廃棄漁具をナイロン繊維にアップサイクル amu(株)【JAアクセラレーターがめざすもの】2024年10月24日
JAグループの資源をスタートアップ企業に提供し、農業や地域社会が抱える問題の解決をめざして新たなビジネスを協創するJAグループのオープンイノベーション活動である「JAアクセラレータープログラム」は今年度は第6期を迎え、9社が優秀賞に選ばれた。現在、JA全農、農林中金職員ら「伴走者」の支援を受けてビジネスプランのブラッシュアップをめざして活動をしている。今回は産廃扱いだった漁網を回収、アップサイクルしてナイロン繊維や生地を製造するamu(株)を取材した。
amu(アム)は宮城県気仙沼で誕生した。
気仙沼は日本最大の遠洋マグロ基地局で、東日本大震災からの復興に向けて、amuCEOの加藤広大氏は、2015年ごろ気仙沼でボランティアに参加した。その時「あまりにもワールドワイドな漁師さんのパワフルな姿にとても惹かれたんです。そして復興に寄与できるよう、気仙沼で事業を起こしたい、グローバルに挑戦したいと強く思いました。それがamu設立のきっかけです」と話す。

amu(株)Founder & CEO 加藤広大氏
聞けば、漁師が使った漁網は、数年経つと産業廃棄物として費用を払って焼却処理してもらうと言う。海洋プラスチックゴミは、世界の環境問題にも絡んでいる課題だ。加藤氏はこの話を聞いて「あ!もったいない」と思い、廃棄される漁網のアップサイクルを思いつく。
当初、漁網からご当地スニーカーを作るというプランがあったが、徐々にプランを煮詰めていくと、漁網は、単一素材から作られていることが多く素材へのリサイクルに適していることや、一度に回収できる量が2トン近くと大量で、服やペットボトルに比べ回収費用が安価といったメリットがわかった。
現在は、廃棄する漁網の傷み具合によって、適したアップサイクルを実施している。傷みが少ない場合は、化学的に分解して再生する「ケミカルリサイクル」で、漁網から糸や繊維を製造している。こちらは、amuca(アムカ)というブランド名でアパレルブランドなどに販売する予定だ。
それなりの傷みが見られる場合は、漁網を細断、洗浄、溶かしてペレット状にする「マテリアルリサイクル」で対応する。ペレットは加熱すると自由に変形できるので、プラスチック成形に利用できる。傷みが大きい場合は、漁網を細断して固めてタイル状の「建材」にしている。こうしたamuの廃漁網回収は、宮城県気仙沼・塩釜市、山形県酒田市、山口県下関市、沖縄県那覇市・石垣市の6カ所で行われていて、他7か所と交渉中という 2024年8月時点)。
今回、JAアクセラレーターに応募した理由は、漁具同様、古い農具にもアップサイクル素材としての可能性があることだ。長芋栽培ネットやビニールハウスフィルム等について、漁具で利用した分別技術等が利用可能か検証を予定している。他には、佐川急便や日通などによる国内流通で、廃漁具回収のネットワーク構築の可能性調査を目指している。
リサイクルだけではない「価値作り」
現在は、集めた漁網が「生地になるところまで来た」と加藤氏は言い、その生地をアウトドアブランドやアパレルに紹介している最中で、今後はamuとしての特徴を際立たせたいと言う。その一つは先に紹介した「amuca 」(アムカ)ブランドの育成だ。

アップサイクルしたナイロン素材ブランド「amuca」。
海のサステナビリティに寄与するブランドと位置付ける予定
amucaは、化繊素材のトレーサビリティを取ることでリサイクルの証明ができるので、今後はWWCのFSC認証*のように、「海の環境保全」の認証にしたいと加藤氏は考えている。
※WWCのFSC認証:環境保全の点から見て適切に管理された森林や林産物の、責任ある調達に対して与えられる。FSCのマークが入った製品を買うことで世界の森林保全を応援できる。
もう一つは商品にストーリーを結びつけて新たな価値を作りたいという。最近は漁具由来のグッズ等が商品として出回っているが、そこに漁師が関わって、どんな思いから販売に至ったかという「商品に、人や土地柄を感じさせる、一気通貫のストーリーを商品に持たせたい」と加藤氏は強調する。
今回、農業関係者とのつながりも作れたことで、加藤氏は「本質的に『おいしい』という感情を生み出す人たちは、農業でも水産でも本当にかっこいいし、素晴らしいと思います」と語る。そして、出会った素晴らしい人のストーリーを、価値として広げていければ、最終的に生産者が作る生産物にも付加価値として反映されることをめざしたという。

漁網だけでなく、農業にもアップサイクルに適した素材は多い
【伴走者のコメント】
amuの廃材による新素材の提供先として、農林中央金庫やJA全農の関係部署に接触。各部署から担当先へ繋いでもらいレスポンスが増えつつある。今後は材料である廃材回収にも注力し、古くなった漁具・農具回収も進める予定。
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