緊急フォーラム 世界と日本の食料安全保障 農中総研2022年4月14日
農林中金総合研究所は4月13日、緊急フォーラム「世界と日本の食料安全保障~ウクライナ情勢を受けて~」を開いた。オンラインで約330人が参加した。
平澤氏(左)と阮氏
同研究所理事の阮蔚(ルアンウエイ)研究員が「ウクライナ危機で改めて注目される食料安保~米中貿易摩擦への波及~」と題して講演した。
阮研究員は▽ウクライナ・ロシアの輸出減とグローバル市場への打撃、▽途上国の食料危機と大国の思惑、▽ウクライナ危機の米中貿易摩擦への波及の3点を中心に話した。
小麦は世界最大の主食穀物で2020年度は世界全体で7億7600万tが生産された。ロシアとウクライナの生産は21世紀になって躍進した。2000年にロシアは世界5位だったが2020年に3位、ウクライナは2000年には10位に入っていなかったが、2020年に8位に登場した。トウモロコシも両国は21世紀になってトップ10に入った。生産増大にともなって小麦の輸出量は両国合わせて世界で約3割(27.9%)を占めるまでになった(2020年)。
ウクライナ戦争で現在、黒海の穀物輸出港からの輸出がほとんど停止している。両国の小麦は米国、豪州産より安く、中東やアジア、アフリカの途上国へ輸出されている。両国への小麦の依存度はエジプト7割、レバノン6割など。インドネシア、フィリピンなどアジアでもパン、麺類の消費拡大で小麦の需要が増加している。価格の暴騰で一部の途上国では混乱も起きており、FAOは栄養不良人口が新たに800~1300万人増加するリスクがあるとしている。
ウクライナの農相は今年の春まきの作付けは700万haと半減するおそれがあると4月はじめに話したという。
途上国で食料危機が懸念されているが、阮研究員は途上国によるロシア産小麦の輸入をバイデン政権は黙認する可能性があると話す。
一方、食料価格と連動して肥料、エネルギーの価格も高騰している。化学肥料の価格は高止まりが続くことも予想した。米国はロシアからの肥料供給停止でブラジル向け輸出を拡大しているという。
ウクライナ危機は米中貿易摩擦にも影響を及ぼす。中国は「一帯一路」戦略でウクライナとの関係も強化し、黒海に穀物輸出設備を建設し輸入多元化を図ったが、今回の戦争で不透明に。中国は「食料輸入活用」から「食料自給率向上」へ転換した。この政策転換が中国の米国産農産物輸入義務にどう影響するか、米中関係も注視されるという。
ウクライナ危機で世界各国で食料安保の機運が高まりEUと米国は休耕地の生産再開と補助金の拡大の動きもあり新興国、途上国も自給率引き上げ策を強化している。
しかし、これらが保護貿易、環境破壊、財政悪化のトリレンマのリスクもあることなども指摘した。
続いて同研究所執行役員の平澤明彦基礎研究部長が「国際情勢と日本の食料安全保障 ~その特質と課題~」と題して講演した。
海外から食料を調達するには経済力が重要だが、近年は日本の経済的地位は低下し、買い負けが増加している。また、貿易は平和が前提で戦争となると貿易制限などで経済力では解決できない。海外の生産、輸送には日本の主権が及ばない。
こうしたことから「最低限の国内生産を維持する必要性」がある。
EUでは2023年からの次期農業政策で目標の第一に食料安全保障を明示し、所得支持のための直接支払いもEU全域で農業生産を維持するため、と位置づけられた。
ウクライナ危機にもすでに対応し、直接支払いの環境要件を1年間緩和し、環境重点用地での作付けや、農薬使用を許可しているという。
スイスでは2017年に憲法に食料安全保障の条項を追加した。
これに対して日本の食料・農業・農村基本法では理念の第一が「食料の安定供給の確保」で国内生産の増大を基本として、適切な輸入と備蓄を組み合わせるとしている。このうち国内生産については2015年基本計画から食料自給力指標を打ち出した。
その指標では現状が続けば2030年までに推定必要熱量を供給できなくなる見込みだ。これが示すのは農業生産基盤の縮小で「国民を養うのに必要な最低限の国内生産すら難しくなりつつあること」。平澤部長は、どのような食料を国内で生産し、どういう農業をめざすかを検討し農地の維持をはかるべきなどと強調した。(講演の詳報は近日掲載)
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