協同労働を誇りに 「共益」から「公益」へ ワーカーズコープ連合会理事長 古村伸宏氏2022年7月6日
今年の第100回の国際協同組合デーは、昨年末に制定された法律で公的に認められた労働者協同組合(ワーカーズコープ)にとって、記念すべきイベントになった。人間らしい仕事とくらしの実現を求めるワーカーズコープは、既存の協同組合にとってもよい刺激になるものと期待される。労働者協同組合連合会の古村伸宏理事長にワーカーズコープの意義と役割を聞いた。
ワーカーズコープ
連合会理事長
古村伸宏氏
問われる持続可能な経済のあり方
今年10月、労働者協同組合法施行を迎え、ワーカーズコープが正式に協同組合として再出発する。その意味でも、今回の第100回の国際協同組合デーは感慨深いものがある。1980年ICA(国際協同組合同盟)のモスクワ大会におけるレイドロー報告「西暦2000年の協同組合」では、21世紀に予想される協同組合、そして社会の危機に対する警鐘を鳴らしていた。
それから40年以上が経過した。資本主義経済のもと、経済、社会のグローバル化が進み、暮らしや労働、地域がそれにのみ込まれて、劣化が進んでいる。そこで、グローバル化一辺倒の資本主義への対抗軸として、地域での食料・エネルギー・ケアの自給・循環をめざしたFEC(フェック)構想、持続可能な経済のあり方が、いま問われているのではないか。
志でつながる助け合いの経済追求を
それには経済学者であるカールポランニー(1886-1964)の唱えた、3つの社会統合(互酬・再分配・交換)としての経済を再考する時期に差しかかっていると感じる。つまりお金と市場(交換)だけでなく、助け合いの経済とは何かを追求することである。それは競争を中心とした市場でなく、農産物でいうと都市と地方の助け合いとしての産直であり、JAが取り組んでいる地産地消などの地域助け合いの経済である。つまりお金が目的でなく、相手に喜んでもらい、それによって自分も喜ぶという、志でのつながる経済である。
人類の経済は相互補完の物々交換によるところが大きかった。山に住む人と海に住む人がそれぞれ生活に必要なものを交換する。市場はその間に生まれた。このような志でつながる協同をどのようにして根付かせるかが問われている。それは同時に今の我々の生活の見直しであり、それは豊かに暮らすためのコミュニティーづくりでもある。同時に協同組合にとっては「共益」と「公益」を掛け合わせることでもある。
共益から公益へ橋を架ける活動を
「労働」はなんのための営みか。お金を得るためだけではない。かつて農村集落の道普請などがそうだった。また集落の入会地の山林は共有財産だった。家事労働もお金のためではない。自分のためでもあるが、他者のためでもある。食料を供給する農地や、二酸化炭素を吸収する樹木を守ることは〝利他〟の精神、つまり公益である。そうした経済のあり方に近づくことができるかどうか。何のために、誰のために働くのか。「人間らしい働き方」とは何かが問われている今日、共益から公益へ橋を架けるワーカーズコープの活動は、時代的な必然性がある。
一方、いまのウクライナの事態は「平和」とは何かが問われている。平和は具体的であるべきだ。戦争や不況の影響は、弱い者から現れる。その現実に目を向けなければならない。また、国の安全保障が声高に唱えられているが、いまや部分的な「安全」はあり得ない。食料やエネルギーなど、世界・地球全体の問題になっている。そのことを提起して議論を呼び起こしたい。
だれもが社会を変える当事者として快く働く時代を
働くということは協同組合組織固有の共通課題だと思う。自ら仕事を起こし、自ら働く「協同労働」で、労働の誇りと生命の価値を問い合ってきたワーカーズコープは、それを提起できる組織だと考えている。働くことの意味を協同のロジックで各協同組合組織が、それぞれの立場で考える時だと思う。
ワーカーズコープは協同組合としては後発だが、過去に縛られず、「協同組合とは何か」「人間らしく働く」とはどういうことかを考え続けてきた。こうした「らしさ」の探求なくして今の危機は乗り越えられない。理想や観念を、一つひとつの課題からしっかりと現実に落とし込み、試すことが大事だ。協同労働が身近になる時代が始まる。だれもが社会を変えるささやかな当事者となり、快く働く時代を切り開いていきたい。
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