協同の力でケアネット 大場 英美・神奈川県福祉クラブ生協理事長 全中オンラインJA経営者セミナー2023年6月21日
オンラインによるJA経営者トップセミナーを実施しているJA全中は6月8日、今年度第2回目のセミナーを開いた。政治・経済・社会の変化の底流に何があるかを学ぶとともに、地域と共に発展するためJA経営者にはどのような経営ビジョンが求められるかを探るセミナー。今回は神奈川県福祉クラブ生協の大場英美理事長が、組合員自ら働く労働者協同組合(=労協・ワーカーズコレクティブ)によって幅広く展開する福祉事業について報告した。
神奈川県福祉クラブ生協理事長 大場英美氏
セミナーではJA全中の菅野孝志副会長が、「協同組合は一人ひとりが自分や地域の課題に向き合い、解決する組織だが、大きくなるとできないこともある。JAは一昨年のJA全国大会で、多くの人の力を集め、活力ある地域づくりに努めることを打ち出した。JAはそのコーディネート役を果たさなければならない」と指摘。この点でJAとワーカーズコレクティブとの共通性を強調した。
初の福祉専門生協
セミナーで報告した神奈川県福祉クラブ生協は、34年前の1989(昭和64)年、横浜市で日本初の福祉専門生協として発足した。生協本来の共同購入と福祉を一体化した生協で、組合員とワーカーズと職員でつくられた。
少子高齢化社会、公的な福祉サービスの限界、地域コミュニティーの崩壊を予測し、そこから発生するさまざまな課題を「他人(ひと)任せにせず、協同の力によって、自分たちで解決しようという思いで設立した」と大場理事長は設立の動機を説明する。
現在(2020年)の組合員は世帯数で1万6518、構成するワーカーズコレクティブは16業種、118団体あり3101人のワーカーズが働く。活動エリアは27自治体行政区におよび、総事業高は約43・4億円。うち共同購入が6割強の約27・4億円と大半を占め、次いで福祉9・7億円、施設運営5・6億円となっている。
事業高でも分かるように同生協のメインは生活用品の配達業務にある。大場理事長は「配達こそ福祉」と言い切る。つまり、だれもが利用できる生協の共同購入を通じて多くの組合員の声(ニーズ)を聞き、それをみんなで実現する。その窓口になっているのが配達する人、世話焼きワーカーズであり、同生協ではそうした活動するワーカーズを「ポイント」と呼ぶ。
週1回の配達で福祉クラブ生協が取り組むさまざまな「たすけあい」活動の情報を一緒に発信する。困ったことをワーカーズコレクティブにつなぐ「目」となり、人と人をつなぐ「絆」となっている。当然ながら配達は同時に高齢者などの健康や生活状況の様子をうかがう「見守り」の役割も果たす。
市民参加型の福祉へ
同生協は「コミオプ(コミュニティーオプティマム)サービス」を基本に据える。目指すは「市民参加型でつくる地域最適福祉」の実現であり、ボランティアなどによる掃除・食事づくりなどの家事支援、生活支援、さらに高齢者の入居やケア施設などを運営し、その人にとって最適な福祉を実現する。訪問介護、障がい者の総合支援など、行政の支援を得て行っている活動を含め、「市民参加型の福祉」を視野に入れる。
このように神奈川県福祉クラブ生協が取り組んでいる事業は幅広い。「介護や子育て相談など必要なサービスの紹介、住み慣れた地域で安心して暮らせる地域づくり。それが福祉クラブ生協の目指す地域の生活ケアネットワークづくり」だと、大場理事長は強調する。
また、「サービスの料金はできるだけ安く抑えている。ワーカーズの手取りも十分ではないが、やがて誰もが利用することになるサービス。その理解を得る〝共育〟を大事にしている」という。
なお、同生協では、今後、一層進むと予想される少子化や生産年齢人口の減少、貧困・格差社会の進行を見越し、5カ年計画で、①若い世代を含めた多世代とのネットワーク形成②多世代共生型の子ども食堂③多世代型の学習支援④みらい子ども育てサポート基金――などに取り組んでいる
小さな協同 JAと一致
北川太一・摂南大学教授の話
昨年10月施行の労働者協同組合法(労協法)は、第一条の「目的」に、「組合員が出資し、それぞれの意見を反映して組合の事業が行われ、組合員自らが事業に従事することを基本原理」とし、「多様な就労の機会の創出を促進するとともに、当該組織を通じて地域における多様な需要に応じた事業が行われることを促進し、もって持続可能で活力ある地域社会の実現に資する」としている。
労協法は1978年施行の森林組合法以来の協同組合の法律で、その意義は大きい。特に第一条に示した多様な事業を行う「共益」とともに持続可能な活力ある地域社会の実現という「公益」をうたっているところがポイント。これは協同組合原則の第7条の「地域社会への配慮」、つまり地域社会に根差した組織であることと共通する。
JAは農村地域で小さな協同活動に取り組んできた。かつての小学校区で地産地消や集落営農、JA女性部の起業や助け合い組織によるミニデイサービスなどが生まれたが、こうした小さな協同活動はワーカーズコレクティブの組織と一致するところが多い。
地域共生社会の実現には共益プラス公益の両方が必要。労協法第一条をきちんと受け止めるべきだ。今日、協同組合間連携の必要性が指摘されているが、ワーカーズコレクティブがそのきっかけとなって、プラットホームの役割を果たしてほしい。協同組合完結型から公益・共益のマルチホルダー型へ、地域における共同組織づくりの機運が出ているのではないか。
JAにできることはなにか。それぞれ地域ごとに考えて、協同組合間の連携を追求すべきだ。JAの部会組織・女性組織も、集落組織もそう。JAにとってワーカーズコレクティブと共通する組織は身近にあるが、JAはそれをうまく生かしていないのではないか。再構築する必要がある。そこにJAのアイデンティティーを求めたい。
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