新刊『農協が日本人の"食と命"を守り続ける!』2024年8月5日
「安全・安心に賭ける人々の物語」を副題としたこの書は、食と農を守る農業協同組合の役職員の姿を描いているが、協同組合とは何か、そして何が農協組織を狙っているのか、株式会社とどこが違うのか、改めて考えさせられる書である。
著者はJA全農の元常務理事の久保田治己氏。取り上げたのは、兵庫県のJAたじまの「コウノトリ育むお米」の取り組みや、新型コロナウイルス感染症患者をいち早く受け入れた全国の厚生連病院、本土復帰前の沖縄の農協改革、生活クラブ生協と全農によるNОN-GМトウモロコシの取り扱いとIPハンドリングの実施など、小紙も取り上げたテーマも多い。
とくに沖縄の農協改革の問題点については、故普天間朝重前JA沖縄中央会会長が「キャラウエイ旋風」と出して小紙に寄稿したことを本書で紹介し、本書で著者はさらに問題の本質に探る。
当時のキャラウェイ高等弁務官による信用事業や経済事業叩きを整理し、10年前の農協改革と同じ理屈が当時展開されていたことを改めて指摘しているだけでなく、実は米国ではなく日本の財界による農協潰しだったという面を資料等の調査から浮き彫りにしている。
それぞれの章で通底しているのは農協が食と農、そして文化、金融を含む地域経済を一体として支えているという姿。内外の資本がその解体を狙うのが農協批判であり農協改革だというのが著者のスタンスだ。
最終章の「全農「株式会社化」の謀略」では、著者自身が長年携わってきた飼料原料分野でのカナダや豪州の農協が株式会社化していく過程とその影響が詳細に記述されているが、まさに当事者ならではの情報と分析だ。日本の官僚が全農をはじめ農協組織を株式会社化しようとする狙いと当時の生のやり取りなども綴られる。
最終的に強調されるのは協同組合と株式会社の違い。「協同組合に長年奉職している人でも、ほとんど理解していない」と指摘する。
「あとがき」で執筆の目的を「日本人の、日本人による、日本人のための」組織である農協組織の役職員に「もっと元気を出してもらいたい」と強調する。
この書を通じて、消費者をはじめこの国のあり方に疑問を持つ人々にも、農協とは何か、協同組合とはどんな役割を持つのか広く知ってもらいたい。
ビジネス社刊 定価1980円
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(138)-改正食料・農業・農村基本法(24)-2025年4月19日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践(55)【防除学習帖】第294回2025年4月19日
-
農薬の正しい使い方(28)【今さら聞けない営農情報】第294回2025年4月19日
-
若者たちのスタートアップ農園 "The Circle(ザ・サークル)"【イタリア通信】2025年4月19日
-
【特殊報】コムギ縞萎縮病 県内で数十年ぶりに確認 愛知県2025年4月18日
-
3月の米相対取引価格2万5876円 備蓄米放出で前月比609円下がる 小売価格への反映どこまで2025年4月18日
-
地方卸にも備蓄米届くよう 備蓄米販売ルール改定 農水省2025年4月18日
-
主食用МA米の拡大国産米に影響 閣議了解と整合せず 江藤農相2025年4月18日
-
米産業のイノベーション競う 石川の「ひゃくまん穀」、秋田の「サキホコレ」もPR お米未来展2025年4月18日
-
「5%の賃上げ」広がりどこまで 2025年春闘〝後半戦〟へ 農産物価格にも影響か2025年4月18日
-
(431)不安定化の波及効果【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2025年4月18日
-
JA全農えひめ 直販ショップで「えひめ100みかんいよかん混合」などの飲料や柑橘、「アスパラ」など販売2025年4月18日
-
商品の力で産地応援 「ニッポンエール」詰合せ JA全農2025年4月18日
-
JA共済アプリの新機能「かぞく共有」の提供を開始 もしもにそなえて家族に契約情報を共有できる JA共済連2025年4月18日
-
地元産小粒大豆を原料に 直営工場で風味豊かな「やさと納豆」生産 JAやさと2025年4月18日
-
冬に咲く可憐な「啓翁桜」 日本一の産地から JAやまがた2025年4月18日
-
農林中金が使⽤するメールシステムに不正アクセス 第三者によるサイバー攻撃2025年4月18日
-
農水省「地域の食品産業ビジネス創出プロジェクト事業」23日まで申請受付 船井総研2025年4月18日
-
日本初のバイオ炭カンファレンス「GLOBAL BIOCHAR EXCHANGE 2025」に協賛 兼松2025年4月18日
-
森林価値の最大化に貢献 ISFCに加盟 日本製紙2025年4月18日