新たな発想で「危機」乗り越え 全農酪農経営体験発表会2023年12月5日
JA全農は11月30日、東京都内で全農酪農経営体験発表会を開いた。飼料価格の暴騰、子牛価格の下落などで現在、日本の酪農は未曾有の危機に直面している。全国各地の酪農家、畜産関係者ら500人超が参加し、この危機を乗り越えるため、さまざまな挑戦を試みている事例発表があり、参加者を元気づけた。併せて第17回全農学生「酪農の夢」コンクール最優秀作品の発表、表彰を行った。
酪農体験発表は、酪農全般に関する優良な取り組みを広く関係者に紹介し、酪農家および酪農業界の発展に資することを目的とする。今回で41回目となり。五つの取り組み事例の発表があった。以下、要旨を紹介する
家畜管理システムを構築
【JAひがし宗谷営農部(北海道) 石黒敦さん】
JAひがし宗谷は酪農を主産業とするJAで、放牧やつなぎ牛舎、フリーストール牛舎、複数戸法人など多様な経営形態で酪農の基盤を維持している。特に六つのTMR(完全飼料)供給センターを備え、草地管理および飼料供給の効率化を進めている。
また、早くから酪農データ活用による生産性向上と経営の効率化に力を入れており、1975(昭和50)年には乳牛検定事業に取り組み、情報の集約化に着手。99年には全頭に個体識別番号をつけて管理するためのデータ共通化を進めた。
さらに個体識別情報をキーとしてクラウド化し、酪農の一元管理を実現。家畜などの状況を把握することで、適切な経営アドバイスができる家畜統合管理システムを構築し、受胎率を年々向させるなどの成果をあげている。酪農はまさに情報産業だと思う。
認知度高めヘルパー確保
【全農岩手県本部畜産酪農部 奥平真生さん・岩手県葛巻町酪農ヘルパー利用組合 木戸場真紀子さん】
ゆとりある酪農経営の実現に酪農ヘルパーの存在は不可欠。岩手県の酪農ヘルパーは65人だが、深刻な人材不足対策として、認知度の向上に務めている。ホームページの作成、県統一つなぎの製作、SNS・WEB広告の配信など、さまざまな挑戦をしている。
なかでも葛巻町酪農ヘルパー利用組合は、県全体の取り組みであるテレビCM制作や取材対応などのほか、参加することで酪農を全身で理解できるインターシップに力を入れている。希望者は年々増えるなど成果が出ているが、全国一体となった取り組みが必要だ。
地域酪農を支える預託牧場
【宮崎県酪農公社 今井弘高さん・上原牧場 上原和博さん】
宮崎県酪農公社は宮崎県、都城市、宮崎県経済連出資の預託牧場を運営し、乳用牛、肉用牛約900頭を飼養。約50haの農地で自給飼料を年間約1000t収穫し、TMR飼料を設計している。
乳用牛で事故が発生した場合、代替牛を受け取る仕組みがある。乳量を維持するため月齢が近い経産牛を生産者に供給する。また事故が起きた時のための共済金もある。
上原牧場は、公社の預託事業を利用することで、繁殖や飼養管理に関わる時間を削減。優良和牛の飼育に使う時間を削減するほか、牛舎の新規確保が不要など、経営上のメリットを享受している。
第三者継承で新規参入
【リトルリバーファーム 小川翔吾さん・神奈川県畜産技術センター普及指導課長 仲澤慶紀さん】
秦野市の酪農家の経営を、第3者継承で引き継ぎ、酪農に新規参入した。神奈川県では事例がなかったので、畜産技術センターが中心になって秦野市や同市の都市農業支援センター、農業委員会、日本政策金融公庫で継承会議を設けて取り組んだ。
畜産技術センターが継承希望者と譲渡希望者それぞれの意向、スケジュールを調整した。技術習得計画の作成や、資産評価・売買契約などで支援し、54頭の規模の酪農の引き継ぎを実現した。
秦野市で新規参入できた仕組みをJAや飼料メーカーも含めた形で、県下全域で対応可能な仕組みがをつくってほしい。また、農業高校生などの研修を受け入れ、職業選択の一つとして酪農を視野に入れるきっかけづくりをしたいと考えている。
