どうみる? どうする?みどりの食料システム戦略 農業協同組合研究会2021年11月29日
農業協同組合研究会(会長:谷口信和東大名誉教授)は11月27日、東京・大手町のJAビルで2021年度第1回(通算第31回)研究会「徹底討論 どうみる どうする みどりの食料システム戦略」を開いた。オンライン参加も含めて約140人が参加した。
今年5月に農林水産省が策定した「みどりの食料システム戦略」は2050年に有機農業への取り組み面積を25%、100万haにするという目標を掲げている。みどり戦略の公表以来、この目標への賛否の議論が先行している。今回、農協研究会ではみどり戦略について理解を深めるため、EUの「農場から食卓へ戦略」との対比を通して考える企画とした。
EUの狙い グローバルスタンダード
EUの「農場から食卓へ戦略」と新CAP(共通農業政策)については、JCA(日本協同組合連携機構)の和泉真理客員研究員が報告した。
EUは2020年5月に「生物多様性戦略2030」と「農場から食卓まで(Farm to Fork)戦略」を発表した。
FtoF戦略は2030年目標に化学農薬の使用量とリスクの50%削減や有機農業の割合を25%とすることなどを掲げている。有機農業の割合は現在8.6%であり、野心的な目標を掲げた。さらにこの食料システムを国際基準にすることをめざすとしており、EU基準が達成できてない農産物は輸入に規制をかけるというのがEUの戦略だ。
一方、バイデン政権が誕生した米国では、気候変動、環境、持続性をトランプ政権よりも重視するようになっており、EUを離脱した英国、さらにスイスも環境を重視する姿勢を強め、和泉氏は「環境は農業の中心テーマ」になっていることを指摘した。
その際、EUをはじめとして世界は農業と環境についてどう見ているかを理解する必要があると和泉氏は強調、「日本では治水効果など農業は環境にプラスの効果があると言われるが、農業は環境へ悪影響を及ぼしている、近代的農業は持続的ではないというのが一般的な認識」と解説する。
温室効果ガスの排出量も24%が農林業由来で、たとえば畜産生産を抑制しなければならないというのが国民の意識だという。
農業が環境に悪影響 世界の意識
また、生物多様性の損失も農業が要因だとして、生物多様性戦略も10年に一度打ち出してきたという歴史もある。
こうした背景のもと農業者への支援策も「環境」を要件とするように変化してきた。EU農業予算の8割を占める直接支払いも環境が受給要件となっている。このクロスコンプライアンスは農業者にとって負担だが、直接支払いがなければ経営が成り立たないので、クロスコンプライアンスは義務となっている。
英国のクロスコンプライアンスの例では窒素使用制限や、生物生息地の保護、生垣や石垣の維持・保全などがある。
こうした政策を実施してきたが、EUはこれまでの努力にも関わらず農業は環境に負荷を与えていおり、食料消費の改善やフードロスの削減など食料システム全体で取り組もうというのがFtoF戦略の問題意識が和泉氏は指摘する。
問題意識を象徴する言葉として「家畜を飼った結果として環境が維持されるのではなく、環境保全の副産物として家畜がいる」との英国の大規模農場の管理者の説明を紹介した。
日本は国土の7割近くを森林が占めるが、EUは農地が半分近くを占める。こうした環境の違いから農業や農地に対して都市住民が環境との関係について意識が高い。環境への取り組みニーズは都市側から、だという。
一方、日本は農業側が農業の多面的機能を発信してきた。都市側にこれをもっと理解してもらう必要があるが、農業界自身が環境への関心が低いのではないかと和泉氏は指摘し、有機農業も人間に食料にとってではなく、生物や地球の安心・安全ためという問題意識を理解する必要があるなどと強調した。
もちろん自給率の低い日本は生産支援と担い手確保が重要だが、欧米とは異なる気候や国土条件のなかで、どう持続的な農業を実現するかが問われている。環境の視点を入れていくことは避けられない時期にさしかかっていることを和泉氏は指摘した。
みどり戦略は何をめざすか?
農林水産省の枝元真徹事務次官は最近の農政の方向と「みどりの食料システム戦略」の全体像を説明した。
日本には将来にわたって持続可能な地域をつくり、東京一極集中を是正することが求められており、そのためには農業をはじめ地方に若者が就きたいと思う仕事つくる必要があり、地域資源活用型産業がこれから重要になる。
ただ、国内全体では人口が減少するため世界市場に向けて農産物を輸出することが国内生産基盤の強化につながり、食料安全保障の観点からも必要な取り組みとなっている。
そのために国内農業生産には人手不足に対応したスマート農業の加速化が求められており、この技術はまたさまざまな人が農業の参加できるようになる技術でもある。
一方で温暖化による自然災害の多発や、農産物の品質低下が問題となっている。日本では温室効果ガスの農林水産分野からの排出量は3.9%だが、枝元次官はその削減は重要と強調した。
こうした農業生産や地方創生などの課題、さらにEUなどの動きもふまえて策定したのがみどり戦略であり、農業生産だけでなく、資材やエネルギーの調達における脱輸入、脱炭素化、ムリ・ムダのない持続可能な加工・流通、環境にやさしい持続可能な消費などに一貫して取り組むことが「食料システム戦略」であると話した。
とくにEUがグローバルスタンダードをめざしていることを念頭に、みどり戦略を「アジアモンスーン地域の持続的な食料システムのモデルとして打ち出し、国際ルールメーキングに参画すること」が重要であり、今年9月の国連食料システムサミットで「地域の条件に応じた取り組み」が必要であり、万能な解決策はないことを世界に発信していることも紹介した。
アジアモンスーン地域として持続可能な農業をめざすことに向け、総合的病害虫管理の普及や、ドローンやロボットを用いた防除、除草技術のほかこれまでの現場で培われてきた環境保全型農業技術や、有機農業技術の横展開なども進めることも重要だとした。
一方で国内の消費者もオーガニック食品にニーズがあり、国内生産で対応できない分、輸入が増えていること、また、若い世代には環境に負荷がないかどうかを消費の基準にするなどの動きも指摘した。
みどり戦略は有機農業を2050年までに25%とする目標など掲げるが、これまでに継続した取り組みの必要性と、推進するため法制化して農政の柱とすることなども強調し「これからは環境を考えないと持続性がないと認識したい」と話した。
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