【農業協同組合研究会】どうなる どうする基本法改正 第1回研究会開催2023年9月4日
農業協同組合研究会は9月2日、東京都内で「どうなる どうする基本法改正-『食料・農業農村政策の新たな展開方向』をめぐって」をテーマに2023年度第1回の研究会を開いた。オンライン参加を含め90人が参加した。
パネリストの皆さんと司会の普天間会長(左)
農水省は昨年9月から農政審基本法検証部会の場で基本法見直しの議論を開始、審議会は今月中旬に最終答申を行う。ほぼ1年間議論してきたことになるが、農協研究会会長の谷口信和会長(東大名誉教授)は「これほど重大な議論の割に国民的議論は盛り上がっていないのではないか」と指摘、研究会参加者に向け「多くの方からの意見と真摯な議論ができることを期待したい」とあいさつした。研究会の司会はJAおきなわ中央会・普天間朝重会長が務めた。
農水省の杉中淳総括審議官は基本法見直しの背景を説明、世界人口の増加と気候危機による食料生産の不安定化に加えて、日本の経済的地位が下がり「いつでも安く好きなだけ食料を変える時代は終わっている」なかで、食料を十分に手にすることが難しくなっている国民も存在、一方、デフレが長引き生産コストが上がっても食料価格に転嫁できないまま、農業者数は急速に減少している現状や、今後は世界から持続可能な農業が求められているなどの課題を指摘した。
そのうえで見直しの方向として、食料安全保障の定義を「国民一人一人の食料安全保障の確立」とすることや、適正な価格形成の仕組みの構築、環境に配慮した持続可能な農業への転換、離農する農地の受け皿となる経営体とスマート農業の普及などと説明した。
自給率目標については「輸入リスクが増えているなか引き続き重要と位置づけている」としながらも、輸入依存度の高い麦・大豆の国産への転換や、国内資源の活用による肥料の海外依存の低下といった政策を評価できる指標づくりも検討していく考えも示した。
JAぎふの岩佐哲司組合長は審議会の中間とりまとめについて「食料安全保障に力点が置かれ地域政策が後退したのではないか」と指摘、「ここを埋めるのが現場力」だとして同JAの実践を報告した。
部会を中心とした大量生産型市場出荷を継続しながらも、地域の消費者にニーズに基づき有機農業を実践する若手農業者や定年帰農者などを組織して、地消地産で「農業者と消費者が食と農を基軸としてお互いが尊重しあえる地域づくりをめざす」として、組合員と地域住民の協同活動への参画を進めるため「対話の強化」が重要だと強調した。
日本生協連の二村睦子常務は基本法見直しに向けた生協の意見を報告した。食料品の価格は消費者としては安いほうがいいが、コストが上がっていることは理解しており、生協内部で議論となったのが「すべてを価格転嫁しては国産を買わなくなる、買えなくなるのではないか」という点であり、意見書では「財政支出に基づく生産者への直接支払い等を通じ、国内農業生産の強化や再生産への配慮と、消費者の食料アクセスに配慮した価格とのバランスを図ること」を求めた。
また、持続可能な農業のために必要なコストは、価格転嫁だけではなく、炭素税のような税や補助金、排出権取引、公共調達などさまざまな政策手段を整備することを求めた。
二村常務は「国産牛を食べても(カロリー)自給率は上がらないことなど消費者には難しく情報を伝えることの難しさや消費者が多様化していることなど課題も指摘、食と農について正しい情報に基づく議論が必要だと指摘した。
研究会会長の谷口信和東大名誉教授は基本法見直しのあるべき姿について報告した。
新たな基本法は「みどり戦略」を土台とし、食料自給率向上がCО2削減の最大の方法なるととして総合食料自給率の向上に本格的に取り組むことを「改めて宣言すべき」と指摘した。また、食料安保には「国民全体の意識改革が不可欠」であり、川上から川下までの国民的大運動の必要性も強調する。
農業の担い手には副業的な農業経営や自給的農家も「自給率向上の有力な主体であること」、適正な価格形成は必要だが、「コストの価格転嫁の前に直接支払いにいよる所得補償を実現すべき」など政策を提唱した。また、施策目標の実現と情勢変化に応じた見直しを進めるため、基本法はもちろんだが、基本計画と白書も国会でのチェック対象として、基本計画には予算事項も盛り込むべきなどと強調した。
報告の後、パネリストによるディスカッション、参加者との意見交換が行われた。(順次掲載していきます)。
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