【農協研究会】たい肥センター核に 放棄地再生も JA佐久浅間で農業戦略探る2024年11月29日
農業協同組合研究会(会長:谷口信和東大名誉教授)は11月13、14の両日、長野県のJA佐久浅間と佐久総合病院で2024年度現地研究会を開いた。初日はJA佐久浅間のたい肥センターや耕作放棄地を開墾し水田として復活させた現地などを訪問した。
現地視察の様子
たい肥のペレット化
たい肥の製造所
JA佐久浅間は、小諸市、佐久市、佐久穂町、軽井沢町、御代田町、立科町、東御市(旧北御牧村地区)の3市4町が管内で長野県の東の玄関口となっている。佐久平駅までは東京から新幹線で1時間の距離で都会からの移住も増えているという。現地では駅周辺にマンション建設が予定されていた。一方で山間部では過疎が進むというのが実態だ。
管内は野菜を中心として米、果樹、花き、きのこ、畜産など多彩な品目が生産されている。
同JAは地域農業振興に向けて「食と農で笑顔を育み、次世代へつなぐ地域をつくります」をテーマに2022年から26年までの長期ビジョンを実践している。
「持続可能な地域農業の実現と地域の多様なニーズに応え農業と地域の未来を創る」を基本方針に、重点的に取り組む15の事業をリーディングプロジェクトと位置づけている。
そのプロジェクトに地域資源を活用する「みどりの食料システム法基盤確立事業プロジェクト」と「生産資材新商材開発プロジェクト」がある。
ペレットたい肥の製造設備
その核となるのが同JA管内の望月地区にあるたい肥製造センターだ。家畜排せつ物処理法の施行により、同JAは2002年から佐久市のたい肥製造センターの運営を受託し、5戸の酪農家が飼養する200頭から出る排せつ物をたい肥に加工し販売してきた。他のたい肥化原料、副資材としてブロイラーふん、キノコ廃菌床、廃敷料、もみ殻などを利用し年間の総たい肥原料約4300tから約1800tのたい肥を製造して、ばらまたはペレットで約1400tを販売している。
ばらのたい肥は佐久市内の野菜団地に運搬されマニュアスプレッダーで散布されている。
一方、たい肥のペレット化は2022年に農水省がみどり戦略の基盤確立事業として全国で初めて認定され、ペレタイザーなどペレットたい肥の製造設備を導入した。施設の一角に製造施設を導入し、造粒機によってペレットたい肥が作られる。
造粒機でペレット化
この「もちづき有機」は無臭で手で散布できるため環境調和型農業への取り組みの広がりが期待される。
また、ここで製造されるたい肥を30%混合した指定混合肥料「望ちゃん」を委託製造して製品化、JA佐久浅間管内で活用促進を進め化学肥料の使用量低減を図る。これらの取り組みで肥料価格高騰への対策とするとともに、持続可能な農業をめざしてみどり戦略にも対応していく。
放棄地から新事業
耕作放棄地を復活させた水田
同JAはJA出資型法人による地域農業の下支え機能の発揮や外食産業との提携など多彩なプロジェクトも展開している。
現地研究会では同JAの出資型法人「グリーンフィールド」が農機メーカーの協力で耕作放棄地を復活させた軽井沢町内のほ場を視察した。
一面、アシに覆われていた水田のうち4haを復活させた。今では「つきあかり」を栽培し町内の学校給食に供給しているほか地域の酒造メーカーと契約した酒米栽培や大手農機メーカー、クボタがドローンによる湛水直はの試験ほ場として一部を活用するなど、地域内外の組織との「連携」をキーワードに農地を復活させた。グリーンフィールドはこのほか耕作放棄地で大麦やホップを栽培し、酒造メーカーと連携し、ビールやウイスキー製造に原料を供給している。
グリーンフィールドは1999年にジェイエイしらかばサービスとして設立され、2004年に現在の名称に変更した。
農家の高齢化と家族労働力が低下するなか、遊休農地の面積は年々拡大し組合員から農地の保全を求められきたことから同社を設立した。
