茨城県JA常陸が子ども食堂を開設 食農教育にも一役「農協の存在を身近に」2024年4月17日
茨城県のJA常陸(秋山豊組合長)は4月13日、那珂市瓜連にある「ふれあいプラザ瓜連」の一角に「子ども食堂(スワン食堂)」を開設した。
小学生や親子連れなど50人以上が来店した
同プラザは旧瓜連支店の事務所だったところで、プラザ内にある旧瓜連町農協のAコープ店跡を改装し、保健所の許可を取って食堂とした。当日は近くの小学生や親子連れの家族でにぎわい、50人以上が来店した。この日のメニューはカレーライスと野菜サラダ、ゼリーなどで、早くも午後12時半には売り切れとなった。カレーライスを口にした子どもたちは「おいしい。友達を連れてまた来たい」とうれしい表情を見せる。
同農協では5年前から、子どもたちに農協を知ってもらい、身近に感じてもらおうと「子ども食堂」を開く準備を進めていたが、コロナ禍で地区内の小学校の了解を得られず、農協女性部のメンバーを中心に「レインボーサロン」を立ち上げ、準備を進めてきた。月に1回、メニューの開発をし、郷土料理などで腕を磨いてきたが、最近では毎回30人近くが参加し、そば打ちや豆腐、コンニャクづくりなど、地元の素材を使い、季節に合わせたメニューはおいしいと、仲間内でも評判がよかった。
茨城県内では、農協が各種の子ども食堂に食材を提供してきた事例はあるが、農協自体が運営主体となったケースは初めてだ。全国でも農協直営の子ども食堂は多くはない。「全国共済農協連(全共連)」の地域貢献活動の支援も受けている。
農協がどうして子ども食堂に取り組むのかについて、秋山組合長は「次世代の子どもたちに農協の存在を知ってもらう方法として子ども食堂を開くことを考えついた」と話す。
「ふれあいプラザ瓜連」の萩野谷一成店長は、「当面、月に1回開くが、回数を増やしたい。子どもたちにも料理づくりに参加してもらったり、近くの畑を借りて有機野菜を栽培し、食材に使ったりすることなども考えていきたい。さらに、周辺の高校生や大学生の力を借り、学習支援にも取り組んでいき、名前の通りふれあいプラザにしていきたい」と、今後の抱負を語っている。
子ども食堂は、2012年に東京都大田区の「きまぐれ八百屋だんだん」というところで始めたのが全国初。その後、子どもや保護者、地域住民に無料または安価で「栄養のある食事・温かな団らん」を提供するための社会運動になり、テレビや新聞雑誌など多くのメディアから注目を集め、瞬く間に子ども食堂が全国に広がっていった。
NPO法人全国こども食堂支援センター「むすびえ」の調査によると、子ども食堂は2018年以降毎年1000か所以上増え続け、昨年10月現在で全国に9132カ所あり、利用者は推計で大人と子どもで延べ1584万人、うち子どもは1091万人に達した。同年度の公立中学校の生徒数とほぼ同じになる。都道府県別では、最多は東京都の1010カ所で、大阪府、兵庫県と続く。茨城県内の子ども食堂は今年2月現在で187カ所あり、水戸市、つくば市、日立市、土浦市など、やはり都市部に多い。
子ども食堂は子どもの貧困対策というイメージが先行していたが、最近は食育推進や子育て支援、世代間交流、地域活性化など、地域の特性に合った様々な活動が取り組まれている。食は命の源であるだけでなく、一緒に食べることで、生きる喜びを分かち合うことにもなる魅力がある。
「むすびえ」によると、子ども食堂は、月に1回開催のところから365日3食を提供しているところまであり、人数も、数人から毎回数百人集まるところまで様々だ。目的も、おなかをすかせた子どもへの食事提供から、孤食の解消、滋味豊かな食材による食育、地域交流の場づくりへと広がっている。2015年には、子ども食堂同士で横のつながりを作り、食材や情報を連携することを目的にした「こども食堂ネットワーク」が発足し、北海道から九州まで、多くの食堂が参加している。
全国の子ども食堂や農協による子ども食堂の動向について研究を進めてきたJA共済研究所の福田いずみ主任研究員は、農協と子ども食堂の最近の動きとして「単なる食材の提供から、農協の直売所から食材を提供する。女性部や青壮年部、農協職員が野菜を栽培して子ども食堂に提供する。農協の遊休施設を貸し出す。女性部員が調理ボランティアとして支援するなど多様化している」と報告している(『共済総研レポート』No.181、2022)。
(本紙客員編集委員 先﨑千尋)
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