AIやIoTを活用 データ駆動型の養殖へ (株)ストラウト【JAアクセラレーターがめざすもの】2024年10月25日
JAグループの資源をスタートアップ企業に提供し、農業や地域社会が抱える問題の解決をめざして新たなビジネスを協創するJAグループのオープンイノベーション活動である「JAアクセラレータープログラム」は今年度は第6期を迎え、9社が優秀賞に選ばれた。現在、JA全農、農林中金職員ら「伴走者」の支援を受けてビジネスプランのブラッシュアップをめざして活動をしている。今回はAIやIoTを活用したデータ駆動型の養殖をめざす(株)ストラウトを取材した。
(株)ストラウト 代表取締役社長 平林 馨氏
ストラウトは静岡県で養殖業を営む現役の水産業者だ。後継者不足など農業同様の課題がある水産業において、従来の養殖業の在り方に疑問を覚え、自ら培ってきた養殖の知見とAIやIoTの力を使って、今までの経験則だけでなく、データで判断を支援する「養殖DX(Digital Transformation)」を目指している。
ストラウトが提供する養殖DXシステムの名前は「UMIDaS(ウミダス)」。養殖場がある場所で、水温、溶存酸素量(水に溶けている酸素量)、塩分濃度、クロロフィル量などをIoTセンサーで測定し、そのデータと過去データの分析を掛け合わせて、養殖現場の状態を確認・予測したり、赤潮や魚病の兆候を予測したりするものだ。
海面養殖被害の原因としては、魚病と赤潮が以前から知られており、魚病の場合は、ぶり類で43億円(令和3年の1年、総生産額の約4%)、マダイで14億円(同年、約2.3%)が被害額として発表されており、赤潮では、2024年7月に、熊本・長崎・鹿児島県に接する八代海で総額28億円の被害が報告された。
ストラウト代表取締役社長の平林馨氏は「こうした被害は、気候変動や過密養殖などが原因とされており、世界的に被害は増加傾向にあるため、対策が必要」と説明する。
また赤潮や魚病などの被害がなかったとしても、「そもそも養殖は難しい」という。例えば、海面養殖場では、湾奥もしくは湾口のように同じ湾でも場所が違うと、微妙に異なる条件で魚を育成する必要があると言う。平林氏によれば、「湾奥と湾口では水温や溶存酸素量も異なるし、外海と接続する湾口では潮流などの変化による影響が大きい。一方で河川がある湾奥であれば、雨が降れば塩分濃度などに影響が生じる」といった相違点がある。
こうした相違点をリアルタイムに把握するには、センサーを多数設置することが望ましいが、多数設置すると、コスト、データ処理、またセンサー掃除の手間などが増え現実的ではない。そのために最もリスクが高いと考えられる場所にセンサーをピンポイントで設置して、限られたセンサーでも有意義なデータを取ることが大切で、「魚種や立地条件に応じたセンサーの選定や設置場所などのコンサルティングを通じて、適切なAI や IoTの活用を推進したい」と同社の養殖DXの目指す方向について説明した。
「UMIDaS」の概要。現場の様子や環境予測、魚病の早期検知など、養殖に必要なデータを入手できる
養殖ノウハウを「言語化」
養殖DXのアイデアは、2019年に平林氏が、富士宮のニジマス養殖を営む家業を引き継いだことがきっかけだ。継いだ当初に平林氏が痛感したのは、従来の養殖運営はほとんど現場の経験と勘と度胸で成立していたことだ。「経験や勘は、本当に研ぎ澄まされていました。でもそれはその人の長年の積み重ねによるもので、言語化が難しいんですね。そこを変えたいと思いました」と話す。
例えば養殖日報をデータ化し、数年分の水温や魚病発生時のデータとの相関関係を分析する。海であれば、潮の流れや河川の流入もパラメータとして取り込むなど、「細分化されたパターンを網羅できれば、養殖に適した条件や注意すべき点への対応ができる、つまり養殖ノウハウの言語化に近づくと思います」。
言語化ができれば、特別な経験や勘がなくても養殖が可能になる。先の富士宮のニジマス養殖や清水市三保で始めた海水陸上養殖も、データを用いた養殖が進んできたことで、すでに平林氏の手を離れ、スタッフだけでの運営が始まっており、さらに陸上だけでなく海面でのウミダス開発や利用に繋げることで、平林氏の目算が現実になり始めている。
