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【インタビュー】JA全農酪農部 深松聖也部長 需要の創出に全力2022年3月18日

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酪農の生産基盤が回復し4年連続で前年を上回る生乳生産量が見込まれるなか、コロナ禍による需要の減退で昨年末から年明けにかけては、生乳の廃棄の懸念も出ていた。廃棄は回避されたが、生乳生産量がもっとも多くなる年度末から春先にかけて需給緩和が見込まれている。最近の生乳をめぐる情勢や課題、JA全農酪農部の取り組みについて深松聖也部長に聞いた。

JA全農酪農部長 深松聖也氏JA全農酪農部長 深松聖也氏

理解醸成と消費喚起

――昨年末に懸念された生乳廃棄は回避できました。これまでの取り組みについてお話しください。

年末年始期間におきまして、国や酪農乳業および生産者組織による熱心な理解醸成や消費喚起の取り組みが、量販店、コンビニ等へも伝わったことで、メディアや消費者国民に好意的に受け止められ、この期間の消費の増加につながりました。

また、私どもは並行して、関係会社を中心に全国の乳製品処理工場が加工処理能力を最大稼働できるよう事前に準備したうえで、日々変動する生乳需給に対し、ホクレンや広域指定団体と協調し生乳の広域流通を行いながら、乳業各社とも連携した配乳調整を行い、偏在する昨年より多くの余乳を集約し、乳製品工場の最大稼働を維持し、処理を完遂したことも大きな成果であったと感じています。

先に触れた理解醸成や消費喚起につきまして、酪農部ではこれまでも行ってきた新聞広告や子ども食堂等への牛乳無償提供、Eコマースによる業務用乳製品の販売やクラウドファンディング等に加え、新たな取り組みとして、牛乳50%以上使用の「ミルクティー」(ボトル缶)の開発販売に挑戦しました。この商品には酪農の事情を正しくお伝えし応援していただきたいという思いを込め、学校給食休止期間の子どもや家庭で飲んでいただくとともに側面のQRコードから全農酪農部のHPにつなげ、牛乳を使った料理レシピや生乳需給情勢などを掲載し見ていただけるよう工夫しています。

特に生乳は生ものであり、牛が生き物であること、食の大切さや守るべき産業であることを感じていただきたいと考えました。お陰様でネットやテレビ等多くのメディアで取り上げられるなど大きな反響を呼び、結果、当初の年末年始製造予定数量を大きく超える2万ケース弱(約46万本)を製造し、JAタウンや直売所、Aコープの他、JR東日本からもお声がけいただきNEWDAYS等で販売することができました。

国民に欠かせない酪農守る

――年度末から春先にかけてはどのような課題がありますか。

春は一年の中で最も生乳生産量が多くなる時期になります。暖かくなるにつれ牛乳類の消費量は増加してきますが、春休みやGWの学校給食休止に加え、まだまだコロナ禍の影響もあり、生産が需要を大きく上回る期間になります。年末年始同様に飲用等向け消費の喚起に加え、年末年始と異なるのは、冬よりも長い期間にわたって全国の牛乳・乳製品工場による処理を最大限確保しなければならないということです。

また、年末年始に想像以上の応援を頂けた半面、春先も再び依頼となると、またか、といった反動での批判が増えてしまうのではないかと危惧されるところです。

何としても生乳廃棄を避けるべく、この期間の消費喚起とあわせ生産抑制策も検討しているところですが、そのすぐ先にある夏場(需要期)に安定的に供給できる基盤の維持・確保も重要です。

今、酪農生産現場では配合飼料価格の高騰や輸入乾牧草の不足など、様々な生産コストが上昇しています。これまで行政の支援や業界の生産基盤強化策と生産者の努力により2019年度を底にようやく回復してきているところです。

コロナという想定外の緊急事態により、将来の生産基盤を損なう事は避けなければなりません。また、乳業においてもコロナ禍での業務用を中心とした売り上げの減少に加え、燃料や資材、物流費等様々なコストの上昇が経営を圧迫しています。当面は、適正な価格を維持しつつ需要を底上げするといった難しい問題にまずは知恵を絞っていかなければなりません。

年末年始の経験も生かし、国を含め酪農乳業に携わる関係者と連携しこの難局を乗り越え、将来にわたり国民にとって欠かせない食を担う酪農という産業を守っていきたいと考えます。

――需給の安定に向けた現状の課題や将来に向けての取り組みは?

今般コロナという想定外の事態の影響を受け、インバウンド需要がなくなり、外出や外食自粛による業務用需要が減少したことと昨年の冷夏の影響により、脱脂粉乳の在庫が過去最大に積み上がっています。Jミルクが示した需給見通しでは令和3(2021)年度末の脱脂粉乳の期末在庫の見通しは10万2000t弱、令和4年度末には13万8000tとなっています。生処の拠出に国の支援も得て2万5000tの在庫削減に取り組むほか、ホクレンは独自に4000tの追加対策を行うことにしています。それでも来年度末は10万9000tと今年度末より約7000t積み増してしまう状況にあります。

これまでの歴史においても1993年や2003年度に乳製品在庫のピークがあり、その時も生産者と乳業者が連携し国の支援を得て輸入乳製品との置き換えを行い、またその後の国の制度運用において液状やチーズの生産拡大が図られたこと、カレントアクセスの対象品目拡大など一体となった取り組みを行ってきました。

ただし過去とは国内の生産地域や生産量、生乳用途や乳業の環境も違います。さらには世界的な需給ひっ迫で国際相場も高騰しており、目下ロシアのウクライナ侵攻による様々な影響も出始めています。

現状、脱脂粉乳の過剰在庫対策については、まずは飼料用への転用を最大限進めていますが、国際相場の高騰から確実な需要がある輸入調製品との置き換えを広げていく可能性も十分考えられます。また、直近の生産面における生産抑制策については経営体系により実施の手法やレベル差は実効を得るべく柔軟に取り組み、将来の基盤に備えることが大切だと考えます。同時に将来に向けた様々な需要拡大対策も考えていかなければなりません。我々は飲用等向け生乳の安定供給を通じ健康志向など高まるニーズにしっかり応えられるよう加工偏在化是正への対応を含め需給調整機能を強化し、物流や取引の安定を目指しています。

生乳の用途にはまだまだ新規需要拡大の可能性があると考えます。系統乳業とも連携した牛乳の販売拡大はもちろんのこと、消費者に乳の価値を伝え活用していただけるような商品開発など組織の強みも生かし販売面でも不断の努力と工夫も行っていきたいと考えます。

また、既存用途の需要拡大の余地として、多くが輸入されているチーズについて、TPP等関税率が段階的に引き下げられる現実により、乳価等多くの課題はあるものの、将来的に一定量国産に置き換わる海外情勢も見据えた制度設計なども視野に関係者と協議ができればと思っています。

最後に、コロナにより浮き彫りとなった需給課題に対して、過去幾度となく酪農乳業で連携して乗り越えてきた経験を生かし、酪農経営の安定と乳業の健全な発展につながるよう事業を通じ努力していく所存です。そのためには、将来にわたり国民の食を守る視点からも変化する国際情勢を踏まえた国の政策支援や連携も欠かせません。

新鮮で安全な国産の牛乳乳製品を安定的にお届けできるよう、また、難しさはありますが、国民消費者の皆様に正しい情報の伝達と共有ができるよう、地道で丁寧な活動も続けてまいります。

4月より新たに展開する「カフェオレ」缶もそのきっかけの一つになればと願います。

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