世界の食料分断の危機 アフリカで飢餓リスク 農中総研フォーラム①2022年11月15日
農林中金総研は11月9日に第3弾となる緊急フォーラム「世界と日本の食料安全保障を考える」をオンラインで開き、約470人が参加した。
フォーラムでは阮蔚理事研究員が「世界食料危機-人類が直面する複合リスクの実相」をテーマに講演した。
ロシアのウクライナ侵攻で高騰した世界の穀物価格は7月初めには侵攻前の水準に戻った。しかし、輸出再開後のウクライナ産穀物の輸出先は欧州が63%でアフリカは13%、さらに後発途上国向けは5.7%にとどまっている。理由は欧州の干ばつ。欧州が買い付けることによって価格が高止まりし途上国が買えず、食料危機は継続している。
ロシアからの小麦輸出も前年同期比(7月、8月)22%減少した。理由は買い手がロシア産を避けたり、ドル決済ができなこと、貨物船の保険契約が困難なことなどが考えられるという。そのためロシア国内の小麦価格は下落し、農家の収入が減少、「来年の生産が問題になる」と指摘した。
一方でロシアは肥料原料の輸出制限を続け、プーチン大統領は対ロシア制裁解除を再開の条件にしている。阮氏は「各国で農民が肥料投入を削減し来年の生産量減のリスクが高まっている」と指摘する。また、米国農務省はロシア産の小麦生産量は来年は21%増加すると予測しているが、ロシアは小麦や肥料は同盟国・友好国だけ供給するという「食料分断」のリスクが高まっていると懸念した。
そのなかでウクライナやロシアからの小麦輸出に依存してきたアフリカには飢餓リスクが高まっていることを強調した。阮氏によると小麦は1950年代から供給過剰となり欧米はアフリカ市場に安値で輸出し、アフリカ各国の農業に打撃を与えた。
1980年代以降は、IМFと世銀がアフリカ諸国に国際収支改善を要求したことから外貨獲得のために商品作物を栽培し、穀物の供給力が弱まり都市ではさらに食料を輸入に依存するようになった。
現在はドル高で貧困者は食料を買えず飢餓の発生にもつながっているという。
そのほか食料生産と輸送に打撃を与えているのが、想定を超える気候変動。2022年夏は干ばつでライン川とミシシッピ川で一時輸送が止まった。インドも降雨不足でコメの輸出制限を始め、安定していたコメの価格も上昇局面に入ってきた。一方、パキスタンは大洪水に襲われた。
こうした状況をふまえて阮氏は「世界は食料の供給過剰の時代は終わり、食料争奪の時代となってきた」と指摘し、日本に必要な対策として米、小麦などの備蓄体制の強化、大豆、トウモロコシなど国産生産支援、化学肥料の備蓄と有機肥料システムの構築を挙げた。
また、日本の技術でアフリカの増産支援が求められているとし、とくに倉庫や加工など収穫後のサプライチェーンの整備、品種改良などへの支援が必要だという。
世界は分断の様相を強め、食料貿易もブロック化の懸念があるが、世界全体の食料需給をみると、ロシアの小麦増産が米国、EUの減産分を補っており「分断はできない」と阮氏は強調、「開かれたグローバル穀物市場の維持を」と訴えた。
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