湾といっても、少しの場所の違いが養殖条件を大きく変える。
ストラウトは、少ないセンサーで現実的なシステム運用をサポートする
JAアクセラレーターで課題解決
もちろんまだ課題は多い。その一つはIoTセンサー類だけで1台数百万円というハードウェアのコストだ。しかしJAアクセラレーターに採択されたことで、解決への道が見えてきた。「JAアクセラレーターのおかげで、水環境の定点観測技術を持っている会社と繋がりができました。相談したところウミダスにも使えそうなので、今協業の話を進めています」という。今までIoTセンサーは外部調達していたが、内製化ができればコストダウンも期待できる。JAアクセラレーターへの応募では、JFグループを始め多様な会社と繋がりを作ることが目的の一つだったので、平林氏も「思いがかなった」と語った。
他にもJAアクセラレーター経由で、AI技術に卓越しているスタートアップとの繋がりも生まれた。今はスタートアップ同士で体制を整え、各社の要素技術をどう組み合わせられるか検討中とのことだ。平林氏は「協業は大切で、JAアクセラレーターの伴走者やメンターから『この会社と組んだら、こういうソリューションを出せる』といった提案や紹介をいただけて、本当に感謝しています」と述べた。
【伴走者のコメント】
養殖業の現状と課題の整理からニーズを明確化し、ニーズに沿ったPoC先確保を目指す。現状「海面養殖業者との意見交換」「陸上養殖への現地視察、課題の抽出」を実施した。これらを踏まえ、提案のブラッシュアップを推進中。また協業可能な会社等も紹介。
重要な記事
最新の記事
-
シンとんぼ(119) -改正食料・農業・農村基本法(5)-2024年11月23日
-
みどり戦略対策に向けたIPM防除の実践 (36) 【防除学習帖】第275回2024年11月23日
-
農薬の正しい使い方(9)【今さら聞けない営農情報】第275回2024年11月23日
-
コメ作りを担うイタリア女性【イタリア通信】2024年11月23日
-
新しい内閣に期待する【原田 康・目明き千人】2024年11月23日
-
基本法施行後初の予算増確保へ JAグループ基本農政確立全国大会に4000人 生産者から切実な訴え2024年11月22日
-
「適正な価格形成」国関与で実効的に JA群馬中央会・林会長の意見表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
JAグループ重点要望実現に全力 森山自民党幹事長が表明 基本農政確立全国大会2024年11月22日
-
農林水産省 エン・ジャパンで「総合職」の公募開始2024年11月22日
-
鳥インフル 米モンタナ州、ワシントン州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
鳥インフル オランダからの生きた家きん等 輸入を一時停止 農水省2024年11月22日
-
11月29日「ノウフクの日」に制定 全国でイベント開催 農水省2024年11月22日
-
(411)「豚ホテル」の異なるベクトル【三石誠司・グローバルとローカル:世界は今】2024年11月22日
-
名産品のキャベツを身近に「キャベツ狩り選手権」開催 JA遠州中央2024年11月22日
-
無人で水田抑草「アイガモロボ」NEWGREENと資本業務提携 JA三井リース2024年11月22日
-
みのるダイニング名古屋店開業2周年「松阪牛ステーキ定食」特別価格で提供 JA全農2024年11月22日
-
【スマート農業の風】農業アプリと地図データと筆ポリゴン・eMAFF農地ナビ2024年11月22日
-
自動運転とコスト【消費者の目・花ちゃん】2024年11月22日
-
イチゴ優良苗の大量培養技術 埼玉農業大賞「革新的農業技術部門」で大賞受賞 第一実業2024年11月22日
-
「AGRIST Aiサミット 2024」産官学金オープンイノベーションで開催2024年11月22日