牧歌的酪農求め新規参入
【ダムの見える牧場(島根県) 大石亘太さん】
広々とした牧草地に牛が草を食む牧場を夢見て就農。パスチャライズ牛乳(生乳の風味や栄養を生かす温度で殺菌された牛乳)を全国に販売する地元の乳業メーカーの全面的な支援を得て、離農する農家から搾乳牛20頭を購入してスタートした。
現在、搾乳牛28頭、育成牛10頭だが、家族生活と頭数のバランスを考え、規模は、夜7時には家族団らんできるくらいでよいと考えている。目指すは「牧歌的な酪農」で、子どもたちに牛乳っていいな、酪農っていいなと感じてもらいたい牧場をめざす。
このため農村文化体験、食育と教育のファームとして保育園や幼稚園、小学校などの校外学習・遠足の場としたい。近くのダムを含め、「そこにあってよかった」と思ってもらえる観光施設を目指す。
◇
「酪農の夢」コンクール表彰
また「酪農の夢」コンクールは高校生や大学生が酪農にかける夢を語ることで日本の酪農に新たな息吹と活力を生み出す一翼を担ってもらおうという目的で実施。最優秀、優秀、優良の各賞で9人を表彰した。受賞者は以下の通り。
▽最優秀賞=半田花楓(静岡県立藤枝北高校)
▽優秀賞=本部琴海(公益財団法人中国四国酪農大学校)、小泉天花(北海道剣淵高校)、和田蓮音(栃木県立那須拓陽高校)
▽優良賞=海上晴香(岩手大学)、斉藤愛奈(日本獣医生命学大学)、松本郁馬(愛知県立農業大学校)、蔦田里桜(神奈川県立相原高校)、鈴木菜々美(静岡県立田方農業高校)
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(133)-改正食料・農業・農村基本法(19)-2025年3月15日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(50)【防除学習帖】第289回2025年3月15日
-
農薬の正しい使い方(23)【今さら聞けない営農情報】第289回2025年3月15日
-
イタリア旅行の穴場【イタリア通信】2025年3月15日
-
政府備蓄米 初回9割落札 60kg2万1217円 3月末にも店頭へ2025年3月14日
-
【人事異動】JA全共連(4月1日付)2025年3月14日
-
【人事異動】JA全中(4月1日付)2025年3月14日
-
(426)「豆腐バー」の教訓【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年3月14日
-
実需者と結びつきある飼料用米 支援継続を 日本農業法人協会2025年3月14日
-
オホーツクの恵み 完熟カボチャからフレークとパウダー JAサロマ2025年3月14日
-
日本一の産地の玉ねぎがせんべいに 産地の想い届ける一品 JAきたみらい(北海道)2025年3月14日
-
みおしずくがクッキーに 日野菜漬はふりかけに JAグリーン近江(滋賀県)2025年3月14日
-
地域の歴史受け継ぎ名峰・富士の恵み味わう かがり火大月みそ JAクレイン(山梨県)2025年3月14日
-
【人事異動】JA全厚連(4月1日付)2025年3月14日
-
高まるバイオスティミュラント普及への期待 生産者への広報活動を強化 日本バイオスティミュラント協議会2025年3月14日
-
岩手県大船渡市大規模火災での共済金手続きを簡素化 JA共済連2025年3月14日
-
【浅野純次・読書の楽しみ】第107回2025年3月14日
-
3月14日は「蚕糸の日」 大日本蚕糸会2025年3月14日
-
種苗・農産物輸出の拡大に向けた植物検疫のボトルネック解消「農研植物病院」へ出資 アグリビジネス投資育成2025年3月14日
-
【役員人事】農中信託銀行(4月1日付)2025年3月14日