2020年にはコロナ禍で受け入れ予定だった外国人技能実習生が来日できなくなった際、同社は加工業務用キャベツ栽培で収穫機を導入した。農水省の労働力不足の解消に向けたスマート農業実証に応募した採択された。同社は遊休農地を借り受けて多様な品目を栽培して農地を維持しているが、スマート農業の導入で作付面積の拡大も見込む。また、キャベツの収穫機を使って学生向けの農業講習を行うなど新規就農者確保にも貢献している。
ブドウ新品種初出荷
道の駅ヘルシーテラス佐久南
リーディングプロジェクトの一つであるブドウ栽培振興プロジェクトでは展示ほ場2カ所で「クイーンルージュ」を栽培、3年目のこの秋、初出荷をした。JAが指定管理者となっている「道の駅ヘルシーテラス佐久南」では現地視察の当日、1パック1880円で販売されていた。H字仕立てという栽培しやすい樹形で単価もいいことから生産者の期待も高まっている。
直売コーナーには生産者のこだわりの新米がずらり
シナノパール研究会ではスモモの栽培に取り組み、この夏に初出荷を迎えた。東京都内の高級青果店で一つ1000円で販売されたという。
そのほかGAPを取得したレタス栽培で大手ハンバーガーチェーン店への納入、10億円を超える販売額となった直売所運営などで生産者の経営安定、農業所得の増大などに貢献している。
一方で同JAは佐久総合病院との連携で有機農業の実践にも取り組んでいる。
髙栁利道組合長は「子どもたちの食の未来のために国消国産を進めよう」との横断幕に自らの姿を掲載して地域にアピール。「協同の叡智を結集して明るい未来を築いていきたい」と話した。
髙栁利道組合長
重要な記事
最新の記事
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(1)どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(2) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(3) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
【新年特集】2025国際協同組合年座談会「協同組合が築く持続可能な社会」(4) どうする?この国の進路2025年1月22日
-
鳥インフル 英イースト・サセックス州など4州からの生きた家きん、家きん肉等 輸入を一時停止 農水省2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】消費者巻き込み前進を JAぎふ組合長 岩佐哲司氏2025年1月22日
-
【JAトップ提言2025】米も「三方よし」精神で JAグリーン近江組合長 大林 茂松氏2025年1月22日
-
ポンカンの出荷が最盛を迎える JA本渡五和2025年1月22日
-
【地域を診る】地域再生は資金循環策が筋 新たな発想での世代間、産業間の共同 京都橘大学教授 岡田知弘氏2025年1月22日
-
「全日本卓球選手権大会」開幕「ニッポンの食」で応援 JA全農2025年1月22日
-
焼き芋ブームの火付け役・茨城県行方市で初の「焼き芋サミット」2025年1月22日
-
農のあるくらし日野のエリアマネジメント「令和6年度現地研修会」開催2025年1月22日
-
1月の「ショートケーキの日」岐阜県産いちご「華かがり」登場 カフェコムサ2025年1月22日
-
「知識を育て、未来を耕す」自社メディア『そだてる。』運用開始 唐沢農機サービス2025年1月22日
-
「埼玉県農商工連携フェア」2月5日に開催 埼玉県2025年1月22日
-
「エネルギー基本計画」案で政府へ意見 省エネと再エネで脱炭素加速を パルシステム連合会2025年1月22日
-
クミアイ化学工業と米国Valent社、水稲用除草剤エフィーダの米国開発で業務提携2025年1月22日
-
肉の日に合わせお得なアソート「冷凍モスライスバーガー 肉の日セット」登場 モスバーガー2025年1月22日
-
店舗、宅配ともに前年超え 12月度供給高速報 日本生協連2025年1月22日
-
地上部生長から育種ほ場のテンサイ糖収量を予測 農研機構×東京大学2025年1月22日