信用共済も営農・経済事業も勝機あり JA成長戦略をどう描くか 公認会計士・甲斐野新一郎氏2024年11月7日
新世紀JA研究会は10月31日、11月1日の両日、東京都内のJA東京アグリパークで秋季セミナーを開いた。講演した公認会計士の甲斐野新一郎氏は、JAをめぐる経営環境を分析し、信用・共済事業、営農・経済事業の伸びしろと成長への課題を提示した。
講演テーマは「JA中期経営計画の見直しに向けて~成長戦略の視点」。
甲斐野氏は全中に約30年勤め、農政、経営、監査を担当してきた。農協法改正の際、公認会計士の資格を取り、JAのコンサルや監査に携わっている。
多くのJAは3年に1度、JA大会の年に中期計画を見直す。中期計画が単年度の計画と違うのは、どういう方向性で事業を展開していくかと、それに伴って設備投資、要員配置をどうするかを決める点にある。
成長戦略と効率化戦略
戦略には、事業総利益を伸ばす成長戦略と、管理費を下げる効率化戦略とがある。過去3~5年、信用事業は効率化戦略を採り労働生産性を上げた。購買事業では生活事業からの撤退、店舗の再編で効率化が進んだ。共済は総じて右下がりだった。販売事業は総利益も労働生産性も右上がりだったが、その実感がない。右上がりになったのは価格が上がったからで量が増えていないからだ。
これをこれからどうしていくか。それを考える際に役立つのがPPM分析(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)による事業環境分析だ。「金のなる木」の利益を成長性ある「花形」や「問題児」に投資することで、収益増大につなげる。
信用・共済事業の成長戦略
デフレ脱却と日銀の金利政策見直しによって、信用事業を取り巻く環境は変わった。銀行にとっては儲ける機会が拡大し、「貯金が集まると普通に儲かる構造」に変わった。ところがJA、郵貯、地方金融機関は貯金を減らしている。相続によって、息子などが暮らす都市部の銀行に金融資産が移るからだ(相続流出)。
JAバンクは「強み」である対面相談機能を通じて貯金を確保することが課題で、貯金が増やせれば成長戦略を描ける。「相続が発生したらJAに相談に来てくれる」という体制をどう作るか。ここは伸びる可能性がある。住宅、小口ローンを中心に、貸出は今後も伸びしろがある。
保険業界では損保系の掛け金引き上げが話題になっている。JA共済は上げずに頑張っているので価格競争力があり、信用共済事業は成長に変わる転換点にある。
営農・経済事業の成長戦略
基幹的農業従事者は、今後大きく減っていく。その中で農業を維持するには生産性を引き上げるしかない。米・麦・大豆など土地利用型では、①農家の規模拡大、②農業法人の拡大、③農業サービス事業体(おもに農協)の拡大、と三つの方向がある。食料・農業・農村基本法は、スマート農業など新技術普及、農地の集積を通じて、特に②③の担い手を育成する方向を示している。
営農・経済事業は、農家だけを対象にしていれば縮小するしかないが、②③はマーケットとして大きく、対象にできれば成長軌道を描ける。「営農指導にしても、大規模経営体には農家とは違ったニーズがある。労務、会計も含めたサポートが求められる。農協は農業分野には競争優位性がある」と甲斐野氏は説いた。
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