植物育成を活性化「グルタチオン」の実用化目指す (株)WAKU(ワク)(リード)【JAアクセラレーターがめざすもの】2024年9月17日
JAグループの資源をスタートアップ企業に提供し、農業や地域社会が抱える問題の解決をめざして新たなビジネスを協創するJAグループのオープンイノベーション活動である「JAアクセラレータープログラム」は今年度は第6期を迎え、9社が優秀賞に選ばれた。現在、JA全農、農林中金職員ら「伴走者」の支援を受けてビジネスプランのブラッシュアップをめざして活動をしている。今回は植物を活性化する「グルタチオン」の肥料活用などをめざしている(株)WAKU(ワク)を紹介する。
肥料や培地で活用を模索
「グルタチオン」というと、美白効果や肝臓の解毒を助けるなど抗酸化作用が有名だが、実は2000年頃の研究で、窒素肥料の1000分の1の量で光合成能力を大幅に向上させるなど、植物の成長全般に大きな影響を与える存在だということがわかってきた。
WAKUは2020年ごろ、このグルタチオンの効果を知り「農業や林業に広めたい」という思いから2022年7月に創業したスタートアップだ。現在は、グルタチオンの植物への効果を世界で初めて解明した岡山県生物化学研究所の小川健一博士と東京大学農学生命科学研究科の藤原徹教授と研究体制を組み、グルタチオンの肥料としての開発を進めている。
今回のJAアクセラレーターへの応募では、このグルタチオンを誰もが使いやすいようにと「グルタチオン培地」としてアピール。グルタチオンの育成効果に加え、籾殻や浄水ケーキといった廃棄物をアップサイクルして培地に加え、潅水・施肥の頻度を抑えられる生産性の良い育苗用培地として発表した。
(株)WAKU COO 片野田 大輝氏
このグルタチオン培地で、小花粉ヒノキ苗やコマツナ苗などを実験育成したところ、ココピート培地に比べ苗丈が3~5割ほど高くなるなどの結果が出ている。肥料の形では、林業分野でスギの苗育成に活用し、グルタチオン肥料によって苗1本あたり15円程度の費用削減が期待できるという。
グルタチオン培地を使った苗の育成の様子。成長速度が、ココピートより高いことがわかる
このように植物育成に期待がかかるグルタチオンだが、もちろん課題はある。同社COOの片野田大輝氏は、グルタチオンそのものの課題として「認知とコスト」があると述べる。
片野田氏によれば、農業関係者でグルタチオン効果を知っている人は「まだ、99.99%いない」そうで、「まず効果をしっかり認知してもらう必要がある」として、今グルタチオン肥料で植物を育成する「産地」を検討している。「ここの植物は、すべてグルタチオン肥料で育成している産地です、というリアルな事例を作りたい。この事例を一つずつ重ねれば点と点がつながって線になり、やがて農家の納得につながります」と産地づくりに期待する。
コスト面の課題は、現在のグルタチオンが1kgあたり4000円とかなり高価な点だ。使う量は少なくてすむので、苗1本あたりで比較するとさほど高価ではないが、他の肥料が1kgあたり数十円という現状では、「大きな課題」としており、大量生産を含めて生産過程を考慮した施策を検討中。
また片野田氏は、WAKUの創業メンバーの中に農業関係者が1人もいなかったことを課題として挙げた。「グルタチオンの素晴らしさは科学的事実として説明でき、最初の林業での実験でも好結果を得た。ですから、農業分野でもすんなり進められると思ったのですが、これが違った」という。
特に培地の件では、全農の資材部と話をしたときに「この培地は殺菌したのですか?」と言われ、初めて培地の殺菌について知った。「土に重金属などが入っていたら、訴訟問題になる場合もあると言われました。農業の方々が、こうした部分にすごく神経を使っていることを全く知らなかった」と片野田氏は語る。
そして最後は、農業におけるスタートアップの課題だ。ITやハイテク業界なら、早ければ半年ぐらいで結果が出るので、失敗しても早々に方向転換ができるが、農業は成果を得るために数年の覚悟が必要だ。
片野田氏も「農業を含め第一次産業は、時間がかかる部分は正直きつい」と言う。そのため「JAアクセラレーターの先輩達の活動を紹介する動画は全部見ました。先輩達が轍を作ってくれたので、我々はとても歩きやすい」と述べた。
それゆえ、同社が前進するにはJAアクセラレーターでの採択は欠かせないと判断、今年の業務目標に置いた。「採択のために、今は何をすれば良いかを逆算して運営しました」と振り返る。
外にも内にも課題は多いが、片野田氏は「グルタチオンが植物の世界でも広がったら、とても面白いことになる予感があります。そんな未来を想像すると、とってもワクワクできる」と述べて、これからの挑戦に意欲を見せた。
【伴走者のコメント】
グルタチオンの実証先や種子選別機器の市場などの調査中。長期的な連携を目指し、系統・系統外と広い視野で実施したい。苗木では森林組合や企業のいくつかの実証先が決定した。農産物は新しい領域のため、効果が期待できる作物のヒアリングなども実施中。
グルタチオン培地。培地にはサステナブルな成分を多用している
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(123) -改正食料・農業・農村基本法(9)-2024年12月21日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (40) 【防除学習帖】第279回2024年12月21日
-
農薬の正しい使い方(13)【今さら聞けない営農情報】第279回2024年12月21日
-
【2024年を振り返る】揺れた国の基 食と農を憂う(2)あってはならぬ 米騒動 JA松本ハイランド組合長 田中均氏2024年12月20日
-
【2025年本紙新年号】石破総理インタビュー 元日に掲載 「どうする? この国の進路」2024年12月20日
-
24年産米 11月相対取引価格 60kg2万3961円 前年同月比+57%2024年12月20日
-
鳥インフルエンザ 鹿児島県で今シーズン国内15例目2024年12月20日
-
【浜矩子が斬る! 日本経済】「稼ぐ力」の本当の意味 「もうける」は後の方2024年12月20日
-
(415)年齢差の認識【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年12月20日
-
11月の消費者物価指数 生鮮食品の高騰続く2024年12月20日
-
鳥インフル 英サフォーク州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年12月20日
-
カレーパン販売個数でギネス世界記録に挑戦 協同組合ネット北海道2024年12月20日
-
【農協時論】農協の責務―組合員の声拾う事業運営をぜひ 元JA富里市常務理事 仲野隆三氏2024年12月20日
-
農林中金がバローホールディングスとポジティブ・インパクト・ファイナンスの契約締結2024年12月20日
-
「全農みんなの子ども料理教室」目黒区で開催 JA全農2024年12月20日
-
国際協同組合年目前 生協コラボInstagramキャンペーン開始 パルシステム神奈川2024年12月20日
-
「防災・災害に関する全国都道府県別意識調査2024」こくみん共済 coop〈全労済〉2024年12月20日
-
もったいないから生まれた「本鶏だし」発売から7か月で販売数2万8000パック突破 エスビー食品2024年12月20日
-
800m離れた場所の温度がわかる 中継機能搭載「ワイヤレス温度計」発売 シンワ測定2024年12月20日
-
「キユーピーパスタソース総選挙」1位は「あえるパスタソース たらこ」2024年12月20日