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新しい若者の生き方と地域づくり 農村漁村で躍動する新しい若者たち 指出一正ソトコト編集長 全中オンラインJA経営者セミナー2023年9月26日

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JA全中は9月15日、今年度3回目 のJA経営者トップセミナーをオンラインで開いた。今回は、「スローライフ」、「関係人口」、「SDGs」といったキーワードで社会の新しいあり方を発信する雑誌「ソトコト」の指出一正編集長が講義を行い、地方に根を張り、元気な地域づくりに奔走する若者たちの取り組みを紹介した。

指出一正 ソトコト編集長指出一正 ソトコト編集長

首都圏の若者を「田辺の親戚」に

ソトコト編集長の指出一正氏は、過疎化が進む農村漁村の担い手として「新しい仲間が定期的に訪れる「関係人口」への期待がある」と話す。

総務省によれば、「関係人口」とは「移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々」を指す。地域に強い愛着を持ち、住んでいる地域が遠くても、その地域に住んでいる人やモノとの交流があり、頻繁に地域に訪れている人だ。
指出氏は「関係人口」という言葉の考案者の一人とされ、近年ではメディアにとどまらず、人材育成や国の政策形成などにも携わっている。

関係人口を増やすために指出氏が取り組んでいるのが、 和歌山県田辺市の「たなコトアカデミー」。2017年に同市の真砂充敏市長の依頼で立ち上げた。地域に関わることを楽しみたい首都圏の若者に向けた講座で、カリキュラムには現地の農作業などの「お手伝い」が含まれる。田辺市を初めて訪れる受講生は同市の主要産業 を通し、第1次産業や自然と触れ合う中で、地域との関わりを自ら考えるようになるという。

講座は定期的に開催されるが、講座がなくても訪れて収穫などを手伝う人が現れるようになった。「田辺に親戚ができたみたい」と話す受講生もおり、指出氏は「地域に積極的に関わることで、帰省するような感覚が生まれたのでは」と分析する。

地域を東京で紹介するアイディアも生まれた。受講生が東京・青山で開催される「青山ファーマーズマーケット」で、田辺市の産物を並べたところ、当初は赤字だったが、陳列方法やDXなどを研究して 黒字化を実現するなど、関係人口の活躍の場が広がっているという。

若い漁師が関係づくり

地元の若者が自ら関係人口を増やそうとする取り組みもある。北海道の利尻島には、2017年に発足した「NORTH FLAGGERS」という若い漁師の集団がある。海産物のブランド化など、利尻島の漁業全体の底上げに力を入れるために立ち上げた。

利尻島では「一人親方」が多く、個人でボートを操りウニ漁などを行うスタイルが一般的だった。これまでは人より多く獲れるかを仲間うちで競い合ってきたが、「NORTH FLAGGERS」として組織化し、全体を良い方向に導く取り組みに力を入れている。近年の若者は個人よりも「利他性」をもった社会づくりに興味をもつ傾向がある、と指出氏は言う。

利尻島は、九州の奄美群島南西部に位置する沖永良部島と繁忙期と閑散期で関係人口の労働力を3年前から「シェア」している。利尻島の昆布漁の最盛期に集まった人は、閑散期になると、沖永良部島でサトウキビの収穫を手伝っているという。南北の2島を行き来する若者の中には、地域に根付く人も現れ、関係人口の応用編として注目すべき事例と言える。

地域を慕う若者の4つの共通点

こうした事例を踏まえ、指出氏は「地域で躍動する若者には、次に掲げる4つの共通点がある」と指摘する。

①"関わりしろ"
「関わりしろ」とは、積極的に関わったり 、作業をする余地が残されたりしている状態のこと。若者たちはその土地で客人としてもてなされるよりも、「何かやりたいな」「何かやっても許されるな」という気持ちになって積極的にかかわることを望んでおり、農村漁村にはその余地が残されていると感じている。若者たちがさまざまな場所を訪れている最大の理由になっている。

②ご機嫌な状態
若者が地域で実感しているのは「ウェルビーイング(well-being )」である。身体的、精神的、社会的に幸せな状態と訳されるが、くだけた表現に置き換えれば「ご機嫌な状態」。農村漁村を目指す若者たちは、そこにいる自分に「ご機嫌な状態」を発見しており、その場所で過ごすことで多幸感に包まれ、その場所に愛着をもって接している。

③中長期的な幸せ
景品が当たった、などの短期的な幸せを指す「ハッピー」と異なり、「ウェルビーイング」は中長期的な「幸せ」であり、「この場所に来るとなぜか落ち着く」などに例えられる。一足飛びで移住者の人口を増やすことが短期的な幸せとすると、時間をかけてお互いを知り合い、地域への関わりを深めていく長いステップには「関係人口」が必要で、「農村漁村」には、若者がひかれる中長期的な幸せを感じやすい。

④「ここにいる」安心感
都市部では、家以外の場所で「長く居る」ことを許されない設計になっている場所が多い一方、農山漁村では、中山間地域のほとんど車が来ないような場所で、そよ風や川のせせらぎを聞いていてもとがめられることはまずない。農業や漁業、林業といった地域でのなりわいの中に、若者は「ここにいる」安心感を見つけられる。

北川太一・摂南大学教授の話

JAは「関係人口」の宝庫

コメンテーターとして参加した摂南大学の北川太一教授は、講義の内容をJAとしてどう生かしていくべきか研究者の視点で次のように話す。

大学で協同組合論を教える立場から、学生に「協同組合」にどういうイメージを持つか、と問うと、「そもそもよくわからない」という回答が圧倒的に多かった。一方、少数ではあるが、農業を営む人が近親にいたなどの理由からJAの存在が近く、「農協で買い物をした」、「JA主催のお祭りに参加した」などの実体験に基づき、「身近に感じている」という好意的な回答もあった。

この実体験が重要で、現場で働くJA職員の姿を見せることで、若者を取り込み、「関係人口」を作りやその機会づくりになるのではないかと考える。

「関係人口」を生み出す要素は、有形のものでは休耕田や遊休地、無形のものでは伝統のお祭りなどがある。これらを把握・運営する立場にあるJAは、「関係人口」や、その機会を作る宝庫だ。

「関係人口」は、組織基盤の強化や組合員拡大を実現させるためにJAとしても重要だ。「ファン」や「共感」という視点で、JAの根幹である「協同組合」に共鳴し、若者を広く受け止められるのではないだろうか。

次回のオンラインJA経営者セミナーは10月12日、東大名誉教授・御厨貴氏の「戦後保守政治の系譜ー農業協同組合と保守ー」を開催予定。

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