パーパスを実現する「地域」と「差別化」の意味 静岡で第4セッション【全中・JA経営ビジョンセミナー】(1)2025年1月24日
JA全中教育部は1月15、16日に静岡県で「JA経営ビジョンセミナー」の第4セッションを行った。フィールドワークとして、15日は浜松市でソースを生産・販売する鳥居食品、16日は掛川市で二宮尊徳の報徳思想を伝える大日本報徳社を訪問。今回のテーマに設定された「パーパスを実現する『地域』と『差別化』の意味」の議論を深めた。
セミナー参加者(大日本報徳社「大講堂」を背景に)
JA経営ビジョンセミナーはJA常務理事を対象に、様々な企業の経営に学ぶことで、経営ビジョンの構想とリーダーシップを発揮できる人材の育成を目的にしている。第4セッションには全国のJAから9人が参加した。コーディネーターは静岡県立大学の落合康裕教授、トータルコーディネーターは慶応義塾大学の奥村昭博名誉教授。
差別化戦略としての手間暇経営
鳥居食品 鳥居大資社長
鳥居食品は大正13年(1924年)創業で昨年100周年を迎え、ウスターソースなどの「トリイソース」で地元の静岡県内では知名度が高い。現在は3代目の鳥居大資社長が「日本で一番手間ひまかけたソース」で差別化戦略を進めており、廃業寸前から再生を遂げ、成長軌道に入っている。
国内のソース市場約700億円のうち、大手メーカーが約6割のシェアを占め、鳥居食品のような中小零細は全国100数社で4割程度。老朽化した設備を「手づくりに最適な環境、家内制手工業に」、成長が見込めない市場も「誰も手を出してこない、オンリーワンを目指せる」と逆手にとった戦略を進めている。
「トリイソース」は生の野菜を時間をかけて煮込む
大手企業の「短期=鮮度」の戦略に対しては「長期=熟成」を打ち出した。地元産の生野菜を中心に、自社工場で加工に時間をかけ、木桶で1カ月熟成させる。醸造酢も酒粕から発酵、熟成まで2カ月かけて自家生産する。従業員のアイデアも取り入れた商品開発にも積極的で、山椒を使ったソースやハバネロのソースなどを地元農家との協力で生産している。
木桶で1か月間の長期間熟成
売上高は2億2000万~2億3000万円で、販売は静岡県内のスーパーなどを中心に「まず地元で根付かせる」戦略をとり、県西部を中心に大半の店で取り扱われている。地元の食品メーカーも「トリイソース」を使った商品を展開している。価格は大手よりも高いが「県外では高質な店で取り扱われ」地元でのイメージが高まる「ブーメラン現象」もある。
今後の戦略は「垂直統合の深化」で、今年夏ごろには自社の「トリイソース食堂」を開業する。従業員が交代で調理や接客を担当することで、ソースの利用促進やニーズの把握にも役立てる。いずれはカツサンドや肉まん、たこ焼き、ジェラートなど専門店の展開も視野に入れている。
社員のアイデアや農家との協力で商品開発
「ローカル・マイクロ・ソース・ファクトリー」構想も検討している。遠方の農産地の地元野菜を使って「ソースなど小ロットの調味料を作るお手伝い」という構想だ。地元の契約農家以外に、北海道などからも野菜を仕入れているが、物流コストの高騰で採算が難しい。そこで、仕入れ先のJAなどに小さな工房を作り、特徴を生かした調味料開発で地域に貢献するという発想だ。
コーディネーター 落合康裕静岡県立大学教授落合教授
講演を受け、落合教授は鳥居食品の差別化戦略を①時間軸(短期=鮮度ではなく長期=熟成)を生かした付加価値②商品開発から販売マーケティンに至るまでの細部にわたるバリューチェーンの構築③県内(面)と県外(点)に分けた市場展開、と解説。これらを通じて「大手と対峙するためには、あらゆる部分に伏線を張る」ことの重要性を指摘した。奥村名誉教授は「(これまでのセッションの)共通項はイノベーション。破壊ではなく新しい社会価値を作ること」の重要性を指摘した。
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