【JA営農指導実践全国大会】担い手育成の最前線確認(2)2023年3月17日
2月16日に開かれた第7回JA営農指導実践全国大会(JA全中主催)では再優秀賞のほか審査員特別賞、優秀賞が選ばれた。
発表の概要を紹介する。
【JA営農指導実践全国大会】担い手育成の最前線確認(1) から
【審査員特別賞】
せん定枝の商品化に道
JA紀州(和歌山県)廣澤健仁氏
新たな所得向上をめざし梅のせん定枝を正月の飾りつけや生け花用に調製・選別した「ズバイ」の出荷へ向け取り組んだ。
営農指導員に知識がないため他県の産地に出向き、歴史、栽培技術、販売などを学び、その後、生産者に講習会を呼びかけた。しかし、「せん定だけでも疲れるのに拾って出荷用に選別などできない」と当初は参加者がなかなか集まらなかったが、自分で栽培から出荷まで行い、作業工程などを検討していくと同時に、女性農業者をターゲットに出荷者を拡大していった。
しかし、平成30(2018)年に台風による塩害で出荷者は激減。これを機会に出荷まで保存する枝の管理方法のマニュアル化や出荷規格の統一などに取り組み出荷安定をめざした。枝の管理はマニュアルに従えば15日から20日間の保存が可能になり、出荷用に切りそろえる作業も電動バサミや電動ノコギリを開発、作業効率を大幅にアップさせた。
出荷規格は市場関係者やJAの販売部と連携しもっとも出荷ロスの少ない規格を検討し、長さを40センチに統一した。
これらによって安定した出荷本数を確保でき、市場の信頼も高まり土台が固まっていき、単価も上昇した。
この取り組みによって小規模生産者が大規模生産者のせん定枝の片付け作業を支援することで生産者どうしの新たな絆ができ、大規模生産者は労力削減に、小規模生産者にとっては臨時収入が得られた。女性をターゲットに出荷者を拡大した結果、女性のJA出荷への意識も高まっている。
「捨ててしまうものを所得向上につなげる」取り組みによって、生産者は必ず枝を凝視するようになり病気の発生状況や、樹勢の強弱など園地状況の把握がレベルアップしたほか、せん定作業もスピードアップするなどうれしい誤算も生まれている。生産者の所得向上をめざし、地域全体に笑顔があふれるよう営農指導にまい進していきたい。
【優秀賞】
請負せん定思わぬ成果
JAつがる弘前(青森県) 長内隆氏
りんごのせん定作業ができないとの切実な労働力不足の声を聞き、JAが事務局を務める集落営農組織に冬場の雇用創出としてリンゴ請負剪定(せんてい)隊の結成を提案。役員への説明を進めせん定経験のある農家でせん定隊を結成した。
リンゴ農家へのアンケートからは今すぐにでもせん定を委託したいとの回答が26%を占めたことから、高齢化が進み後継者が不足している地域を対象に活動することにした。隊員は将来を担う若手農家でせん定の経験は浅いものの、技術や知識を柔軟に吸収しバラつきのない技術が習得されることを期待した。
そのために座学をはじめ年間を通してせん定理論を身に付けてもらった。その結果、園地で請負せん定を始めると自ら考え技術を共有する姿が見られるようになった。作業面積も順調に増え6年間で延べ38haを請け負った。隊員1人当たりの請負面積は毎年1ha前後だが、これは量より統一性あるせん定という質にこだわってきた結果だ。組合員と課題を共有し、ともに苦労し解決策を見出す。営農指導員が求められる原点がそこにある。
【優秀賞】
都市農業の未来を創造
JA東京あおば(東京都)岡野静香氏
当JAは練馬区、板橋区、北区、豊島区が管内。農地があるのは練馬と板橋のみでJAは四つのアグリセンターと直売所を運営している。ただ、営農指導専門の職員はおらず地域振興渉外が兼務をしている。
33人が所属する大泉地区果樹部会は品目もばらばらなことから活動が低下、解散を求める声も出るなか、複数の品目で応用できる新技術の視察研修を行ったところ、限られた農地だからこそ導入可能なV字ジョイント仕立て栽培に着目し講習会を実施するなど活動が活性化した。
この栽培法の最大のメリットは低樹高での栽培が可能となるため、さまざまな樹種で観光農園化が可能になること。地域住民に喜んでもらうキーワードは「農業体験」で練馬区と協力し現在、38園のブルーベリー摘み取り農園が開園している。また、練馬区の一斉給食に使う練馬大根4000本を収穫するため「練馬大根引っこ抜き協議大会」を開催、地元に根づいた一大イベントとなった。都市農業を守り、地域の活性化に貢献することをめざしている。
担い手育成の最前線確認(3) へ続く
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