協同組合の将来像創造 JA経営ビジョンセミナースタート2022年8月31日
経営環境が厳しくなるなか、JAの将来の方向を示す経営ビジョンづくりが求められている。これに対応し、JA全中は今年度、新たに5回のセッションを設け、「JA経営ビジョンセミナー」を開く(表参照)。「激変する時代のJAビジョンの創造を問う」との年間テーマのもと、JAの常勤役員が1泊2日の日程で、生協や民間企業でのフィールドワークも含め、研修する。経営者同士のディスカッションを重視し、JA経営者のネットワークづくりにもつなげる。第1セッションは7月13、14の両日、「協同組合とJAの組織・事業の未来」について神奈川県で活動する「福祉クラブ生協」で現地研修した。セミナーにおける講演と報告、意見交換の要点を報告する。
基調講演 奥村昭博慶大名誉教授 「めざす姿」明確に 根底に信頼や共生
新しい協同組合像示せ
 グループでビジョンづくりを話し合うJAの常勤役員
グループでビジョンづくりを話し合うJAの常勤役員
基調講演で奥村昭博慶應大学名誉教授は、全5回のセッションの前提として、グローバル化やDXの技術革新が進む社会経済の渦中で、食料・農業・農村の未来像をどのように描くのかについて話した。
奥村教授はJAを巡る環境変化について、①組合員の高齢化・JA離れ②准組合員の増加③農業のグローバル化④経済の成熟化による競争の激化――などを挙げる。一方、JA内部の変化としては、合併による巨大化・広域化、機能の多様化がある。特に都市部と中山間地域とのかい離、巨大JA(1県1JA)とその他のJAの格差が拡大するとする。
そうした情勢にあわせ、問われるのはJAの新ビジョンづくりであり、これは「なにをすべきか、どこへ行くべきか」ではなく、「どのような姿になりたいか」のビジョンを描くことだという。ビジョンとは、未来に到達したいと希望する自分自身の姿(自己定義)であり、「どんな組織になるのか」(ドメイン)、「選択と集中」(資源展開)、「誰とどのように競争するか」(競争戦略)、ビジネスモデルの構築が必要だと指摘する。
ドメインとは、事業の機能定義のことで、米国の鉄道事業の衰退が例に挙げられる。鉄道事業を「運送業」と定義したため、サービスという機能を提供することに転換できなかったというわけだ。従って、「総合〇〇」という事業はドメイン定義が不明確だという。
「選択と集中」について奥村教授は、「カテゴリーキラー」で説明する。特定の商品分野に限定して、豊富な品ぞろえと低価格で商品やサービスを販売する量販店のことで、ヨドバシカメラ、ユニクロなどを例に挙げる。
一方、同教授はコロナ禍の中で、「人々は新しい価値を求め出している」と指摘。そこにJAの存在価値を見出す。相次ぐ自然災害やパンデミック、政治的不信の高まりなどに対して、ともに信頼しあって問題を対処しようという価値が生まれ始めているという。それは「連帯」「協同」「つながる」、あるいは「ワンチーム」という言葉で言い表される。
こうした新しい価値を実現するため、同教授はJAに社会的役割、とりわけ地域共生の取り組みが必要と指摘。それぞれの地域で雇用、経済活動、生活基盤に対して大きな責任を負っているとして、「JAの経営者はソーシャルイノベーターでなければならない」という。
その意味で、いま協同組合運動が問われている。協同組合は「もともと資本主義のアンチテーゼとして出発したにも関わらず、ますます市場主義が発達した」として、新しい協同組合像を提唱する。それは、①私企業に負けない、差別化された協同組合②経済活動と協同組合運動の並存③グリーンイズムの旗手をめざす姿だという。そのためには組合員の意識変革が必要だと強調した。
 令和4年度「JA経営ビジョンセミナー」予定
令和4年度「JA経営ビジョンセミナー」予定
福祉クラブ生協(横浜市)の事例 「助け合い」基本に 19業種の運動事業
ワーカーズ主体 地域問題を解決
 福祉クラブ生協の高齢者の送迎のデモンストレーション
福祉クラブ生協の高齢者の送迎のデモンストレーション
福祉クラブ生協は、1989年に横浜市港北区で誕生した日本初の福祉専門生協で、共同購入と福祉が一体となって事業を展開。組合員とワーカーズコレクティブと職員で構成し、2022年現在、27の自治体行政区で活動している。
少子高齢化社会、公的な福祉サービスの限界、地域コミュニティーの崩壊などを予測して、そこから発生するさまざまな課題を他人任せにせず、自分たちの手で、協同の力によって解決しようという思いで設立した(設立趣意書)生協。「助け合いは順番」「困った時はお互いさま」そして「組合員同士の助け合い」として、住み慣れた地域で暮らし続けられる在宅福祉支援システムをつくり、それを広げることを目的に活動している。
現在の組合員数は1万7000人、ワーカーズコープ121団体、約3400人(延べ参加人数)、職員42人からなる。2021年の事業高は43億2000万円で、うち共同購入が6割強を占め、次いで福祉事業が約9億5900万円となっている。
「みんなで作る地域最適福祉」(コミュニティーオプティマム)を目指し、特に共同購入による食の安心確保のため、生産者との交流会や生産現場の見学会などで、作り手と食べ手の信頼関係を築いている。また、不要な添加物を使わないことを原則に、安全・安心なオリジナルブランドの消費財をつくっている。
ワーカーズコープは福祉クラブ生協のすべての運動事業を担っている主体で、生協活動の運営を委託されている。「世話焼き」「家事介護」「食事サービス」「移動サービス」「子育て支援」「デイサービス」「生活支援」「小規模多機能サービス」「ウェるびぃサロン」「居宅介護支援」「ライフサポート」「街の技術」など19業種におよび、地域に住む人々が「あったらいいな」と思うサービスの多くがワーカーズコープのサービスとして実現している。
地域の問題を協同の力で解決する同生協の取り組みについて、大場英美理事長は「街づくりはコミュニティーの形成であり、地域づくりは市民協同の関係性を作ること。福祉クラブ生協はこれからも大勢の人の参加を広げながら、助け合い・支え合う地域づくりを目指す」と、抱負を語った。
◇
意見交換では、福祉と共同購入が一体となり、活動の主体がワーカーズコープという福祉クラブ生協の組織形態が関心を集めた。特に地域のニーズに基づいたワーカーズコープの自主的な活動は、支店協同活動や、女性部の地域活動などにも通じるところがあり、組織づくりの手法についての質問があった。
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