食材製造の副産物から「マイコプロテイン」を生成 NoMy Japan合同会社 【JAアクセラレーターがめざすもの】2024年9月30日
JAグループの資源をスタートアップ企業に提供し、農業や地域社会が抱える問題の解決をめざして新たなビジネスを協創するJAグループのオープンイノベーション活動である「JAアクセラレータープログラム」は今年度は第6期を迎え、9社が優秀賞に選ばれた。現在、JA全農、農林中金職員ら「伴走者」の支援を受けてビジネスプランのブラッシュアップをめざして活動をしている。今回は食材製造の副産物の活用をめざすNoMy Japan合同会社をレポートする。
ノルウェーの発酵化学のリーディングカンパニー「Norwegian Mycelium AS」の日本法人「NoMy Japan合同会社」は、キノコの胞子から食用タンパク質「マイコプロテイン」を生成する企業だ。このほど北海道を拠点とする日本甜菜製糖株式会社と提携し、日本での本格的なマイコプロテインの製造に向けて研究開発を開始した。
NoMy Japan(合)共同創業者/新市場開拓 デビッド・アンドリュー・クイスト氏
マイコプロテインは、最近話題になっている代替タンパク質の一種で、菌体の胞子が成長して形成される高タンパク質の菌糸体バイオマスを、食用素材向けに工業的に培養したものだ(マイコプロテインは、菌糸体プロテインとも呼ばれる)。
胞子は発芽すると菌糸になるが、菌糸の周囲の有機物などを栄養分として取り込み生長し、真菌細胞のネットワークになったものが菌糸体バイオマスだ。NoMy Japan(以下、NoMy)は、食材等の製造過程で派生する排水などを主原料に、そこに菌を加える「真菌バイオマス発酵」という手法で、菌糸体を成長させ、マイコプロテインを製造する。
2020年にノルウェーで創業した後、戦略的に海外展開を検討し、2024年1月、札幌市にNoMy Japan合同会社を設立、同年4月にはスズラン印のグラニュー糖、上白糖で有名な日本甜菜製糖と提携するなど勢いがあるスタートアップだ。
NoMyの共同創業者/新市場開拓担当のデビッド・アンドリュー・クイスト氏は、例えばヨーグルトを1kg作ると9kgもの排水などの副産物が発生し、現状ではこの副産物を上手に処理する方法はなく、多くの生産者は有償で廃棄していると話し、「NoMyはそれを無駄にせず、資源として新しい製品の素材として使えないかと考え、副産物に含まれる栄養分を、菌の力を借りて新しいタンパク質の素材・原料に作り替えているのです」と手法を説明した。
他にも、マイコプロテインが注目されている理由として、菌糸体は生分解性を持つので、発泡スチロールをはじめとするプラスチックの代替材料といった形で循環経済に寄与できる点がある。
NoMyは、現在マイコプロテインの製造に注力しているが、クイスト氏は次のステップとして「焦点は食品用途。私たちのマイコプロテインが、どのように革新的な方法でさまざまな種類の食品に使うことができるか、食品メーカーと協力したいと思っています」という。マイコプロテインを、動物性タンパク質や他のタンパク質に置き換えられないかどうか、今は多様な方法を学んでいると述べた。
マイコプロテインを食品に活用したいNoMyだが、もともとはノルウェーの主力品である「サーモン養殖用の飼料」をターゲットにしていた。クイスト氏も「ノルウェーではサーモンの水産養殖用の飼料をサスティナブルに作ることを目指していました。しかしノルウェーの人口は500万人ぐらいなので、私たちの技術が及ぼせるインパクトは少ない。そこで日本での活動を通して、環境と食料の安全保障の観点で、より大きなインパクトを残し、人々に食品を届けることを考えました」と述べる。
日本甜菜製糖との提携に関しては、NoMyのバイオマス発酵の設備は、排水等の副産物が排出される場所の「近く」が、経済的にも環境的にも有利である点を挙げた。日本甜菜製糖は、北海道に53箇所もの製糖所や工場を有しており、NoMyにとっては願ってもないパートナーと言える。
日本甜菜製糖も同社のプレスリリースで「私たちの目標は、二酸化炭素吸収能力の高いテンサイを活用した新産業の創出です。砂糖の製造過程で発生する副産物を利用し、糸状菌タンパク質を食品資源として生産するNoMyの技術は大きな可能性を秘めています。この技術が農業の振興と食糧問題の解決に役立つと信じています。」(石栗秀社長)と期待する。
NoMyは、北海道の農業生産者とのつながりを求めて、今回のJAアクセラレーターに応募した。クイスト氏は、「大規模で大量の副産物を提供可能な農業生産者と接触でき協力できる、本当に素晴らしい機会だと考えました。今まで捨てていた副産物から新たな価値を引き出せれば、その利益を農家に還元することもできます」と農家にも大きなメリットを生み出せると話した。
【伴走者のコメント】
材料にする廃材の種類、費用の調査、成分分析のため施設を視察中。廃材に関しては、ホクレン馬鈴しょ加工施設とJAのでん粉加工施設を視察した。今後、乳製品加工施設を予定しており、分析はNoMyの研究所を予定している。
重要な記事
最新の記事
-
【令和6年度 鳥インフルエンザまとめ】2025年1月22日
-
【特殊報】チャ、植木類、果樹類にチュウゴクアミガサハゴロモ 農業被害を初めて確認 東京都2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(1)どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(2) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(3) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(4) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
禍禍(まがまが)しいMAGA【小松泰信・地方の眼力】2025年1月22日
-
鳥インフル 英イースト・サセックス州など4州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】消費者巻き込み前進を JAぎふ組合長 岩佐哲司氏2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】米も「三方よし」精神で JAグリーン近江組合長 大林 茂松氏2025年1月22日
-
京都府産食材にこだわった新メニュー、みのりカフェ京都ポルタ店がリニューアル JA全農京都2025年1月22日
-
ポンカンの出荷が最盛を迎える JA本渡五和2025年1月22日
-
【地域を診る】地域再生は資金循環策が筋 新たな発想での世代間、産業間の共同 京都橘大学教授 岡田知弘氏2025年1月22日
-
「全日本卓球選手権大会」開幕「ニッポンの食」で応援 JA全農2025年1月22日
-
焼き芋ブームの火付け役・茨城県行方市で初の「焼き芋サミット」2025年1月22日
-
農のあるくらし日野のエリアマネジメント「令和6年度現地研修会」開催2025年1月22日
-
1月の「ショートケーキの日」岐阜県産いちご「華かがり」登場 カフェコムサ2025年1月22日
-
「知識を育て、未来を耕す」自社メディア『そだてる。』運用開始 唐沢農機サービス2025年1月22日
-
「埼玉県農商工連携フェア」2月5日に開催 埼玉県2025年1月22日
-
「エネルギー基本計画」案で政府へ意見 省エネと再エネで脱炭素加速を パルシステム連合会2025年1月22日