【農業協同組合研究会 報告】都市に農地残し次世代につなげる基本法に JA東京青壮年組織協議会顧問 須藤金一氏2023年4月27日
農業協同組合研究会が「JA・農業者は食料安保確立をめざす基本法見直しにどう向き合うべきか」をテーマに開いた2023年度研究大会。今回は4つの報告のうち、JA東京青壮年組織協議会顧問の須藤金一氏の報告「都市農業生産者は基本法見直しをこうみる」を紹介する。
JA東京青壮年組織協議会顧問 須藤金一氏
300年続く農家で生まれ 父の農地相続時に意思確認
東京都三鷹市で、300年以上続く農家の14代目として生まれ、高校3年のときに父親から農業を継ぐ意思を確認された。なぜかというと祖父が亡くなって多額の相続税がかかり、農地の相続で相続性納税猶予制度を利用するには父親が終身農業を続けなければいけなかった。ただ、死ぬ直前まで農業をやれるかは分からないので、私が農業を継ぐなら制度を利用するということだった。大学卒業後、都市銀行で働いてから就農し、初めて東京農業の現状を目の当たりにした。
東京の農地面積は6720㌶で全国からみるとわずかで、農業産出額も234億円で最下位だが、何とか頑張ってこの額を出している。私の住む三鷹市では学校給食に力を入れていて、地場産率が約20%まできれ、今30%を目指して取り組んでいる。栄養士の先生に聞くと、地場産農産物の使用率が高い日ほど食べ残しが少ないという。彼らが大人になったときにしっかり国産のものを選んでくれるように育てていくのも農業者の役割、またはJAグループの役割かなと思っている。
盟友たちの農政運動で市街化区域の農地を守る
東京は1968年に、新都市計画法で市街化区域と市街化調整区域と区分けされた。市街化区域とはおおむね10年以内に市街化を図る地域で、農地は宅地並みに課税すると。それではたまったものではない、先祖から守ってきた農地を簡単に手放せないとJAグループや当時の青年壮年部、青年部の盟友たちが力を合わせて農政運動を展開し、何とか今、市街化された中でも農地が残っている。
生産緑地制度というものがあって東京の大部分の農地が指定されているが、指定されないと23区では固定資産税だけで10a112万円もかかってくる。とてもそんな売り上げすら上がらないと農政運動を展開して10a3800円まで負担を下げていただいた。
われわれ東京の若手農家は、いかに都民の方々に農地があり、東京に農業があることの必要性を訴えるPR活動を展開し、それがいろいろな法改正に繋がってきた。2015年には都市農業振興基本法という法律ができた。約50年前の新都市計画法では、市街化区域に農地はいらないと言われてきた都市農業の方向が180度変わり、都市にも農地はあるべきと明確にうたわれた。
この法律ができたとき、汗を流してくれた国会議員の先生方から「本当に良かったですね。ただ、勘違いしないでください。これは農家のためではなく国民が必要だからこそできた法律です。皆さんに農地の持つ多面的機能をしっかり発揮してもらうことが大事です」と言われた。このとき、これは農家のためだけではなく国民のためなんだと痛感したのを覚えている。
東京農業の多面的機能の評価額は2500億円
東京農業の多面的な機能の評価額は年間で約2500億円と換算されている。農産物の提供は一番大事だが、ヒートアイランド現象に対応する環境保全や3.11のときは農地に逃げ込む市民がいたと先輩から聞いた。また、実はきょう、親子連れの人たちが参加するタケノコ掘り体験を開いてきたが、こうした農業体験や出前授業などの食育活動も幅広く展開している。
しかし、東京の農地は毎年100㌶ずつ減少している。100㌶というとほぼ皇居と同じ位の農地が毎年減っていることになり、単純計算すると残り半世紀もつかもたないかといったところだ。高齢化やなり手不足は当然あるが、相続が発生すると農地を切り売りして納税しなければ払えないことになる。
基本法に都市農地の税制面優遇措置を
そこを何とかしなければいけないのが東京農業の大きな課題だ。実は食料・農業・農村基本法36条の2に、都市農業について、「消費地に近い特徴を生かし、都市住民の必要に即した農業生産の振興を図るために必要な施策を講ずるものとする」ととの文言があり、これがあったからこそ都市農業振興基本法もできたと言っても過言ではないが、さらに踏み込まないと農地の減少は止まりない。。
そこで食料・農業・農村基本法の見直しでは、都市に農地を残し続けるためにぜひ税制面での措置を講ずるよう明記していただきたい。
われわれも多面的な機能を発揮するためにいくらでも全力を尽くす。ただ、この税制面はどうしようもできないので、ぜひ次の世代やその次の世代と、東京の農業、そして日本農業を守っていくためにもこの基本法の見直しが素晴らしいものであってほしいと期待している。
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