気候変動 事業へのリスクを分析-農林中央金庫2021年7月5日
農林中央金庫は気候変動にともなうリスクが電力、石油などエネルギー産業や、食品や農業などの事業経営にどのような影響を与えるかを分析している。近く発行される農林中金の「サステナビリティ報告書2021」のなかで示す。
農林中央金庫は2030年の中長期目標として、自身の拠点だけでなく投融資先の温室効果ガスを50%削減することや、持続可能な食料システムを構築するための農林水産業者の所得増加、環境や社会課題解決のためにサステナブルファイナンスを新規に10兆円実行することなどを掲げている。
同時に気候変動がさまざまな事業にどのような影響を与えるかについても分析している。たとえばパリ協定の2℃目標達成に向けさまざまな規制については事業への負担となりリスクが高まると想定される。
一方、気候変動への対応は、電力の再生エネルギー化など脱炭素社会へ向けた新たなビジネス機会ともなる。
こうした観点から気候変動に伴うリスクと影響分析を2020年度に実施した。
分析では気候変動のリスクを「移行リスク」と「物理的リスク」に分けた。
「移行リスク」とは低炭素社会へ移行する際に顕在化してくるリスク。たとえば「炭素税」の導入によって企業の財務が悪化、金融機関にとって投融資先への与信コストが発生するということも考えられる。
また、市場が脱炭素化を志向することで商品、サービスの需給関係と企業業績が変化することによる与信コストの増加も考えられる。
今回、農林中央金庫は移行リスクが高いと評価された「電力」と「石油・ガス・石炭」と食農バリューチェーンを構築し、農林中央金庫の基盤となる「食品・農業」、「飲料」セクターを影響分析の対象に選定した。
影響分析はFAO(国連食糧農業機関)やIEA(国際エネルギー機関)などが公表する将来予測をふまえ、地球温暖化防止のための追加的な新規投資を現状以上に行うダイナミックアプローチと、現状のままで追加的投資は行わないスタティックアプローチに分けて行った。
投融資先と問題意識の共有へ
その結果、「電力」「石油・ガス・石炭」セクターでは、ダイナミックアプローチでは追加与信コストは発生しないものの、スタティックアプローチでは与信コストが約40億円増えることが示された。
投融資先ごとに見ると、火力発電比率が高い電力会社を中心に、炭素コストの影響や再生可能エネルギーの普及にともなう発電設備の座礁資産化による財務への影響が見られた。
一方、アジアなど海外で事業展開する電力会社は再生可能エネルギーや低炭素化への設備投資により収益が増加する傾向も見られたという。
「食品・農業」「飲料」セクターはダイナミックアプローチでもスタティックアプローチでも与信コストが約10億円増えることが示された。中長期で見ると、サステナブル社会への意識の高まりによって食生活が変化し、食肉消費量が減少するといったマイナスの影響が確認された。一方、アジアなど海外事業を展開する企業では、人口増加や経済成長に伴う需要増が収益を下支えするプラスの傾向も見られたという。
農林中央金庫は移行リスク分析結果をふまえ、投融資先と対話を始めており、問題意識を共有することで低炭素・脱炭素社会の実現に向けて投融資先とともに気候変動への取り組みを強化していくとしている。
なお、気候変動にともなう「物理的リスク」とは、洪水など災害被害が増えることなどで、その分析は農林水産業にとって重要な問題となる。農林中央金庫は、近年大きな被害を出している洪水被害の分析から物理的リスクとその影響分析にも着手しており、2022年度以降に結果を開示する予定にしている。
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