建設業のノウハウに先端技術導入、カットブロッコリーで市場開拓 静岡県の農業生産法人 新世紀JA研究会で報告2022年6月13日
全国のJA組合長など常勤役員でつくる新世紀JA研究会(代表=三角修JA菊池組合長)は6月9日、農業生産法人の取り組みと課題、特にJAの関与についてのセミナーをオンラインで開いた。セミナーでは、建設業から参入して125haのブロッコリーを栽培する静岡県浜松市の株式会社アイファームが建設業のノウハウを生かしながらカットブロッコリーの販売で市場を開拓した取り組みを報告し、関心を呼んだ。報告の要旨を紹介する。
アイファームのブロッコリー収穫
アイファームは、現在の代表取締役の池谷伸二氏が平成20(2008)年のリーマンショックを期に、建設業から農業に参入し、28年に設立した法人。約30aの畑を借りてブロッコリーの栽培を始め、その後、令和3(2021)年、浜松市内に60haの農地を借りて規模拡大し、現在は秋冬ブロッコリー、春ブロッコリーを合わせ、作付面積延べ125ha、売上高約4億円と、静岡県内でトップクラスにある。
規模拡大できた理由の一つにブロッコリーのカット販売がある。スーパーのブロッコリーは花蕾を房の状態で販売するが、消費者にとっては他人が触れたものを買うことになり、また調理の時、小さくカットする必要がある。パック包装したカットブロッコリーは衛生面と利便性が好評で、発売当初から引き合いがあり、右肩上がりで売り上げが伸びた。また、規格外の大きさのブロッコリーも利用でき、生産側にとってもメリットがある。
建設業の分業化導入で技術向上
規模拡大の二つ目の理由に独自の農業管理システムを取り入れたことがある。カットブロッコリーの販売額は増えたものの、それ以上に人件費を含めた経費が増大した。ブロッコリーは1年1作のため経験の蓄積ができず、何年経っても一人前にならないことが多い。これに対して工程ごとに分業する建設業では、2、3年経験を積むと、ある程度一人できるようになる。
そこでブロッコリーに建設業の分業を取り入れた。作業を、土づくり、苗の管理、植え付け、中間管理、収穫、出荷調整の6工程に分け、専門のチームが担当。これによって短期間に作業技術が向上し、作業時間も安定した。作業者が全体の進捗状況をつかむとともに、時期によって生じる作業の過不足を調整するため、定例会を開いて調整する。
スマート農業技術も導入。池谷氏は、同社の経営方針について「付加価値を高め、販売単価を上げることで利益につなげる。そのためには生産における無駄を除き、コストを下げることにある。この観点から検討した」と、導入の理由を説明する。
ドローンで収穫適期を判断
同社のほ場は約500カ所に分散している。肥大のばらつきがあって収穫時期の異なるほ場は何回も収穫のために通わなくてはならない。そこでマルチスペクトルカメラ搭載のドローンを導入。カメラで収穫時期を判断すると、適期収穫が効率よくできる。収穫回数が減るメリットは大きく、池谷氏は、仮に出荷量の40%をカットブロッコリーに置き換えると、人件費だけで580万円の削減になる、と試算する。
大きいJAの支援
同社の成長にはJAとぴあ浜松や行政、流通・販売業者などの支援も大きい。「規模拡大のために補助事業を利用しているが、自己負担分についてはJAから融資を受けている。民間の金融機関から借り入れができない時にも、JAに相談にのってもらった」と池谷氏はいう。
セミナーではこのほか、日本農業法人協会の鈴木一寛常務、谷口信和・東京大学名誉教授が報告した。鈴木氏は、同協会が実施した会員のアンケートをもとに、①差別化販売商品の開発や販売経費の内容開示②競争力のある資材価格の設定③柔軟性のある施設利用料金の設定やCEにおける区分出荷④地域農業ビジョンへの関与の強化⑤法人等の担い手が増えるなかで、労務管理(人材育成、社員教育)や経営コンサルティングなどの支援――をJAに求めた。
また、谷口氏は、JA出資型法人が直面する今日の問題として、①ほ場分散が激しく、条件不利地が多いため効率が悪い②職員の高齢化や不足③冬期の仕事が不足し、所得確保が困難④農地借入、作業受託は増えているが、法人側の受け入れ体制が不十分⑤耕作放棄地への対応が困難⑥赤字経営の継続⑦高齢化による役員のなり手不足⑧経営能力を持つ責任者の不足⑨十分な栽培・飼養技術が備わっていない⑩地域の他の担い手と競合関係にある、を挙げた。
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