選挙は「動員力」 公益に強い共感 中北浩爾・中央大学教授【全中教育部・オンラインJAアカデミー】2024年5月31日
JA全中教育部は5月23日、オンラインJAアカデミーを開いた。政治・経済・社会各界の専門家の講演やJA内外の経営者の報告を柱にJA・連合会の役職員がJAの将来ビジョンを考える機会にするもので、今年度5回開催する。第1回は「農業団体と政治活動」について、中北浩爾・中央大学法学部教授が話した。要旨を紹介する。
中北浩爾・中央大学法学部教授
中北教授は、「投票率の低下は、政党やその支持団体の動員効果の減退が大きく、それは無党派層の増大を意味し、女性や若者の投票率が低い一因も組織に深く組み込まれていないためだ」と、団体・組織が人々を動員して共通の利益を実現することの重要性を強調した。(以下要旨)
協同組合は、利潤を追求せず、組合員の民主的な参画を大切にした組織である。出資金の額に関わらず、一人一票の議決権を持っており、株主の利益を優先し、一株一票の株式会社にはない特徴である。
その目的は「地域の農業を振興し、わが国の食と緑と水を守ろう」「環境・文化・福祉への貢献を通じて安心して暮らせる豊かな地域社会を実現しよう」などと、「JA綱領」の中に明確にうたわれている。
しかし、農協・農業への"逆風"が強まっている。背景には自由貿易主義の拡大があり、国内の農業でも、減反や「種子法」の廃止、生乳流通改革など生産・流通の合理化を進めるとともに、農協改革にも手を付けた。
政治構造が変わる
その間、政治構造が変化し、官邸主導の政治が支配的になった。この結果、政策決定のトップダウン化が進み、省庁や族議員の影響力が低下した。そのため、首相官邸に政策決定の中心が移り、その下の規制改革推進会議や産業競争力会議などの政策会議の影響力が強まった。
選挙に勝てば政権がトップダウンで政策を決定できる構造ができ、それだけ選挙を考慮して、首相官邸は世論の動向に敏感になった。とりわけ衆議院の小選挙区や参議院の一人区のカギを握るのは無党派層になった。政府への働きかけ以上に、選挙運動や世論対策を積極的に行う必要が高まった。
その結果、官邸主導による新自由主義的改革の手法が生まれた。小泉純一郎政権による郵政民営化は、「既得権を持つ集団(抵抗勢力)vs一般の国民(改革勢力)」という国民に分かりやすい図式を示し、当時、自民党最大の友好団体であった「全特」(全国郵便局長会)を敵に回してでも民営化を達成した。
これは反エリート主義のポピュリズムの政治手法であり、第2次安倍政権の農協改革も同じ手法で「農協組織(役職員)vs一般組合員」、「全中vs地域農協」という図式を前面に出した。幅広い国民の利益を特定の団体が阻害しているというプロパガンダが受けた。
幅広い「公益」前面に
では、国民の共感を得るためJAグループはどのような運動を展開すべきか。狭い自己利益だけにとらわれず、JAグループが一丸となって幅広い「公益」の担い手であることをアピールすることが大切である。特に農業・農村については、国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全、景観の提供、文化の伝承など、その多様な機能について、国民の共感は強い。
それだけに共通の利益を実現するには、団体・組織が人々を動員する必要がある。選挙の1票は無力でも、100票で市区町村議選、1000票で都道府県議選、1万票で国政選挙の結果を左右できる。束になった票は力になるが、票はばらばらで固まっていない。そこでJAなどの組織票が力になる。
「対面」の原点重視
SNS万能とみられているなかで、国民の過半は政治・選挙の情報をテレビから得ている。特に中高年層はこの傾向が強い。さらに「対面」、直接のビラ渡しの回数が選挙結果に与える影響が大きいことが明らかになっている。「人と人」の意思疎通という「原点」を大事にすべきである。
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