす位置の精度を上げることができる。基地局があれば有人トラクターに自動運転キットを備えることで無人運転にすることができる。無人トラクターにくらべればもちろん導入コストは安く今後の普及が見込まれている。

スマート農機の導入による高度輪作体系への取り組みは、実需者が求める品種への切り替えも促進した。にじのきらめきの作付面積は2019年では30haだったが、2020年では180haへと6倍に増え、さらにその約半数が複数年契約を実現しており、価格変動リスクの低減にもつなげている。

令和3年産では令和2年産と同様、50haで約3300俵をJA全農インターナショナルを通じて輸出する計画だ。

もちろん課題もある。スマート農機の導入には機種ごとに研修の受講とその申請手続きが必要なことや、追加投資で機械費が増大しているが、費用対効果が得られていない機能もあることなどだ。
一方、販売面では米の品種の知名度がまだまだ低いことによる販売環境の厳しさと、価格の低下で交付金を加えても主食用米の手取り水準に届かない場合もあることなどだ。

ブランド化をめざして

こうした課題の解決に向けて、県立岐阜農林高校ににじのきらめきの実証圃を設けて高校生たちの栽培取り組みをメディアなどで情報発信しブランド化をめざしている。また、農水省の実証プロジェクトへの参加で取引き先など業界関係者が現地を視察するという関係づくりも生まれた。スマート農業の実装を現地で見てもらうことによって産地や農業者の取り組みを理解してもらい、安定的な取引も実現していきたいとJAは考えている。輸出用として低コストでの栽培にも力を入れるが、同時に国内の実需者のニーズに応えて生産者の経営安定を図る。営農部営農企画課の林秀治次長は「安定取引のために複数年契約を進めています」と話す。現在、主食用米として販売するハツシモのうち半数は複数年契約となっているという。3年程度の複数年契約を実現できれば少なくとも2年間は生産に集中することができる。JAではその間に多収名人コンテストなどを行い技術向上を図るなどの取り組みも進めている。

2019年から始まった3年5作の高度輪作体系は21年度に3年目を迎える。農業を支える多様な支え手も現地では生まれている。生産者たちの挑戦をJAは応援していく。

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